第30話/素人JK


あれから毎日黒川と日向にちやほやされ続けて、その都度何故か朝宮の機嫌が悪くなり、意味も分からず毎回機嫌を取るのが大変だ。


そんなこんなで文化祭一週間前。

校内中が賑やかになり、A組では衣装の最終調整が行われている。


「一輝くん、サイズの最終調整したいから、ウエスト測らせて!」

「自分で測る」

「了解!」

「てか、俺ってなんのコスプレなんだ?」

「当日のお楽しみだよ!」


なんだそれ、不安でしかない。


その時、教室に男子生徒達の声が響いた。


「おー!!」


なにごとかと思えば、朝宮がコスプレ衣装を着て教室に戻って来たようだ。


「似合いますかね」

「すっごく可愛いよ!」

「俺、これを見るためにこの高校入ったんだ‥‥‥」

「最高だよ和夏奈さん!」

「ありがとうございます」


朝宮はヘソと太ももを露出した、モコモコのウサ耳のコスプレだ。

うん‥‥‥めっちゃ可愛い。

絶対本人には言わないけど、シンプルに可愛い。


「一輝!」

「ん? えっ」


陽大に話しかけられて振り向くと、陽大は豚のコスプレをしていた。



「似合う?」 

「そのコスプレ、誰が決めたんだ?」

「絵梨奈さん」

「完全にいじられてるだろ」

「でもどうかな? 似合うと思う?」

「なにがだ? 早くコスプレしろよ」

「一輝が一番いじってるじゃん!!」

「悪い悪い!」

「一輝くん! 見て見て!」


今日はよく話しかけられるな。

次は日向だ。


「おっ、いいじゃん」

「本当に!? 嬉しい!」


ペンギンの着ぐるみで、口から顔が見えているコスプレだが、なんかそれがすげー可愛い。

短足で手も短くていい!


「ま、待て」

「なに?」

「当日、その手でメニューとか運べるのか?」

「私はお客さんを案内する係だから!」

「そういうことか」

「うん! 絵梨奈なんて見てみなよ」

「ん?」


絵梨奈の席を見ると、そこにはゴツイ大仏が座っていた。


「ウエストサバ読んで、壮大に破けちゃったんだよ。それで店に売ってた大仏になった」

「惨めだな」


俺達の視線に気づいたのか、俺達の方を振り向いた絵梨奈は、大仏の被り物をしているせいでまったく顔が見えないが、その姿に思わず吹き出してしまった。


「ぶっ!!」

「おい! なに笑っとんじゃ!!」

「その見た目でこっち来るなよ! あはは!」

「また笑ったな! バチ当たるぞ! 拝め!」

「分かった分かった!」

「一輝くんを責めないで! ウエストのサイズ嘘ついたのが悪いんでしょ?」

「うるさいな!」

「あ、そうだ、俺もウエスト計んなきゃ」


さっさと自分のウエストを測って衣装班に伝えに行き、その際に朝宮をチラ見したが、朝宮はみんなに囲まれて、モフモフ露出うさぎとかいう可愛い度マックスな衣装を着ているのに、笑顔一つ無い。

