第8話 気恥ずい服と大ピンチ

「僕ちゃんよく似合っているじゃあないか。魔法少女の衣装。」

「うそ、俺いまどんな格好しているの。」

 変態男に言われて初めて意識する。生足と生腕を見せつける短い裾。今まで履いたことのなかったスカート。胸元のの大きなリボン。フリフリのアクセサリー。全体をピンク色と白で統一した、まるで女児向けアニメの主人公のコスプレ。髭を生やしたおっさんがするには絶対に似合わないないタイプの格好である。あのピンクの獣に乗せられてなんてことをしてしまったんだ。捨てきったはずの羞恥が体を焼く。鏡で何度か見るあの顔がこの服を着ている状況。気分が悪くなる上に嫌と言って差し支えのない程本当に恥かしい。

 変態が近づく悪寒がする。本能的に体をのけ反ると、魔人の腕がにゅっとでてくる。

「おや外したか。」

 良く言いよる。もう一発殴ろうとするが、さっきまでの豪快な動きが思うようにできない。恥ずかしくないと思い込もうにも、心の奥底が着替えを要求する。動きに全く集中できなくなってしまった。

「おやおや僕ちゃん。力に振り回されてるねえ。それともその恰好が恥ずかしいのかい?」

「口を閉じろスーツの下にハイレグタイツ。お前とは趣味が全然違うんだよ。」

「口だけは威勢が良いようだな。とうっ!」

 敵の姿が一瞬にして消える!左右に首を振るがどこにも姿は見えない。青みがかったとはいえまだ暗い時刻のせいか。

「ダークネス・ドレイン!」

 真後ろから声がする。先ほど聞いた思い出したくない言葉。首根っこを背中側からつかまれ、再び悪心が体を襲う。

「うわぁあああ、うぷっ、げえぇおrrrrrrr」


 △


「口ほどにもないな光の戦士。」

 夜間で視界が悪いとはいえ、開けた砂浜、1対1の戦いですら見失ってしまうとは情けない。球技で球を見失うことに等しく、その代償は失点である。ましてや舞台は暴力の支配する戦場。相手は上位魔人であるこの我。孵化したばかりの戦士には荷が重すぎる。先ほどは久々の戦闘で実力を見誤ったようだ。

「ックックック。どうだ辛かろう。吐いても吐いても収まらない悪心は!!」

「げえええええおrrrrrrrrrrr」

 嘔吐とは腹部の筋肉を強く動かし、誤嚥した毒物質を強引に排出する緊急防衛機構である。腹部筋肉のこの強力な収縮は、胃酸のダメージと共に内臓と筋肉を少なからず傷めつける。相手に嘔吐させる。単純な私の能力は消化器官をもつすべての動物に対して即座に絶大な威力を発揮する。それはすなわち消化液と消化物の強制的な逆流とともに体内部への攻撃を一気に行える。この能力と知能集めた情報のつながりとを合わせることによって我は上位魔人たるのだ。


 そろそろ限界だろう。目的は殺すことではない。彼を開放して足元にひざまづかせる。

「さあ、力なき勇者よ。変身を解いて降伏するがいい。」

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