騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!

東導 号

第1話プロローグ「無理やりセッティングのお見合い決裂!」

新連載です!


本日12月19日、時間差で第5話まで更新致します。

※第5話は12月19日19時更新の予定です。

何卒宜しくお願い致します。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ここは剣と魔法の世界、

レサン王国王都グラン・ベール郊外の原野……


数日前に、魔物オークの群れが出たと報告が入り……

討伐の為、王国騎士隊50名が騎馬で出撃した。


騎士隊が、騎馬で原野へ赴くと……

報告通り、人喰いオークの群れが出現した。

数は約100体。


騎士団長は、麾下の騎士達に突撃命令を下した。


「全員突撃! 奴らを一気に討ち取れ!」


「「「「「おおおおおおおおおっっ!!!」」」」」


ときの声を上げた騎士達は、馬を走らせる。


ドドドドドドドドド!!!


50の騎馬が全速で疾走する!


しかし!

あっという間に!

ひとりの騎士だけが抜きん出て、騎馬1頭が、オークの群れに突っ込んだ。


馬上の騎士は槍を振るい、オークどもをガンガン討ち取って行く……


「おお、さすがだぞ! 我が隊の無敵、無双のエース、ロゼール!」


騎士隊の隊長は感嘆し、大声で叫んだ。


抜きん出たこの騎士は……女傑じょけつ

そして無敵、無双のエースとうたわれる、

ロゼール・ブランシュ、この物語の主人公である。


結局、この日、オークは全てが討伐され……

『エース』のロゼールはたったひとりで、

出現したオークの半分50体余を討ち取ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


騎士隊がオークを討伐してから、1週間後の休日……


と、ある広大な庭園付きの高級レストランを貸し切り……

『貴族同士のお見合い』が行われていた。


家族同士の会食が済み、周囲が気を利かせたのか、

当時者の女子と男子が、ふたりきりで庭園を散策していた。


改めて紹介しよう。

この女子が、オークを50体討伐したこの物語の主人公、

ブランシュ男爵家のひとり娘、

凛とした顔立ちをした栗毛の女子ロゼール、文武両道、才色兼備の20歳である。


そして見合い相手の男子は、いかにも貴族の息子といった、

おぼっちゃま風ボンボン、バスチエ男爵家の次男、エタン23歳。


……実は、ふたりは王国騎士。

更に同じ騎士隊の後輩、先輩である。


で、あれば、この見合いがもしも上手く行けば職場結婚……

という事になるのだが、ふたりにそんな雰囲気は全くない。


互いに3m以上離れて歩き、視線も合わせず、ず~っとそっぽを向いていた。


エタンが視線を合わさないまま、話しかける。


「おい、ロゼール」


対して、ロゼールもそっぽを向いたまま、言葉を戻す。


「なあに、先輩」


「なあに、ではない。何でひと言もしゃべらないんだ?」


「先輩だって同じですよ」


「何だと! 君のお父上から、どうしても、と我が父が頼まれて、やむなく今日のこの場をセッティングしたのだぞ」


「みたいですね」


「ふん! 少しは、分かっているみたいだな! で、あれば! もう少し愛想良くしたらどうなのだ? 見合いにのぞむ女子の態度とは到底思えんぞ」


「うふふふふ」


「な、何が可笑おかしい?」


「だって、お互い様……じゃないですか? この状態」


確かにロゼールの言う通りである。

互いに離れて、そっぽを向いているのだから。


しかし!

エタンはとんでもない理屈を振りかざす。


「な、何だと! 何がお互い様だ! 男は度胸どきょう、女は愛敬あいきょうというだろうが!」


対して、ロゼールは苦笑し、首を横へ振る。


「あはは、今時そんな言葉は死語です。流行はやりませんって。先輩が不機嫌なのは、ちゃんと理由があるからでしょ?」


ロゼールの突っ込みに対し、エタンは言葉が出ず口ごもる。


「う!」


「うふふ、反論出来ないのはよっく分かりますよ! 私と先輩との試合は、練習公式含め、馬上槍試合ジョストが私の30勝0敗。剣の試合も私の60勝0敗。格闘試合がこれまた私の80勝0敗。その他もろもろも、私の全勝ですからね」


何と! ロゼールは全ての武技の試合に関し、エタンに圧勝していた。


ロゼールの話は事実に違いない。

相変わらず、エタンは言葉がなく、唸るのみだから。


「むむむむ~!!」


「それと私、騎士隊内で、たくさんの人から聞きましたよ」


「何をだ? 何を聞いた?」


「先輩って、私が居ない時、いつも言っているそうですね。ロゼール・ブランシュは強すぎる。無表情で魔物を倒し、先輩にも同輩にも後輩にも容赦なく勝ちまくる。 男勝りで可愛げが全然ないって」


エタンは、負けた腹いせに職場でロゼールの陰口まで言っていた。

こそこそ陰口を言うなど騎士の風上にもおけない。

普通は恥じ入るものである。


しかし、エタンは何と! 開き直った。


「なに~! 全て事実だろうがあ!」


「じゃあ、先輩。言っている事は認めるのですね?」


「あ、ああ、認める! 確かに言っているよ!」


「そういう陰口は一切やめて、私へ直接、はっきりと言ってください。私ロゼールは、先輩よりも遥かに強い。加えて可愛げがない女子だって」


「ああ、言ってやる! ロゼール! お前は強すぎる。誰にも遠慮なしで勝ちやがって、全く可愛げがない女子だ!」 


「うふふ、私は『褒め言葉だ』と、とっておきますよ。でも、そんな女子と結婚するのは、男の誇りが許さない。でしょ? 先輩は」


「ぬおおっ!」


「でもね。私だって、かよわいお前をがっつり守ってやる! と言って貰えるくらい、強い男子を夫君にしたいのですよっ!」


ガンガンやり込められ……

遂に、エタンは支えきれず、『敗走』する。


「う、うるさいっ! だ、黙れ!」


「あははっ! 黙れなんて、反論出来ず、完全に思考停止しましたか?」


「くううっ!!」


「でもそちらへ頼み込んで、このお見合いをセッティングしたくれた父の顔を立て、私も譲歩致しましょう」


「な、何、譲歩だと?」


「はあい! 譲歩でぇす」


「な、何だ! 条件でもあるのか! 言ってみろ!」


「はあい! もしも! もしもですよ! 馬上槍試合ジョストか、剣の模擬試合で一回でも私に勝ったら、せめて先輩との『お付き合いだけ』、検討しても構わないですよぉ」


もしも私に一回でも勝ったら、

せめて先輩との『お付き合いだけ』、検討しても構わない……


ロゼールの挑発的な物言い。

「はっきり言って、あんたみたいな、こそこそ陰口を叩くような相手とは絶対に結婚したくないわ!」

というロゼールの『意思表示』である。


それが分かったのか、分からないのか、エタンはぶち切れる。


「くわっ! 上から目線で言いやがって! 馬鹿にするな! これ以上、こんな不毛なイベントをやっていられるか! 茶番は終わりだ! 俺は帰るぞっ!」


「ああ、良かったあ! 父が無理やり、そちらの家へ、お願いしてセッティングしたお見合いなので、私の方からは『終わり』って言えないですからあ!」


「………………」


「じゃあ、これでお開きですねえ! 先輩! さようならあ!!」


「………………」


ロゼールが手をひらひらし、別れの言葉を告げる中……

エタンは返事もせず、背を向け、足早に去っていったのである。


当然、お見合いは成立せず、どころか……

見事にというか、両家は『決裂』したのであった。

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