第42話/黒のドレス


昼休み、爽真に誘われて外のベンチへやってきた。


「今日はここで食べよう!」

「あー、うん」

「座らないのかい?」

「外にある椅子とか、何付いてるか分からないだろ」

「なら、その手に持ってるビニール袋を敷いたら?」

「ナイスアイデア」


おにぎりと水を入れていたビニール袋をベンチに敷いて、食事をしながら爽真の話を聞いた。


「ハロウィンイベントだけど、エントリーしておいたよ!」

「ありがとう」

「それでパフォーマンスなんだけど、掃除機くんは四つん這いでいればいいから!」 

「それだけか?」

「うん! あとは僕が勝手にやるからさ!」

「そんなんで優勝できるのかよ。優勝前提で爽真の話に乗ったんだぞ」

「もうエントリーしたから言うけど、二回も振られてる男の作戦に乗るなんて、かなりのギャンブラーだよね」

「お前! 俺を騙したのか!?」

「騙してはないけど、優勝できる保証はないよ? 噂によると、和夏菜さんもエントリーしたそうじゃないか。強敵だよ」

「俺達は男人気を得なきゃいけないのに、朝宮は既に男女両方から人気あるしな。よし、エントリーを取り下げよう!」

「ダメだよ! 勝ち筋はあるんだ! 頑張ろうよ! 逆に言えば、和夏菜さん以外は意識しなくても勝てる可能性は高いんだし、人気投票以外で点数を稼げたら勝てる可能性はぐんと上がるんだよ?」

