オール・アナザー・ストーリー 世界狂傑救世物語

小鳥遊ちよび

第1話 一体と一人の旅物語-私たちは、世界の全てを喰らうまで旅を辞めない。すべてを黒に塗りつぶすまで。そう、神ですら喰らって見せる-

一人と一体の旅物語。


それは、孤独。


それは、憎しみと怒り。


全てはベージュに成り果て、黒に染まる。


世界は望んでいた、彼女の様な存在を。



私は、一人の誰かと旅をした。

私は、人よりも暖かい何かと幸せに過ごした。

私は、この世の何よりも眩い心に憧れた。

私は、コレだけあればいい。


ワタシ、ハ、一人ノ少女と旅ヲシタ。

ワタシ、ハ、コノ世デ最モ不幸ナ人間ト過ゴシタ。

ワタシ、ハ、コノ世デ最モ眩イ笑顔ニ惹カレタ。

ワタシ、ハ、このサエ笑ってクレルナラ、ソレデイイ。


一面がベージュの世界を一体と一人は旅をする。


 世界は、砂に呑み込まれようとしていた。原因不明の『現存する全生命の天敵』とも呼ばれる【闇】という誰の証言もない未知の何かよって。


 もはや、世界は絶滅まであと数歩というところまで来ていた。


 そんな世界で歩く一体と一人は、減っていく都市を転々と旅をしている。


風が吹けば砂嵐が起き、隙間という隙間から体を穢す小さな砂には、長い旅で一人は慣れ、一体は気にもしない。


「ダイジョウブ カ」

「うん。もう慣れたから」

「ソウカ」


 機械的な言葉遣いと声根を持つのは、ボロボロの傷だらけの黒い甲冑と、またぼろ雑巾の様に千切れ千切れのマントもはやマフラーのようなそのマントを身に着けた、巨大な者。


 そしてもう一人は、これまたボロボロの黒い布を羽織った少女。羽織から見せる細く白い腕と足は今にも折れてしまいそうだ。

 だが、彼女の足は深く、しっかりとベージュの大地を踏みしめている。


 少女の動じない様子に、黒い騎士は頷くと少女の前に立ち、砂嵐が収まったベージュの大地を歩き出す。ベージュの大地に、大きい穴と小さい穴がジグザグに黒い影を落とし続く。


「クロキシッ!街だよ!」


 少女がベージュの山を越えて見えた街を指さし、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「アア。ダガ、飛ビハネル、ヨクナイ」

