異世界でウエイトが流行してしまったようです。

itsu

今日から君もウエイトアップ!

 亡き祖母の影響で幼い頃から回復魔法師に憧れる少女レイラ。

 前線で魔物と戦う戦士たちを後方から支援し、命を繋ぐ回復魔法師。

 そんな責任ある役割を自分も担いたいと思い、レイラは田舎を飛び出し都会の街で医療協会の門を叩いた。


 まだ若い自分を見ても邪険にせず快く受け入れてくれた職員にレイラは感激しつつも、案内されたトレーニング部屋なるものに足を運ぶ。

 きっとそこで回復魔法の訓練をしているのだろう。

 レイラは夢に描いた学舎を想像する……が、扉が開かれると同時に現実を疑ってしまう。


 急激に上昇する体感温度。


 鼻につく濃厚な汗の臭い。


 分厚い筋肉に覆われた男女の姿。


「……あの、これは?」


 鉄の塊を背負って雄叫びをあげる人に瞠目してレイラが職員に問うと、


「最近新しい器具を取り入れたんだ。あれで効率的に脚を鍛えることができるんだよ」


 と見当違いの答えが返ってくる。


「回復魔法師が後方支援に限られるなんていうのは昔の話さ。

 最近では、回復魔法が使える人間が自ら魔物と戦い己を治癒した方が効率がいいという認識が主流でね……見たまえ」


 おもむろに職員に指差された場所を見る。

 二人の巨漢が向かい合っていた。

 上裸で巨大に膨れ上がった腕と胸が目に入る。

 何をするのかと思って見ていると、一方の男が勢いよく上裸の男に斧を振りかざした。

 あまりにショッキングな光景にレイラは目を瞑るが、金属が砕けたような音を不審に思って目を開く。

 振りかざされた斧の刃が欠けていた。

 無防備に攻撃を受けたはずの男の方は胸元から血を流しているが、軽く回復魔法をかけると傷はあっという間に塞がってしまう。心なしか治癒した胸の筋肉が張っているように見える。


 職員が言う。


「極限まで鍛え上げられた筋肉は鉄の刃も跳ね除ける。素晴らしいだろう?」


 レイラはなにも言えなかった。

 この人はさっきから真面目な顔でなにを言っているんだろうか。

 目の前に広がる現実が受け入れ難く、レイラは唖然と景色を眺めることしかできなかった。


 そして職員はレイラの肩に手を優しく置いて涼やかに笑う。


「三年もすれば君もなれる。さあ、これからウエイトアップだ」


「え、嫌です……」


 ただただ率直に、思うままに、気づけば口にしていた。


 そしてレイラは、十数年抱き続けた夢をあっさり諦めたのだった。

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異世界でウエイトが流行してしまったようです。 itsu @mutau

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