「勝てなかったら馬のコスプレでグラウンド十周な」

「君がかい? 物好きだね」

「お前がだよ!!」

「いいだろう! 勝てばいいんだし!」


どうしてそんなに自信あるのか、逆に不安になってきたわ。


そんなこんなで爽真と昼飯を食べていると、屋上に朝宮らしき姿が見えて眺めていると、次の瞬間、バッチリ目が合った。


「あれ朝宮じゃないか? なんで屋上なんかに」

「どこだい!? あっ! 和夏菜さーん!」


爽真が手を振ると、朝宮はそれを無視して姿を消した。


「嫌われてるんじゃねぇの?」

「そんなことないよ! そろそろ素直になる頃だと思ふっ!!」

「咲野!?」


いつの間にか爽真の背後にいた咲野は、腕で爽真の首を閉め、完全に落としてしまった。


「これでよし! それで一輝くん」

「な、なんだ?」

「和夏菜ちゃんに勝つ気でいるの?」

「い、いや? 爽真が勝手にそう言っただけだ」

「よかった! 万が一でも二人が優勝して和夏菜ちゃんの邪魔をしたら、分かってるよね?」

「爽真が両手両足の爪を差し出すって言ってた」

「うん! それならいいよ!」


ごめんな爽真。

俺は咲野の扱いに慣れてしまったらしい。


「でさ、一年生ももう後半だけど、和夏菜ちゃんとの関係は深まったりしてないの?」

「学校で変なこと聞くな」

「大丈夫! 爽真くんは気絶してるし!」


気絶させておいて、普通に会話できるのが怖いわ。

やっぱり咲野はクレイジーガール。


「なんもない。変わらずだ」

「ふーん。あっ、あの話は知ってる? しーちゃんの話!」

「島村がどうかしたのか?」

「なんか、前に和夏菜ちゃんに怒られたらしくてね、あれから新聞作りは続けてるけど、情報屋の活動は一切してないらしいよ」

「怒られたぐらいで、意外だな」

「来年まで武者修行するんだって」

「言っちゃったら武者修行にならないだろ」

「だよね! でも、来年までは一輝くんも平和かもね! いつも、しーちゃんの新聞がトラブルの元だったし」

「そうだな」


陽大が島村に近づくのも来年からだ。

来年はちょっと、忙しい年になるかもな。


「あと二ヶ月しかないけど、来年まで一瞬だよ! 心構えと、和夏菜ちゃんとパンツの準備しておいてね♡」

「和夏菜さんのパンツ!? どこだい!?」

「あ、起きた」

「大人しく死んでてねー♡」

「痛っ!!」

「あ、死んだ」


目を覚ました爽真は、咲野に後頭部を殴られ、また気絶してしまった。

もう、放置して教室に戻ろう。


「んじゃ咲野、俺は教室に戻るわ」

「うん! バイバーイ!」





そんなこんなでハロウィン当日。

朝宮は朝からリビングで衣装チェックをしていた。


「おぉ! 似合ってんじゃん!」

「本当ですか!?」


俺も素直に言ったけど、朝宮も随分と素直に喜ぶな。


朝宮は黒いドレスを着ていて、正直、今まで見てきた朝宮の中で、一番綺麗に感じた。


「うん、いいんじゃね? パフォーマンスはどうするんだ?」

「秘密です! でも、屋上でイメージトレーニングとかしたのでバッチリですよ!」


あの時、屋上に居た理由はそれか。


「楽しみにしておくわ。景品はなに選んだ?」

「秘密です!」

「何にも教えてくれないのかよ」

「でも、絶対ビックリしますよ!」

「期待しとく。俺は早めに行って学校でのんびりしとくから、朝飯は適当にコンビニで済ませろ」

「分かりました! 私も制服に着替えたら行きます!」

「おう」


朝宮より先に家を出て、学校に着いてすぐに男子更衣室へやってきた。


「おはよう! 早いね!」


爽真は煌びやかな王子様の仮装をして俺を待っていた。


「すげーな」

「優勝間違いなしだと思わないかい?」

「俺次第かな。俺の衣装は?」

「これだよ!」


茶色の上下のスウェットと、ただの馬の被り物という、めちゃくちゃ雑な衣装だった。


「わ、分かった。新品か?」

「新品だよ!」

「よし」


クソダサい衣装に着替えて、しばらく更衣室でのんびり時間を潰す。





昼になると、廊下が賑やかになってきた。


馬の格好で顔も隠れていることもあり、堂々と廊下に出ると、みんなが自由に様々な仮装をしていて、お菓子の交換をしながら楽しんでいた。


「エントリーする方は最終確認と、出番の順番と時間を確認しますので、体育館へ集まってください」


校内放送で集まるように言われ、体育館へやってくると、先に行っていた爽真が既に女子生徒に囲まれて、撮影会を開いていた。


朝宮はどこだ?

居るなら朝宮の周りにも人だかりができてるはずだけど。


体育館を見渡すと、黒いドレスを着た朝宮を見つけたが、ピエロのお面をつけていて、周りには誰も集まっていない。

あくまでも、朝宮ということは隠す感じか。





みんなが最終エントリーを済ませて、エントリーせずに見にきただけの生徒も体育館へ集まり、午後一時丁度に、ステージの幕が上がった。


幕が上がると、そこには楽器を持ったゾンビ達が座っていた。


「トップバッター! 吹奏楽部のみなさんです!」


ど迫力の仮装と演奏で、体育館に集まった全員が一瞬でステージに釘付けになる。


肝試しのクオリティーも凄かったけど、ハロウィンもエグいな。

てか、こんなパフォーマンスに勝てる気がしないんだけど‥‥‥。


レベルの高い演奏が終わると、吹奏楽部はステージ上から大量のお菓子を投げ、会場を盛り上げた。


二組目の陽大が四つ這いでステージ上を走り回っているのを苦笑いで見たあとすぐに、俺は爽真の元へ駆け寄った。


「おい爽真」

「ど、どうしたんだい?」

「吹奏楽部やばすぎるだろ」

「ま、まぁ? 大丈夫だよ」

「動揺してんじゃねぇよ! 本当に大丈夫なんだろうな」

「あ、あれよりは確実に」

「陽大と比べてホッとしてるのか? 俺は今から帰る!」

「待ってくれよ! 今帰られたら、僕はどうしたら!」

「一人でやれよ」

「ほ、ほら見てみなよ! 三組目だよ!」


ステージを見ると、顔を白く塗って、ちょんまげを黄緑に塗った島村がマイクを握っていた。


「‥‥‥カブです」


体育館が恐ろしいほどの沈黙に包まれたが、俺は割と嫌いじゃないぞ。おつかれ島村。


出る出ないは置いておいて、もう少し見ていくか。

どっちみち朝宮のは見たいしな。

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