第28話/恋のライバルと女をダメにするバイブ


土日は朝宮とレンタルしてきたDVDで映画を見て過ごし、あっという間に月曜日になり、前半は普通授業で、後半から文化祭の準備が始まった。


「実行委員!」

「ん? なんだ?」


陽大とメニューのチェックをしていると、衣装班の女子が話しかけてきた。


「裁縫道具の追加ってできる?」

「あぁ、うん。買ったらレシートを朝宮に渡してくれ。委員長に金もらって返すから」

「金額の上限ってあるの?」

「えっとー、朝宮」

「はい?」

「文化祭で使っていい金額って決まってたか?」

「必ず必要なものなら、五千円を超えない限りは申請は必要ありません」

「さすが和夏菜ちゃん! ありがとう!」


俺にもありがとうを言え!!


「一輝」

「どうした」

「メニューもさ、実際に作ってみないと分からなくない?」

「んじゃ、放課後に調理室を使っていいか、クッキング部に聞いてみる。朝宮が」

「材料とかは? 先生に外出許可貰って、メニュー班で買いに行ってくれ」

「分かった!」


何でもかんでも聞かれるけど、案外やれてるな。

偉いぞ俺。





そんなこんなで文化祭の準備も順調に進み、あっという間に九月一日、放課後の会議へ向かう途中、朝宮が後ろから話しかけてきた。


「今日、桜城里さくらじょうり高校へ行きますよ」

「俺も行かなきゃダメか? やっぱり嫌なんだけど」

「そんなに私と会うのが嫌かしら」


黒川の声が聞こえて廊下を見渡すと、本間と一緒に静鐘高校の廊下を歩いていた。


「黒川!? なんで!?」

「私の方から来てあげたのよ。桜さんとも話さなきゃいけないですしね」

「日向と?」

「日向さんならもう帰りましたけど」

「なら、文化祭実行委員長と会わせてください」

「あぁ、んじゃついて来い」

「はい」


黒川達を連れて会議室にやってくると、みんな見ない顔に唖然としてしまった。


「爽真」

「どうしたんだい? こちらの方達は?」

桜城里さくらじょうり高校の会長と副会長だ」

「それはどうも! 文化祭実行委員長の高野爽真たかのそうまです!」

「お前高野っていうの!?」

「知らなかったの!?」

「それで、高野さんに何の用ですか?」

「和夏菜さん、前まで下の名前で呼んでくれてたよね‥‥‥」

「ところで貴方誰ですか?」

「二回も告白したのに忘れたのかい!? それに数秒前、高野さんって言ってたよね!?」


哀れな爽真はほっといて、黒川は本当になんで委員長に会いに来たんだ?


「貴方が委員長なんですね」

「はい!」

「私達二人が文化祭を全力でサポートします」

「いいんですか!?」

「この前、二人には情けない姿を見せてしまいましたし、掃部かもんくんにいろいろ言われてしまいましたので」

「掃除機くん、失礼なこと言ってないだろうね」

「久しぶりにその名前で呼ばれたな。さすがに名前知ってるだろうに」

「なんか慣れちゃったからさ!」

「あっそ。んで、サポートってなにしてくれるんだ?」

「コピーしたポスターを持ち帰って、学校に貼るわ。それと、宣伝用のチラシとかがあるなら街で配ってくるわよ?」

「無条件でか?」

「桜さんと貴方とで、三人で話す機会を設けてちょうだい」

「無理」

「私がセッティングしましょう」

「朝宮! お前なんなんだよ!」

「助かります」

「おい」


朝宮が事の解決を望んでるのは分かるけど、さすがに余計なお世話すぎる。


「中野先輩!」

「どうした?」

桜城里さくらじょうり高校の会長さんと副会長さんです! ポスターを貼ってくれるらしいので、コピーの用意してもらってもいいですか?」

「了解だ! わざわざありがとうございます」

「どういたしまして」

「一年生は金曜日にコピーしたチラシを袋にまとめてくれるかな!」

「はーい!」


その時、会議室の扉がノックされ、爽真が扉を開けた。


「はい」

「あっ! 爽真くん! 一輝くんいる?」


その声は日向そのものだった。

帰ったんじゃなかったのかよ!