本番でも愛想悪いだろうけど、大丈夫かな。


「掃除機くん!」

「次はなんだ」

「次は?」

「あ、いや、連続で話しかけられてたから」


爽真が浮いた風船を持って、浮かれた様子でA組へやってきた。


「そうなんだ! 試しに膨らませた風船欲しいかい?」

「いらん。朝宮にあげろよ」

「和夏菜さん? なっ!!」


爽真がコスプレをしている朝宮を見て固まってしまった。

朝宮はメデューサかなんかなのか。


「おーい陽大、爽真が立ったまま気絶してるから、B組に連れ帰ってくれ」

「みんな浮かれすぎだよ」

「豚のコスプレして言うな」


みんな、文化祭が楽しみで浮かれ気分だけど、俺からしたら不安要素が多すぎてな‥‥‥。

とにかくやることやってしまおう。


「朝宮」

「はい」

「中野先輩に頼まれてた仕事しに行くぞ」

「すぐ着替えてきます」 

「先に行ってるからな」 

「分かりました」


男子諸君、そんなに俺を睨まないでくれよ。

これは仕事なんだ。


俺は男子生徒に睨まれながら先に体育館へ移動して、照明チェックをしている中野先輩に声をかけた。


「遅くなりました」

「やっと来たか! みんなと準備するのも楽しいからしょうがないか!」

「すみません」

「全然構わないよ!」

「ありがとうございます。あれですよね、パイプ椅子を並べればいいんですよね?」

「うん! 頼むよ!」 

「うっす」


実行委員なんかにならなければ、教室でのんびりできたのにな。





途中から朝宮も合流してパイプ椅子を並び終えて、俺達二人は次の仕事、部活別で外で屋台をやるイベント用テントの安全確認を始めようとしている。


「イベント用テントは神社で作ったから分かるだろ?」

「はい」

「まぁ今回は作るんじゃなくて、柱一本一本を軽く揺らして強度確認と、紐がしっかり結ばれてるかの確認とかいう、各部活にやらせろよって感じの仕事だ」

「そうすると、面倒で多少はいいやっなる人達がいて危ないんですよ」

「そうだろうけど、給料出ないとやる気起きないなー。それに、一週間前からテント張ってどうするんだよ」

「神社でもそうだったじゃないですか。当日とか前日にバタつかないようにですよ。足りないパーツとかがあったら注文しなきゃですし」


どんなに怠けたことを言っても正論で返してきやがる‥‥‥。

怠ける気もなくなってくるわ。


さっそく点検を進めていると、咲野が脚立の上に座ってガムテープを伸ばしているのを見つけて声をかけてみることにした。


「なにしてんだ?」

「あぁ! 和夏菜ちゃんだ!」

「声かけたの俺なんだが? まぁいいけど」

「テントの屋根が不安定でね、ガムテープで止めてるところなんだよねー」

「咲野も実行委員だろ。安全性が認められないと、当日でもやらせてもらえなくなるって知ってるよな」

「そうだっけ?」

掃部かもんさん? 他の人の前で急に真面目ぶるのやめてもらえますか?」


それお前が言う!?!?!?!?

今日一の驚きだわ!

本当は今年一とか言いたいところだけど、朝宮には割と頻繁に驚かされるから無理だ。


「さっき真逆のこと言ってましたよね」

「あぁうん、はい、すみません」

「はい。テントは私達に任せてください」

「ダメだよ! 和夏菜ちゃんは私とホテルでゆっくりしよ!」

「言ってる意味がわかりません」

「保健室にする?♡」

「私は健康です」

「私が和夏菜ちゃんの全身を舐めるための場所だよ♡」

「そんな趣味はありません」 

「目覚めさせてあげるねー♡」


朝宮は咲野に腕を引っ張られてどこかへ行ってしまった。

絶対流れでサボる気だな。許せん。


朝宮には帰ってから文句を言うとして、このテントのことは三年生に言っとくか。


「一輝くーん! なにか手伝うことあるー?」


一人になってすぐ、日向がペンギンのコスプレのまま短い脚で走ってきて、目の前でバランスを崩し、そのままテント柱に激突してしまった。


「大丈夫か!?」

「いてて‥‥‥わっ、あっ! わぁー!」

「おいおいおい!」


その衝撃でテントは倒れてしまい、日向は青ざめた表情で俺を見つめた。


「ご、ごめん」

「大丈夫大丈夫。元々このテントだけ古かったみたいで、買い替えが必要だったから。古くなかったらバラバラになって倒れないし、固定される間接部分とかも緩んでたんだろ」

「それなら、桜城里さくらじょうり高校のものを持ってくるわ」

「二美ちゃん!? いつから居たの!?」

「今さっきよ」


まだ午前だというのに、黒川がやってきた。


「学校はどうしたんだ?」

「今日は二時間で終わったのよ。エリナに持ってこさせるわ」

「絵梨奈なら教室だけど」

「いつの間に来ていたの?」

「会う?」

「そうね。二人で一度戻って、イベントテントを持ってくるわ」


なんかこれ、絶対勘違いしてるな。


「そうだわ、掃部かもんくん」

「なんだ?」

「学校が終わったら、美味しいスイーツを食べに行きましょう」

「えっ」

「ちょ、ちょっと待って! 私と行こ! 全部奢る!」

「私も奢るつもりだから、先に言った私と行くのが普通よね」


そもそも行かないって選択肢は、黒川を怒らせそうで言い出せない。


「ん、んじゃ、ラーメン食べに行こ!  甘いのと、どっちがいい?」

「えっとー‥‥‥あっ、やらなきゃいけないこと思い出した!」

「ちょっと待ってよ!」


待たない!

やっぱりこういう時は逃げるのが一番!!


