クールな清楚系美少女なんて嘘だ!!アホ丸出し美少女が俺の家に住み着いてから毎日が地獄なんです!!

浜辺夜空

一年生編

地獄の訪れ

第1話/今日からここに住みます!


「おらおらおらおらー!!」

「よっ! 全自動掃除機!」


俺は極度の潔癖症せいで、朝一で教室を綺麗にしないと気が済まないのだ。

そして今も掃除の真っ最中で、恒例の茶化しを受けているが特に気にしない。

掃除をする中でも、特に自分の机と椅子は念入りに拭かないと気が済まない。

何故なら、隣の席の朝宮和夏菜あさみやわかなが原因だ。

黒く綺麗な長い髪に、大きな目に長いまつ毛。

スタイルも良くて、胸と太ももなんてパーフェクトな人物。

そう、朝宮あさみやはこの高校で一番の美少女と言われている人物だ。

もちろん女子からの人気も高く、放課後になると朝宮あさみやの周りにはいろんな生徒が集まる。

そうすると、俺の机に座る奴がいるんだ。

せめて椅子に座れよ!!

許せん!!と怒りを抑えながら、毎朝掃除をする。


こんな性格だから、俺は潔癖症になってからは女と無縁の人生を送ってきた。

それでも俺は結構楽しい。かもしれない。





学校に居る時間のうちで一番幸せな時間、お昼休みがやってきた。

いつも通り、中学の頃からの男友達、川島陽大かわしまようだいが俺の前の席に座って、俺の方を向く。


「今日もコンビニのおにぎり?」

「うん。料理できないし」


陽大ようだいは気を遣って、俺の机には指一本触れないで食事をする。

ぽっちゃりの大食いくんだけど、本当にいい奴だ。


「親は作ってくれないの?」

「うん」

「ご、ごめんね‥‥‥一輝いつきのお父さんとお母さん、亡くなってたんだったね」

「バリバリ生きてるわ!! 金と家置いて海外で仕事中だ。毎日連絡は来てる」

「なーんだ! ビックリしてハンバーガーが進むよ!」

「今日も意味分かんねーな」

「まぁまぁ!」


たわいもない会話をしながら食事をしていると、朝宮あさみやはいつものように弁当袋を持って教室を出て行った。

人気者だし他のクラスにお呼ばれでもしているんだろう。


さっさと昼飯を済ませて自分の机を拭いていると、急な尿意に襲われて体がブルッと震えた。


「ちょっとトイレ行ってくる」

「了解! 一輝いつきの席はちゃんと見張っておくよ!」

「助かるよ」


教室を出て、一人でトイレに向かって歩いている時だった。

朝宮あさみやが弁当袋を片手に、女子トイレから出てきたのを見てしまった。


嘘だろ‥‥‥。トイレでボッチ飯ってことか?

トイレで‥‥‥。


問題は人気者の清楚系美少女がボッチ飯をしていることじゃない。

トイレで食事とか、潔癖症の俺からすれば絶対に許せない行為だ。


「トイレで食ったのか?」


ビックリな光景のせいで、思いもよらないタイミングで、入学して約一ヶ月、初めて朝宮あさみやに声をかけてしまった。


「みんなうるさいので」


そう、表情を変えずに答えた。

特に驚くような返答でもない。

朝宮あさみやはいつもクールで、基本無表情だから、そう思っていても不思議じゃない。


「あぁ、毎日たかられてるもんな」

「ハエが集まる汚物みたいに言わないでくれますか?」

「そ、そういうつもりじゃなかったんだ。悪いな」

「別に怒ってませんよ?」

「そうか」


表情も喋り方もクールすぎて感情が読み取れず、あまり話していたくないと感じた俺は、さっさとトイレを済ませようと、それ以上話を続けずに朝宮あさみやとすれ違おうとしたが、朝宮あさみやは話を続けた。


掃部かもんさんは、他の方達とは違う気がします」

「なんだそりゃ」

「他の方とは、私を見る目や態度が違いますから」

「何言ってんだ。トイレ行くからじゃあな」

「はい」


朝宮あさみやの言っている意味が分からなかったが、あまり気にせずに用を済ませて、また陽大ようだいと話しているうちに昼休みも終わり、だるい午後の授業が始まった。


五月に咲くといわれる、校庭に植えられているラベンダーをボケーっと眺めて授業が終わるまでの時間を潰していると、筆箱の中を触るガチャガチャと耳障りな音が気になって横目で朝宮あさみやの方を確認する。