「・・・・・・ハーイ」


 黒い騎士・・・・・・クロキシに注意された少女はしょんぼりとする。

 その少女の様子に、クロキシは近寄ると彼女の頭に鉄の手の平を載せて少し擦る。


 落ち込んでいたはずの少女はすぐに嬉しそうに笑いだす。

 その様子を見たクロキシは彼女の頭から手を放し、前に歩き出す。




「そこの二人!止まれ!」


 街の門の前に立つ槍を持った腰布だけを巻いた男が叫ぶ。そして、他にも門を守る同じ格好、槍を持った衛兵たちが集まってくる。


 どれもこれも、やせ細り、身体も細い。碌なものを食べれていないのだろう。


「どうする?」

「イツモ 通リダ」

「わかった」


 クロキシは両手を上げる。少女もクロキシに倣い両手を上げる。


「何処から来たッ!」


 衛兵の言葉にクロキシが答える。


「キタ」


 両手を上げた状態で、自分たちが歩んできた方角を顎です。


「北ダ」


 少女がクロキシに倣って答え、同じように顎で方角を指す。


 かわいらしい少女の仕草など目にも入らぬほどに、衛兵は唾をまき散らしながら、焦り、怒り、不安、驚愕、あらゆる感情を含み歪んだ表情で叫ぶ。


「北の都市はここより先全て、もう長いこと連絡がつかない!滅んだんだ!闇に呑み込まれたんだ!嘘をつくナッ!」

「どうやって来た!本当のことを言え!北の都市はどうなった!大陸は!」

「北には私の家族がまだ居たんだ!どうなったか教えろ!」


 衛兵たちが思い思いにそれぞれ叫ぶ。

 思わず少女は上げていた両手をおろして自分の両耳を抑える。


 クロキシは、両手を上げたまま答える。


「キタ、ハ、滅ンダ」

「「「ッ!?」」」

「キタ、ハ、闇ニ、呑マレテ、滅ンダ。ワタシ、タチ、意外」



 衛兵たちの口が空いたまま、音を発しなくなる。

 聞こえるのは、早くなる衛兵の鼓動と、空いたままの口から行き来する荒い呼吸。


「な、なら、ならおえたちはどうやっていきのびたぁ!」

「ワタシ、ハ、最後ノ 北ノ聖騎士、ダ」


 北の聖騎士。そうクロキシが機械的な口調で答えた一言に、衛兵たちはまた、驚愕の表情を浮かべる。だが、何故かその瞳には羨望の光が宿った。


「せ、聖騎士様!?」

「し、しかし。騎士様たちは、最初の戦いで全て死んだはず!」

「いや、しかし北の帝国には有名な騎士たちが数多くいたじゃないか」

「なら本当か?」

「いや、わからんぞ。こいつが闇の先兵やもしれぬ」

「そ、その方が信じられる!」

「まてよ!本当に聖騎士様だったらどうするんだ!」

「なら、証拠を見せろ!おいお前!聖騎士様って言うなら、聖騎士の証を見せろ!」

「そうだ!聖騎士の証を見せろ!神に認められた証とやらを!」


 クロキシは頷くと。ゆっくりと左腕だけ動かし、目の前の衛兵を指さすように目の前の空間に人差し指を突き出すと、ゆっくりと空中をなぞる。


 すると、クロキシの指先が光を放ち、クロキシの指先がなぞった後を消えない光がなぞり、不可思議な模様が浮かび上がる。


 それは、あらゆる形、丸、四角、文字が幾重にも重なり、一つのを現す。


 つまりそれは、主神。世界を創りたもう創造神にして最高神を現す陣。その陣は、創造神に認められし、選ばれた世界を導きし者、守護者、聖騎士に与えられる証の力。


 闇に唯一抗える力を持った


 眩い光が柱となってその場に降り注ぎ、まるでそれは、砂塵が癒しの光になったかのように、あたりを小さな、小さな光の球がゆらゆらと飛び交う。


「ぁあ・・・・・・」


 それを見ていた衛兵たちは乾いた涙を流し、槍をすて、その場にひざを折り、クロキシの前に伏せる。


 また、何事かと集まった街の住人たちが門からあふれ出し、または城壁に上り、その光景を見て、皆が地面に這いつくばる。


 まるで、その光に縋るように、またはその威光にひれ伏すように。


「ふふ、皆おーんなじだね」


 少女は嗤う。


「ミトメル、カ?」

「ええ、ええ、認めます、認めますとも!貴方こそが、この街を救う救世主に違いない!どうか、我らをお救い下さい。聖騎士様!」




 街は、その日、英雄の凱旋として大いに祝った。数少ない食料を盛大に、残り僅かな水と意味のなさない酒を浴びるように飲んだ。


 それは、まるで最後の晩餐ともいうように。


 彼らに希望などない。だが、そこに希望らしき光が訪れたのだ。これぞ、最後の希望。ここから、もしかしたら人類の反撃が始まるかもしれない。世界を救えるかもしれない。




 そして、その街は、その夜に【】に呑まれた。


 一体と、一人は次の街を目指し、ベージュ色の大地と、暗闇の空の下、旅を続ける。




「アハハハハハハハ!クロキシはやっぱり最高だよ!」


 少女は両手を上げて飛び跳ねる。そのたびに、くちゅくちゅと卑猥な音がなる。いや、卑猥などという贅沢な言葉では言い表せない。

 少女の足元に広がる広大な赤く堅い地面と、一口サイズの赤い何かが一面に転がる。そんな中で、光り輝く黒い鎧を着たクロキシが、これまた星空の様に艶めく黒い大剣を手に少女の傍にただ、立っていた。


「・・・・・・」

「ねぇねぇ、クロキシ。次は何処に行こうか?」

「ココガ、の街ダ」

「そっかぁ。じゃぁ、はどうするの?」


 クロキシはゆっくりと真っ暗な空を見上げる。


「・・・・・・ ナンダロウ?」

「あぁ、カミサマかぁ。美味しいかな?」

「ワカラナイ」

「うーん。でも、きっと美味しいよ。楽しいよ!」

「オマエガ、楽シイノナラ、ソレデイイ」

「クロキシだーいすき!」


 少女の姿をした何かが嗤う。


「まだまだ、足りないんだ。お腹がすいて、すいて、すいてぇ!ヒマで暇で日まで日まで!私は、まだ、満たされていないんだ。まだ、まだ満たされない。満たされてたまるものか。全てを喰らってやる。全て真黒に染めるんだ。オレンジも要らない。青も要らない。白も要らない。緑も要らない。黄色も要らない。赤も要らない!」


 そこへ、ナナナナニかが訪れた。

 それは、この世に存在する言葉では言い表しようがない、いや、言い表してはいけない造形をしが。


 顔がわからない。


 あの口は使えるのだろうか。食事をするのだろうか。何を食べるのだろうか。


 目は本物なのだろうか。それとも全て?