俺はすかさず黒川を隠す様に扉の前に立った。


「ど、どうした?」

「しーちゃんが一輝くんが呼んでるって」

「島村が?」


嫌な予感がして周りを見渡すと、島村はいつの間にか会議室の中にいて、黒川達の写真を撮っていた。

これは、どこからか俺達の情報を手に入れて知ってた感じだな。


「それで、どうしたの?」

「い、いや! なんでもない! てか、帰ったんじゃなかったのか?」

「B組の手伝いしてたよ?」


朝宮を睨むと、朝宮はすごい速さで目を逸らしやがった。


「と、とにかくなんでもない。ごめんな」

「お久しぶりです桜さん」

「空気読めよ!」

二美つぐみちゃん!? どうしてここに!?」

「貴方に会いにきました。中学の頃のことを終わらせに」

「‥‥‥え?」


もうしょうがないか。話すしかない。


「日向」

「な、なに?」

「俺は黒川に、どうして日向が俺を振ったのかとか、いろいろ聞いた」

「‥‥‥そっか。いつか教えなきゃって思ってたからよかった!」

「場所を変えましょうか」

「そ、そうだな」


気を利かせた黒川に言われるがまま屋上にやって来たが、何故か島村と朝宮同伴なのが意味分からん。


しばらく沈黙が続き、文化祭の準備で賑やかな声と、部活の掛け声だけが聞こえてくる。


「それで、二美つぐみちゃんはどうして一輝くんに話したの?」


最初に切り出したのは日向だった。


「私なりの罪悪感よ。貴方が掃部かもんくんと付き合っていたことを知らずに、貴方に私の好きな人は掃部かもんくんだと話したこと。それで桜さんは別れを選んだのよね?」

「気づかれてたんだね」

「もちろんよ。私が怖かったの?」

「うん‥‥‥二美つぐみちゃんは、私の憧れでもあったけど、機嫌を損ねたら、もう仲良くしてくれないんじゃないかと思って‥‥‥」

「そういう生き方はやめなさい。私は好きで桜さんと一緒に居たのよ?」

「そうなの?」

「そうよ? だから、今からでも掃部かもんくんと寄りを戻して幸せになりなさい」

「え!?」

「おい、結局それが目的だろ」

掃部かもんくんは嫌なの? 貴方は桜さんを心から憎んだかもしれないけれど、桜さんも悪気は無かったのよ? 苦しみながら取った行動なのよ?」

「だったら俺と陽大が苦しんだのはしょうがないって言いたいのか?」

「それは違う! 私は悪いことをした! なのに今になって、また一輝くんとやり直したいとか思ってる‥‥‥自分勝手でごめんね‥‥‥」

「陽大にも謝れよ」

「うん‥‥‥」

「俺は許すからさ、マジで陽大だけには土下座してでも謝れ」

「本当‥‥‥? 許してくれるの?」

「うん」

「なら! 文化祭で私とデートしてください!」

「どうしてそうなるんだ!?」

「それから答えを出して! それでダメなら諦めるから」

「‥‥‥」

「それくらい良いんじゃない? 最終的に決めるのは掃部かもんくんなのですから、掃部くんにマイナスはないでしょ?」

「当日まで考えさせてくれ」

「うん! 待つ!」


どうしたらいいのかね‥‥‥。



***



少し離れた距離で三人の会話を聞いていた紫乃は、三人に聞こえない小さな声で和夏菜に聞いた。


「朝宮さんは何故ここに?」

「話が気になっただけです」

「そうですか。掃部かもんさん、取られちゃいますよ」

「私には関係ないです。なにも問題ないですよ」

「問題だと感じた時は情報屋として私を使ってくださいね」

「そんな日は来ません」

「そうですか。それ以外でも、気になることがあれば是非」

「なにか知りたいことがあれば聞きに行きます」

「お待ちしてます」


紫乃は校内に戻って行き、朝宮は静かに三人を見つめた。



***



「それにしても、掃部かもんくんはすっかり優秀だった面影がなくなってしまったわね」

「お前、本当に罪悪感消すつもりあんの?」

「あるわよ。でも本当のことよ? あんなに人気があって勉強もできたのに、崩れるのは一瞬ね」

「私的には人気なくて助かるよ!」


さらっと今は人気ない現実を叩きつけられたんだが‥‥‥。


「と、当時も人気あった自覚はないんだけど」

「爽やかで優しくて勉強もできる。女子生徒からは結構人気あったわよね?」

「あったあった! 噂してる子結構いたし! 今の爽真くんポジションだったよ?」

「爽真か、複雑なんだけど「 」

「高校生になって少しはマシになったのかしら」

「いや、まったく勉強してない」

「ダメね」

「優秀だからって好きになられても困る」

「わ、私は違うよ? 私は一輝くんの優しいところを見て、そ、その、好きになったから!」

「お、おおっ、俺にとって優しさはコンプレックスだ。とにかく、二人の話は終わったのか?」

「そうね。私は桜さんに自分の気持ちを大切にしてほしいの。それだけよ」

「わ、分かった」

「それと私は、貴方が憧れるような人じゃないわ」

「そんなことないよ! 二美ちゃんかっこいいし!」

「久しぶりに掃部かもんくんと会って、冷たく装いながらもドキドキしてしまった‥‥‥普通の女の子よ」

「えっ、お前マジかよ」

「文化祭までの期間、頻繁に静鐘高校に顔を出すから、その間、私は掃部かもんくんの心を手に入れてみせるわ」

「私とライバルってこと!?」

「そう。正々堂々やりましょうね」

「‥‥‥わ、分かった!」

「ちょ、ちょっと待て! 黒川は結局俺のことが好きなのか!?」

「落ちぶれたのなら私が元に戻してあげれば問題ないわ。そうは言っても、好きな人のことは甘やかしてしまいそうだけれどね」


なにその感じ‥‥‥ちょっとキュンとしちゃうじゃねーか。

てか俺、入学して以来のモテ期なんじゃ!?

