第37話「ロゼ! 私は忙しいのよ」

朝食が済み……

しばしの休憩の後、支度をし、ロゼールとベアトリスは外出した。


護衛は……ベアトリスとともに客室に乗り込むロゼールと、

えり抜きの騎馬の騎士が3人。

この3人もロゼールが推薦する形で選ばれた。

御者は武技の達人の元騎士。

それで計5人となった。


護衛は極端に少なくなり、反対する者も居た。


しかし……

ベアトリスが強硬に主張。


「従来の、その他大勢的な約20人の騎士同行は大仰だから、絶対に嫌!」


と、きっぱり断ったのである。


服装は護衛をするロゼールは革鎧、ベアトリスはシックなドレス、である。


ふたりは、ベアトリスの専用馬車へ乗り込み、

御者が合図をすると、馬車は動き出した。


客車内で、向かい合うふたり。


ロゼールは行き先を聞いていない。

というか、確認したが、ベアトリスは教えてくれない。


仕方なく、ロゼールは再び尋ねる。


「ええっと、何度もお聞きして申し訳ありませんが、ベアーテ様はどこへお出かけになるのですか?」


「さあ、どこでしょう? 当ててみて」


やはり、ベアトリスは、ロゼールを焦らすように教えてくれない。


ロゼールは淡々と言葉を戻す。


「そうおっしゃっても、ロゼには皆目見当が付きません」


「そうお? じゃあ、大ヒント! 私とロゼ、貴女に関係があるところよ」


「ヒント……私とベアーテ様に関係がある場所」


ベアトリスから、ようやく大ヒントを貰い、ロゼールは考え込む。


自分とベアトリスの接点は、ラパン修道院のみである。

しかし、改革は既に為された。

その後は順調だと聞いている。


ただ今後、赴く必要はないとは言えない。

でも、今すぐ大至急で行く必要もない。


となれば……答えは。


ロゼールは、消去法で行きついた答えを返してみる。


「創世神教会との兼ね合い、ラパン修道院改革のご報告、行き先は……教皇様と枢機卿様のお屋敷でしょうか?」


「半分あったりぃ!」


半分?

当たり?


どういう意味なのだろうか?


ロゼールは戸惑いながら尋ねてみる。


「え? 半分? それって……」 


対して、ベアトリスはにんまり。


当たらずとも遠からずという顔付きで言い放つ。


「行き先はね、創世神教会本部! 今回のラパン修道院改革の最終報告に行くのよ! 教皇様と枢機卿様のおふたりと一緒に会うわ。1回で済むし! その方が効率的でしょ?」


ベアトリスはまさに規格外。

教皇様と枢機卿様のおふたりと一緒に会う!?

その方が効率的!?


理屈から言えば、確かにそうなのだが……


「ベアーテ様!」


「うふふ、なあに?」


「教皇様と枢機卿様のおふたりと一緒に会うのが1回で済んで、効率的って、ええっと……両名様ともとんでもない地位の方ですが……」


驚きながら、ロゼールが言えば、ベアトリスは「何言ってるの?」という表情だ。


「ロゼ! 私は忙しいのよ。いくらお偉いさんでも、ひとつの同じ案件なのに、別々に会ってられないわあ」


ベアトリスの言う事は、道理なのだが……


「はああ、分かりました。但し、出来ればですが、今後は事前にご予定を教えて頂ければと思います。私の仕事の範疇はんちゅうには、ベアーテ様のスケジュール管理もあるでしょうから」


ロゼールがやれやれという感じでいさめれば、


「うふふ、その通り! 私のスケジュールの管理と調整は、今後ロゼに頼むつもりよ! ごめんねえ」


意外にもベアトリスは素直に謝罪したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


創世神教会本部……


世界宗教たる創世神教会の本部であり、王国各地の教会を統括。

聖地とのやりとりをしている場所だ。


テンプル騎士団という、創世神教会専属の騎士団が警備にあたっている。


入り口でも、テンプル騎士団の女子騎士による厳重なチェックがあった。


少し不機嫌そうな表情になったベアトリスであったが……

さすがにここでは暴れたり、怒ったりはしない。


そうこうしているうちに、ロゼールとベアトリスは、テンプル騎士団女子騎士にいざなわれ、創世神教会本部の応接室へ通された。


応接室には、教皇と枢機卿が待っており、笑顔であった。

満面の笑みと言っても良い。

年齢は教皇が70代後半、枢機卿が70代前半。

ふたりから見れば、ベアトリスは孫のようなものであろう。


挨拶が終わり、紹介もされた。


なので、頃合いと見たロゼールは、

テンプル騎士団女子騎士とともに控え室へ下がろうとした。


だが、ベアトリスは同席を命じた。


報告が始まった!


老齢の教皇と枢機卿は良い意味で、

ベアトリスをとても可愛がっているように見えた。


失礼ながら、ベアトリスは、『じじ転がし』が抜群かもしれないと思ってしまう。


時たま、ベアトリスは、ロゼールに確認と補足説明のフォローを求めた。


ラパン修道院の改革に関しては、ベアトリスとじっくり行ったので、

ロゼールは上手く話す事が出来た。


そんなこんなで、報告は無事終わった。


挨拶をして、再び馬車に乗り込んだロゼールとベアトリス。


報告は終わったが、その次にも、どこかへ赴く雰囲気である。


ここも確認が必要だろう。


「ベアーテ様、次はどこへ、行かれるのですか?」


ロゼールが尋ねると、


「うふふ、ある所へ、勝利宣言をしに行くの!」


「ある所へ? 勝利宣言?」


「ええ、ノーアポだけど、私のお友だちのところへ行く。ロゼの事も自慢したいしね」


ベアトリスはそう言うと、何かを含んだかの如く、

「うふふ」といたずらっぽく笑ったのである。

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