第6話 偽る理由と輝く変身

「それだけは絶対に許さない。」


「なに!?日本中をゲロまみれにすることがそんなに悪だったかね!?」

 やべータイミングミスった。全然話わかんない。いやでもゲロまみれはダメだろ絵面的えづらてきに。

「ああそうさ。ただでさえ低い日本の労働力生産性をこれ以上低くされてたまるものか。それに日本中で二日酔いが続いてしまったら」

 絶対にミオの名前を口にしない。俺への精神攻撃が目的なら、ミオの名前を出すのは彼が痛めつけらる一番の理由になってしまうからだ。


「酒造メーカーの売り上げが落ちるだろう!!!」

「そこかね?!正義のヒーローの決め台詞それでいいのかね?!」


 変態の叫びを無視し、奴を打倒せんと教えられた呪文を唱える。

[あんげらうす かあるーす!びべ りくおれむ めんえだ みひ びるとぅーでむ さんくたむ!]

 こっ恥ずかしい叫びは、確かに反応を見せる。何とかミアの体が紅に輝き、同時に俺が落としたウィスキーのポケット瓶を浮き上がらせる。ひとりでに蓋が開き、瓶から浮き上がる輝く粒子がミアの体と合わさると、俺の視界が紅で埋め尽くされる。


 皮膚からしか届かない情報。今まで着ていた服が刹那繊維によじられ、再び服に織られていく不思議な感覚。体から延びる四肢は小さく、だが力強くなる感覚。髪が長く伸びて肩にかかり、さらに後頭部へと1つに留められる感覚。最後に、胴と顔が内側から熱を発し、皮膚の外側へ広がっていく感覚。驚きと期待、何より勇気が。かげっていた泥酔男の心に光差す。


「光の戦士の戦う理由がお酒でほんとにいいのかね?我心配しちゃう。」


 うるせえ。就職理由を心配する親戚のおじさんを真似る、あの変態を一泡吹かす。そう心に誓うと視界を覆う光は霧散する。唱えなければいけない最後の呪文。


「光の戦士、エンジェルキッス!酒に変わってぶちのめす!」

 恥と見聞は来る道で捨ててきた。さあ覚悟しやがれ変態男。

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