第42話「剣撃」

翌朝……午前4時30分。

昨日、「訓練開始をもう少し早く開始しろ!」とのベアトリスの希望により、

今日から、起床はこの時間だ。


昨夜のグレゴワールとの問答が尾を引いているのか、

ロゼールは心が、身体がひどく重かったが、気合を入れて起き上がる。


大きく息を吐くと、更に気合が入って来る。


私は大丈夫だ。


第三者の私などより、当事者のベアーテ様はもっと重いものを背負っている。


辛さ、苦しみは比較にならない!


これくらいで、弱音を吐いてどうする!


けして負けないぞ!


自身を叱咤激励しながら、ロゼールは革鎧に着替えた。


扉を開けると、両手で軽くぴしっ! と頬を叩き、気合を入れた。


よし!

行こう!

前向きに!


けしてくじけず、諦めず!

前に進んで行こう!


そう決めた!


昨日同様、ベアトリスの部屋の前に行き、


とんとんとんとんとん!


と、ノックした。


向こう側から人の気配を感じる。


「おはよう! ロゼ!」


ベアトリスであった。

既に起き出し、支度を終え、革鎧に身を固めていた。


眼が少し赤い。

しっかりと眠れていないようだ。


少し気になったが、ロゼールは昨日のようには落ち込まない。

落ち込むなど、己の器の小ささを、さらけ出してしまうようなものだ。


そんなロゼへ、ベアトリスは


「ロゼ。目の下に少しくまがあるわ。眠れなかったの?」


と、指摘。


目の下に少しくま?


自分も主と同じか?

そう苦笑する。


ベアトリスが言う。

ぐっと拳を握りしめている。


「ロゼ! 今日は剣で打ち合おうね!」


「はい! ベアーテ様、そういう気分ですよ!」


昨日はいろいろあった。


けれど……

ベアトリスと心の距離が縮まったのを、ロゼールは感じる。


ロゼールはこれまで散々、魔物どもと戦って来た。


しかしこれからベアトリスと臨む戦いは全く違う。


権謀術数渦巻く、上級貴族の世界。


己がこれまで知らなかった戦い……なのだ。


さてさて!

闘技場へ入ると、やはり若手の騎士達が大勢訓練に励んでいた。


ここでロゼールに、ひとつの提案が思い浮かぶ。


「ベアーテ様!」


「ん? なあに?」


「出来れば、訓練に励む彼らへ、ベアーテ様から先にご挨拶をしていただけませんか。喜ぶと思いますから、宜しくお願いします!」


「おお、良いわね! やりましょうか!」


そしてふたりは声を張り上げる。


「おはよう! みんな!」

「おはようございます! 皆さん!」


と、ベアトリス、ロゼールがあいさつすると、


騎士達は嬉しかったらしい。


すぐに大きな声で、挨拶が次々に戻って来る。


「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」

「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」

「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」


「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」

「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」

「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」


「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」

「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」

「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」


闘技場が、騎士達の挨拶の大合唱で覆われた。


そんな大きな声に包まれた先に、バジルが笑顔で待っていた。


「おはようございます! ベアトリス様!」


「おはよう! バジル!」


「おはようございます! ロゼ様!」


「おはようございます! バジル殿!」


「では、おふたかた、昨日は組手だけとなりましたから、今朝はストレッチと軽くランニングををした後、剣の模擬戦をやりましょう」


待ってました!

と、ばかりにロゼールとベアトリスは顔を見合わせ、頷いた。


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


ロゼールとベアトリスは無心に剣を振り、打ち合う。


金属の刃同士がぶつかり合う、剣撃の音が闘技場に響き渡る。


まずはバジルとベアトリス。


次にロゼールとバジル。


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


最後にロゼールとベアトリスが打ち合って行く。


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


そんな3人の訓練を見て、騎士達も気合を入れ、剣の模擬戦を行う。


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


活気あふれる闘技場。


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


と、そこへ……

姿を見せたのは、何と!


ベアトリスの弟アロイスである。


アロイスが現れ、ベアトリスは少々驚いている。


「姉上、私も練習に入れて頂いても構わないでしょうか?」


「ああ、構わないよ」


ロゼールが聞いたところによれば、

アロイスはあまり剣が得意ではなく、練習もあまりしていないらしい。


まずは、ベアトリスが相手をする。


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


次にロゼールが、アロイスと打ち合う。


さすがに手加減をしないと、ケガをしてしまうから、注意しながら打ち合う。


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!

きぃん! きぃん! きぃん! きぃん! きぃん!


双方が10分ずつ打ち合っただろうか。


「姉上、ロゼ! き、気持ちいいな! 明日の朝も宜しくお願いします!」


そう言ったアロイスの目は、やる気に満ちて、

きらきら輝いていたのである。

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騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました! 東導 号 @todogo

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