 実際に使われる手足がどれなのかわらかない。何故、羽もないのに空中に浮かんでいるのだろう。


 触れてもいないのに、触れられているような感覚。

 どうして、真黒な世界でそれは、明確に見えてしまうのだろうか。

 そこにいるだけで、なぜこうも吐き気を催す程に気持ちが悪くなるのか。


『どl;vmしおhjうぇlmfりおfjsd』


 ナニかが、言葉を発した。


「ナニモノダ!」

「クロキシぃ!」


 クロキシが剣を構え、少女はクロキシの後ろへと隠れ、目をつぶり、耳をふさぐ。


『skdぽwjふぃみおmしおえいvっそぺいf?》


「カイワ シテイルノカ?」

「耳が痛いよォッ!」

《こpとばをはかす、たいをのぞんんでいる】こものせかいkのことば。これでつたわるか?」


「!?」


 クロキシは目の前の異形の存在を前に、最後に言葉が伝わったことで恐れてしまう。久方ぶりの未知の恐怖であった。


 なぜなら、いまの数回の成り立っていたとは思わない会話で、知らない言語を習得したのだとしたら。その学習能力は、いや、知能は計り知れない。


 人間よりも知能が高い異形の生命体など、クロキシに思い浮かぶ存在は一つ。


 だ。


「・・・・・・カミ ナノカ」

「かみ、ではない。われわれは、い大なる御方にお仕えする者である」

「偉大ナル 御方?」

「世界を滅ぼし者よ。お前たちに問おう。まだ滅ぼす世界があるとすれば、どうする」

「ソレハ」


 クロキシが思わず腰に手をまわす少女に視線を向ける。すると、案の定耳をふさぎながらも笑顔を浮かべる少女がひょっかりと顔を出していた。


「まだ、食べられるものがあるの?」

「・・・・・・」

「そうだ。まだまだ世界は数多くある。我々と共にくれば、その世界を自由にしていい」

「私のモノになるってこと!?」

「正確には、偉大なる御方のモノだが。その配下に加わるのであれば、貴様にも与えられるだろう。そして、更なる力も与えられる。偉大なる御方にはそれが可能だ」

「なら、なる!」

「ムゥ」


 即答する少女に、思わずクロキシは唸る。果たして、目の前の異形の急な申し出を、何をもとに信用すべきなのかわからない。


「いーじゃん。ここは、もう黒く塗りつぶせたもん。クロキシと皆で居るのもいいけど。いつか飽きちゃうよ。なら、見たことない世界に行こうよ!見たことないものを食べよう!二人で黒くしよ!全部の色を黒く染めるんだ!」

「・・・・・・オマエ ガ ソレデイイナラ」

「決まったようだな。では、歓迎しよう。新たな同胞よ」


 そう、何かが言い、たくさんある腕の一つが、水平線に右から左へと降られる。すると、一体と一人の目の前に大きな、真黒な黒い円盤のようなものが現れる。


「これをくぐれば、偉大なる御方に会えよう。そして、同胞達と共に新たな世界へと旅立つがよい」

「ワーイ!」


 少女は、耳をふさぎながら黒い円盤へと走っていく。まるで、それが何か少女は知っているかのように、躊躇いもなく。


 クロキシは、少女の肩をつかもうとするが、思いの他すばしっこく、手が空振る。


「コラ 無謀ニ 無暗ニ 一人デ勝手ニ 行クナ」

「はやくはやくー」


 少女はまったくクロキシの言葉など聞いておらず、ただただ目の前に用意された新たな楽しいことに夢中のようだ。


 黒い円盤に身体を半分入れている少女の差し出す手をクロキシは握り、一人と一体は、黒い円盤の中に吸い込まれるように消える。そして、同時に黒い円盤は突如消え。そこには最初から、誰も、何もなかったかのよう。


 残ったのは、ナニカ。

 

「残りは、10程の世界だったか?『えおjkfgぽskfぽあ』そうか、わかった》【私は、引き続き、仇なすもの、滅絶者を探す】御方のために」



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