すると朝宮あさみやは、どうやら消しゴムを探しているようだった。


そしてクスクスと笑いながら朝宮あさみやを見る女子生徒が二人。

金髪ギャル系女子の、もうなんだか、あぁ、そういうタイプの人ねって感じが出ているのと、もう一人は中学の頃からずっと同じクラスの日向桜ひなたさくらだ。

日向ひなたに関しては目も合わせたくない、俺にとってあまり良くない存在だ。


それにしても朝宮あさみやは人気者だから、それを妬んで小さなイジメをする輩も一定数いるし、学校みたいに人が沢山居る場所じゃ当然だ。

でも、午前の授業は普通に受けていたし、あの二人に取られたのか。


いつまでも無い消しゴムを探す音で俺のサボりタイムを邪魔されるのは許せない。


俺は二人が目を離したのを確認して、朝宮あさみやの机には指一本触れないように、素早く自分の消しゴムを渡した。


「あ、ありがとうございます‥‥‥」


朝宮あさみやは急いで文字を消して、俺に消しゴムを返そうと手を伸ばしたが、人が使った消しゴムなんて潔癖症の俺が使えるわけもなく、周りに聞こえない程の小さな声で伝えた。


「いらん」


すると朝宮あさみやは、消しゴムを筆箱に仕舞って、真面目に授業を受け続けた。





放課後になると、いつも通り朝宮あさみやに女子生徒が集まり始め、俺は少し机を壁際に寄せてから、すぐに学校を出た。

窓際の一番後ろという神席なのに、こんな仕打ちあんまりだよ。


小石を蹴ったり、前を横切る猫を見ながらしばらく帰り道を歩いていると、背後からただならぬ気配を感じ、恐る恐る振り向いてみた。

すると、凄いスピードで走ってくる朝宮あさみやと目が合ってしまった。


「なんだ!?」


反射的に俺も逃げるように走ってしまい、そのまま自宅に向かったが、朝宮あさみやはずっと走って付いてくる。


「なんなんだよー!!」


家に着き、慌てて鍵を開けて中に入り、素早く鍵を閉めた次の瞬間、数え切れないほどのチャイム音が連続で鳴り響き、急いでリビングへ行ってインターホンのモニターを確認した。


「は、はい」

「開けてください」

「嫌です」

「どうしてですか?」

「怖いって!! いきなりなんなんだよ!!」

「なら出直します」


あっさり諦めてくれてよかったけど、恐怖心はまだ拭えない。

それに何の用なんだよ!まったく状況が理解できない。


朝宮あさみやが玄関前を離れたのを確認してモニターを消すと、またすぐにチャイムが鳴った。

嫌な予感がしてインターホンのモニターを確認すると、爽やかな笑みを浮かべた朝宮あさみやが映っていた。


「はい‥‥‥」

「こんにちは。貴方は神を信じますか?」

「尚更開けたくないセリフなんだが!?」

「開けて開けて開けて!」

「わ、分かったから!」


あの清楚でクールな朝宮あさみやが、子供のように駄々をこね始め、ご近所さんに見られたら恥ずかしいという思いから玄関を開けてしまった。


「わぁ! 綺麗にしてるんですね! なんか爽やかな匂いもします!」

「勝手に入んなよ!」


乱雑に靴を脱ぎ、勝手にリビングまで歩いて行ってしまった。


なにを考えているか分からない朝宮あさみやを刺激するのはまずいか。

犯罪者予備軍かもしれないしな。いやむしろ、勝手に入ってる時点で犯罪者だろ。


「いきなりなんの用だよ」

「決めました! 今日からここに住みます!」

「ごめん。言ってることが全然理解できない」

「今日からこの家に住むんです!」

「どうしてそうなるんだ!?」

「今朝ですね、家を出る時に、お母さんに二度と帰ってくるなって言われちゃいました。掃部かもんさんのご両親は死んだんですよね! 好都合です!」

「なにちゃっかり聞いてんだよ! あと生きてるって言っただろ!」

「なんだ、死んでないんですね!」

「せめて亡くなったって言葉使え! どっかに常識とデリカシー落としてきたのか!?」

「んー、なに言ってるんですか? それって落とせるものです?」


完全に俺をおちょくってる。

そうとしか考えられない。


「‥‥‥出て行け」

「困ります! 私はどこで生活すればいいんですか?」

「知るか!!」


そもそもこいつは本当にあの朝宮和夏菜あさみやわかなか?