うん、普通に困るわ。

あぁ、もうなんか、感情がぐちゃぐちゃだ。

俺は誰とも付き合いたくないし、信じたくもない。

でも、こんな可愛い子と美人さんに好かれること自体は、正直悪い気はしない。

中途半端のクズは俺か。


「私もいっぱい甘やかすから!」

「そっ、そっか」


とにかく話はめんどくさい結果になってしまったのは確実。

一度話を変えよう。


「本間はどこ行ったんだ?」

「多分空気を読んで、会議室で何か手伝っていると思うわよ?」

「なら、そろそろ戻るか」

「そうね」


一度会議室に戻ろうと廊下を歩いていると、既に話題になっているのか、朝宮クラスの美人黒川の登場に、男子生徒も女子生徒も、みんな教室から顔を出して見てくる。

マーメイドの中に迷い込んだナマコの気分だぜ。


そして会議室前に着くと、エリナと絵梨奈が意気投合していた。


「あっ、桜! どこ行ってたの?」

「ちょっとね!」

「エリナ、お友達ができたの?」

「はい。綺麗な金髪の染め方を聞かれていましたが、私の場合地毛なので」

「そう」


それから、日向は絵梨奈と一緒に帰って行き、黒川と本間は会議に参加して、今まで出なかった案などをポンポン出してみんなを驚かせ、今日の会議はかなり話が進んだ。





「ぬぁー!」

「なんですか? 変な声出して。出ちゃいました?」

「なにがだよ!」


今日も精神的に疲れまくって、帰って来ても何もやる気が起きなく、さっきからずっと水槽の前に椅子を持ってきて脱力している。


「それにしても掃部かもんさんって、優しくて人気者で勉強できる人だったんですね!」

「うるさい」

「それが今では、私がいないと勉強もできないダメ人間! 今日からオムツも変えてあげまちゅね!」

「そもそも履いてねぇよ!」

「それも怪しいですけど、とにかく、どんよりした関係じゃなくなったんじゃないですか?」

「日向とか?」

「はい!」

「まぁ、そうかもな」

「もしも掃部かもんさんに彼女ができたら、私はここを出て行きますから! 安心してくださいね!」

「そりゃいいことだな。部屋片付けてから出て行けよ?」

「そんなこと言って! 私を誰だと思ってるんですか!」

「掃除できないダメ人間」

「私達、ダメ人間同士ですね!」

「嬉しくねーよ!」

「さて! 今日はいい物が届いたんですよ! ちょっと待っててください!」


どうせまたろくなものじゃない。

そう思っていると、朝宮は二階から大きな赤い塊を持ってきた。


「なんだそれ」

「人をダメにするソファーです!」

「お前が一番買っちゃちゃダメだろ!」

「あと、女をダメにするバイブです!」

「なに買ってんの!? そんな物持つな!」

「普通に肩のマッサージ機ですよ?」

「分かるよ!? 分かるけど、もう一般常識としてそれはアレなグッズ認定されてるから!」

「まぁまぁ、あんあん」

「おい」

「まだ使ってないので、ちょっと肩に当ててみましょうか!」


朝宮は電動マッサージ機を椅子に座る俺の肩に当てて、マッサージを始めた。


「どうですか?」

「あぁ〜、めっちゃいい」

「気持ちいいですか?」

「かなり」 

「ほれほれ、ここが良いんじゃろ」

「最悪だわ! マジで変な用途で買ってないだろうな」

「これは未成年が唯一買える神のグッズです!」

「俺が寝静まった後に頼む‥‥‥」

「私は一人でしたことありません!! そもそもやり方をしりません!! なんか怖いですし!」

「嘘つくな!!」

「え? 本当ですけど」

「あ、そうなのね。なんかごめん」

「次は私に当ててください!」

「いいけど、朝宮専用の椅子に座れ」

「はい!」


一度リビングへ行き、次は俺が朝宮の肩をマッサージすることになったが、これを女に当てるのは、なかなかの経験だな‥‥‥。


「いくぞ」

「あぁ♡」

「変な声出すなよ!」

「そこそこぉ♡」

「声とろけさせんな!」

「もうちょっと右です」

「ここか?」

「あぁ‥‥‥掃部かもんさん下手くそですね」

「やめて!? なんか傷つく!」


肩のマッサージをしているだけなのに、何故か童貞心が傷つけられた‥‥‥。

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