from 花の名 あなたのカメラには、まだ私が写っていますか? 

第1話 格好良いな。けど、怖いかも。

遠野とうのネリネです」

その自己紹介で彼の名前を覚えなかった人はいなかっただろう。

だから、少し、教室がざわめいた。

(ネリネ?一体どんな意味だろう?)

”ネリネ”は、そんな事もう慣れっこ、と言った感じで、何事もなかったように、席に着いた。

ネリネを一言で言うなら、イケメン。

少し茶色みがかかったサラサラの髪の毛に、二重で栗色の瞳。整った輪郭。奇麗に通った鼻筋。普通より少し薄めのくちびる。

どれもこれも、羨ましいと思わない男子はいないだろう。

多分、この学年…イヤ、校内一の美男子かも知れない。

これは、クラスメイトだけでなく、学校中の女子が放っておかないな…、と南田桔梗みなみだききょうネリネが自己紹介している最中、思っていた。


桔梗は、この春、父親の仕事の関係で、この街に引っ越してきた。父親は公務員で、単身赴任は何度かあったけれど、幼い桔梗がその都度家族ごと引っ越すのが可哀想だと思ってくれていたらしく、高校に入学する今日まで、友達と何度も別れると言う経験はせずに済んだ。



高校生になったこの春、桔梗はかなり緊張して入学式を迎えた。知ってる友達が一人もいない、そんな高校生活が不安でない、と言ったらどうしたって嘘になる。

桔梗は本当に臆病で、引っ込み思案で、照れ屋だった。桔梗なんて派手な名前、似合わない…桔梗はいつもそう思っていた。



そんな私の個人情報より、ホームルームが終わった後の、教室が大変な騒ぎになっていた。

ネリネの周りにクラスメイトがこれでもか!と言わんばかりに、取り囲んでいたのだ。

しかし、そのネリネは、涼しい顔…と言うか、冷たい空気を纏って、

「うるさいな…。俺、鑑賞物じゃねぇから。他人と話するの嫌いなんだよ。名前が珍しいからってたかんなよ」

ふー…と深い溜息をついて、周りの空気を一気に凍りつかせた。

「なんだよ、あいつ…。感じ悪っ」

「なんかイケメンてだけで中身サイテーじゃん」


桔梗は、その様子を少し、

(ちょっと怖いな…ネリネ君て人…)

と思って見ていた。

しかし、臆病で、なんでも人に合わせてしまう所が、良くも悪くもある桔梗は、自分をしっかり持っているように見える、ネリネに、少し憧れを抱いた。



”自分を持っている”

その感覚は、正しかったに違いない。

ネリネの強さを支えていたのは、揺るがない”夢”にあったのだ。



そして、それは、憧れから、少し形を変えて行くことになる。

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