学校とキャラが違いすぎる。


掃部かもんさんの部屋に行きましょう! さぁ、掃部かもんさんカモン!」

「さらっと寒いこと言ってんじゃねーよ‥‥‥」


朝宮あさみやはリビングを出て、一つ一つの部屋を見て周り、ズカズカと二階まで足を踏み入れていく。

そこら中ベタベタ触られて、さっきから全身に鳥肌が立ちっぱなしだ。


「さてはここが掃部かもんさんの部屋ですね!」

「どうだかな」


階段を上がってすぐの右側のドアノブに手をかけ、なんの遠慮もなく俺の部屋に入っていく。

朝宮あさみやが帰ったら全体的にアルコールで掃除だな。


「この部屋使っていいですか?」

「いや、帰れよ」

「住む場所が無い女子高生を見捨てるなんて、それでも大人ですか!」

「同級生だろ」

「消しゴムをくれたのは、私のことが好きだからじゃないんですか? 好きな子が一緒に住んでくれるんですよ? 嬉しいですよね!」

「俺は知っての通り潔癖症だからな、人に貸した消しゴムは使いたくない。ただそれだけだ」

「それじゃ、私のトキメキはどうなるんですか!」

「少女漫画みたいなトキメキ方してんじゃねぇよ!」

「今時の少女漫画はそんなトキメキ方しません! やることヤっちゃってます!」

「えっ、そうなの?」

「はい! 私の読んだものに限るかもしれませんが!」

「違う違う。そんな話どうでもいいんだ。早く帰れ! 俺は朝宮あさみやのこと好きでもなんでもないんだよ」


学校では常に無表情の朝宮あさみやが頬を膨らませて俺を睨みつけてくる。

まったく怖くはない。

むしろ可愛いとは思うけど、今は一刻も早く家を出ていってほしい。ただそれだけだ。


「ならいいです。帰ります」

「お、おう。じゃあな」

「明日みんなに、掃部かもんさんに酷いことされたって言いますね」

「へ?」


次の瞬間朝宮は、俺の部屋と俺自身を、携帯のカメラを使って連写した後、携帯をポケットにしまってしまった。


「これで私がここに居た証拠になります。さよなら」

「待て待て!!」

「なんですか?」

「ハニートラップがすぎるだろ!」

「私、掃部かもんさんに汚されちゃった‥‥‥」

「くっ‥‥‥」


こいつ、普通にヤバい女だ‥‥‥。

そんなことするやつだったとはな。

でも、今は朝宮あさみやに逆らわない方が身のためか。


「向かいの部屋‥‥‥母親の部屋だから」

「だからなんですか?」

「‥‥‥使えば‥‥‥いいんじゃね‥‥‥?」

掃部かもんさんは優しいですね! さぞかし初めての女の子の扱いも優しいことでしょう!」

「なに言ってんのお前」

「オシベとメシベが、あはん♡」

「黙れ」

「あはは!」


都合のいい笑顔に俺は決して惑わされない。

人は日々作り笑いの技術を磨く生き物だからな。

だから笑顔なんて信じないぞ!


とりあえず朝宮あさみやと一緒に、俺の部屋の向かいの部屋。母親の部屋へやって来たが、俺の両親は仕事でほとんどを海外で過ごすこともあり、部屋にはベッド一つ以外の家具は何も無い。

殺風景にも程がある部屋だ。


「このベッド使っていいんですか?」

「むしろそれ以外使うな」

「分かりました!」

「本当に分かってるのか? それと、住むなら条件がある」

「体ですか?」

「は?」

「家賃の代わりに私の体を好き勝手使うつもりですね!」

「俺がすると思うか!?」

「潔癖症だと、そういうのも無理なんですか?」

「指一本も触れたくない」


まぁ、性欲はしっかりあるんだけどな。だって男の子だもん!

それと潔癖症はまた別の話だ。

ただ人に触れたくないのは本当だから、シングルプレイに限るんだけどな。

俺が潔癖症じゃなくても状況は変わらないと思うけど。

あれ?なんか悲しくなってきた。


「なるほどです。足で痛ぶるんですね」

「そんな趣味もない! いいか? よく聞け」

「はい!」

「朝宮がこの家に住む条件その一は」

「了解しました!」

「聞けー!!!!」


朝宮あさみやは一ミリも俺の話を聞く気がないらしい。

いきなり家に来ておいてこの態度か。

朝宮あさみやが男なら絶対殴ってた。殴る度胸無いし触りたくないけど、きっと殴ってた!!





あまりに学校とキャラが違いすぎる朝宮に振り回されているうちに、あっという間に夜になってしまった。

もう、大声出しすぎて消費カロリーが半端ない気がする‥‥‥。

とにかく掃除‥‥‥。

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