走って教室に戻ってきてから数分後、日向と黒川も教室へやってきて、俺をチラッと見た後、絵梨奈の目の前に立った。


「この大仏が絵梨奈だよ!」

「ちょっと絵梨奈、なんて格好しているのよ。一度戻るわよ」

「えっ?」

「ほら早く」

「え? え? え?」


絵梨奈は勘違いした黒川に手を引かれ、桜城里高校へと向かった。


「日向、黒川が言ってたエリナは、桜城里のハーフ副会長のことだぞ」

「そうだったの!? 連れていかれちゃったよ!」

「まぁ、あいつ大仏のコスプレ着てサボってたからいいだろ」

「それもそうだね! それで、スイーツとラーメン、どっちにするの?」

「文化祭で使う金取っておけ。なにか奢りたいなら、当日よろしく」

「う、うん! 私頑張る!」

「なにをだよ」

「いろいろ全部!」

「そうか‥‥‥」


文化祭当日で、俺のこの気持ちは変わったりするのかな。





一時間後、すっかり黒川にしごかれたのか、絵梨奈は大仏姿のまま頑張ってイベントテントの組み立てをしていた。


「組み立てまで悪いな」

「いいのよ。貴方の力になりたいもの」

「んじゃ、他のテントの点検手伝ってくれ。朝宮が連れていかれて帰ってこないんだ」

「もちろんよ」


演技とはいえ、あまり話したことがなかったから知らなかっただけなのか、思ったより優しいな。


「絵梨奈もお疲れさん」

「この会長、マジなんなの!? ムカつくんだけど!」

「まぁまぁ」

「人違いって分かっても手伝わされてるんだよ!?」

「そうやって動いてれば、ウエスト細くなるかもしれないぞ」

「はい、殺す」 

「待て待て! 来るな!」


絵梨奈は脚立を持ち上げて俺に迫ってきたが、次の瞬間、黒川が本気であろう蹴りを絵梨奈の腹に入れ、絵梨奈はその場にうずくまってしまった。


「掃部くんに手を出してみなさい。ウエストが細くなるまで脇腹を蹴ってあげるわよ」

「はい、申し訳ありません‥‥‥」


わーお‥‥‥。

ボッコボコの殴り合いが始まるかと思ったけど、さすがの絵梨奈でも黒川の怖さは理解してるみたいだな。

いいことだ。


「掃部くん大丈夫? 怪我はない? 保健室に行きましょう」

「何もされてないから大丈夫だって」

「この人になにかされたらすぐに私を呼んでちょうだい。文化祭が終わっても‥‥‥いつでも」

「お、おう」


なんで一瞬悲しそうな顔したんだ?

よく分からない奴だなと思ったけど、冷静になれば、俺の周りってよく分からない奴しか居なかったわ。





「あー、働いた働いた」


今日も一日頑張って帰宅してくると、一時間後ぐらいに朝宮が帰ってきた。


「はぁ‥‥‥今日は疲れました」

「途中からサボってただろ!」

「咲野さんにパンツ盗まれたんですよ!」

「はぁ!? んじゃ今って‥‥‥」

「ノーパンです!!」

「今すぐ履け!」

「でも外を歩いている時、いけないことしてるみたいでちょっと良かったです!」

「危険な性癖に目覚める前になんとかしような‥‥‥本当に、マジで‥‥‥」

「それより、私の下着を一万円で売るバイトをしていたそうですね」 

「売ってないからな!? そんな睨まないで!?」

「私も掃部かもんさんの下着を売るバイトを頼まれました」 

「売るなよ?」

「一枚二十円だったので、とりあえず一万円分履いて脱いでを繰り返してください!」

「なんか悲しくなってきたわ‥‥‥」

「私は一円も払いたくありませんけど」

「言わなくていいから! 俺が泣くとこ見たいか!?」

「興味はあります!」

「最低かよ」

「とにかく下着履いてきまっ!?」

「!?」


朝宮はテーブルの脚に足の指をぶつけて倒れてしまい、俺はすかさず目を逸らした。


あっぶねぇ!下着見るのとは訳が違うぞ!!


「み、見ましたね!!」

「見てない!!」

「なら、なに色か言ってみてください!!」

「はぁ!? パンツ履いてないのに、色ってなんだよ!」

「ピンクだったって言ってください!!」

「おい黙れ」

「まっ、パンツは取り返して履いてるんですけどね!」

「はぁー!? 俺をからかって楽しいか!!」

「楽しいです!!」

「マジでいつか一万で売ってやるからな」

「JKのパンツを売る男」

「急に犯罪臭ヤバい言い方すんなよ!」

「普通に犯罪ですけど」

「そ、そうですね」

「それじゃ、素人JKの私はお部屋でゲームしてきまーす!」

「変な言い方すんな!」

「間違いではないですけど」

「はい、そうですね」


そんなこんなで、素人JKとな絡みも終わり、忙しい毎日を送っているうちに、遂に文化祭当日を迎えた。

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