史上最強の魔王の生まれ変わり、どうか再び魔王になってください
無月兄
第1話 魔王様、転生する
その日、魔族軍特務部隊隊員ディオスは、直属の上司である将軍に呼び出されていた。
「ディオスよ。魔王メサイア様の名前は知っているな」
「300年前にいた、史上最強の魔王と唄われたあのメサイア様ですか?」
それなら、魔族であれば知らない方が珍しい。
当時、人間相手に連戦連敗し、虐げられる側となっていた魔族をまとめあげ、わずか数年でその勢力を拮抗させた英雄だ。
最後は勇者パーティーと相討ちになって命を落としたものの、もしも生き延びていたら世界を征服できていたとすら言われている。
しかし、それがいったいどうしたというのだろう。
「実はな、最新の研究でわかったことだが、その魔王メサイア様が十数年前に再びこの世に転生してきているらしいのだ」
「なんと、それは本当ですか!?」
ディオスが驚くのも無理はない。通常、人も魔族も生まれ変われば前の人生のことは何もかも忘れてしまう。だが強い力を持った存在なら、前世の記憶、そして力をそのまま引き継ぐことがあるのだ。
今回のケースもそれだというなら、史上最強の魔王本人の復活と言っても過言ではない。
「メサイア様が討たれて以降、魔族の歴史は変わった。政権は魔王制から協議会制となり、人間達との争いも止まった。それから300年、今や人間との間に友好条約を結ぶ始末だ。しかし、メサイア様が再び現れれば、それも変えられる。魔王が力によって君臨し、我々魔族が人間達を支配する。そんな世界にできるのだ」
また、将軍の魔族至上主義が始まった。そんなことを、ディオスは心の中で思う。
確かに魔族と人間はかつて争っていたかもしれないが、別にディオスとしては、どうしても人間を支配しようなんて思いはない。おそらくほとんどの若い魔族が似たような考えだろう。
だが将軍の言う通り、もし本当に魔王メサイアが復活したとなると、その流れも変えられるかもしれない。
だが今までの話を聞いて、ある疑問が頭に浮かぶ。
「しかし十数年前に生まれ変わったのなら、今ごろ何か行動を起こしていてもいいのではないですか?」
ディオスはその職務上、様々な重大事件の情報を耳にしているが、魔王復活なんて話は聞いたこともなかった。
「うむ。私もそれが気になっていたのだ。だからディオス、お前が直接メサイア様に会いに行き、今どうしているかを確かめてほしい。そして、再び魔王の座につくよう説得してくるのだ。今日お前を呼んだのはそのためだ」
「な、なんと!?」
思わぬ命令に、体が震える。
そりゃディオスも、今まで命がけの任務は何度もこなしてきた。しかし伝説の魔王と直接会うことになるなど、全くの想定外だ。ハッキリ言って、プレッシャーが尋常じゃない。
だが、それで断るかと言われたら、全くの別問題だ。
「できぬか?」
「いえ、やらせていただきます。魔王メサイア様と会えるのですよ。そのような栄誉、逃してなるものですか!」
早くも緊張しながら、しかし力強く答える。
正直、将軍の抱く魔族至上主義にはほとんど興味はない。しかし、実はこのディオスという男、けっこうな歴史好きだった。
中でも、魔王メサイアとなると、希代の英雄、歴史のヒーロー。何度もその文献を読み返すほど好きだった。早い話が、大ファンだ。
そんな推しと直接会うチャンスなのだ。例えどんなにプレッシャーを感じても、その役目を他の者に譲るなど考えられない。
「不詳、ディオス。その役目、精一杯務めさせていただきます!」
そうしてディオスは、魔王メサイアの生まれ変わりがいると言われる地へとやって来た。
魔族の国の片隅にある、ヘンキョー地方のカソカ村。こんな田舎に伝説の魔王がいるなどにわかには信じがたいが、将軍曰く、最新の研究結果が示した確かな情報だそうだ。
「本当にいたら、まずなんと言って挨拶しよう。会いに行く前に、練習しておいた方がいいか? その前に、格好は変じゃないかな。この日のためにおニューの制服を用意したんだし、きっと大丈夫。頼めば握手をしていただけるだろうか。いや、そんな恐れ多いことをして、無礼と言われて消されたらたまらない。で、でもサインをもらうくらいなら……」
ソワソワしながら、ミーハー全開なことを考えるディオス。
だがその時だ。将軍より渡されたメサイア様探知機が、ビービーと激しい音を鳴らしながら光りだした。
「め、メサイア様がすぐ近くにいらっしゃる? どうしよう、まだ心の準備ができてないのに!」
慌てふためくディオスだが、運命は彼の都合なんて聞いちゃくれない。突然、後ろから声をかけられる。
「あの、どうかされましたか?」
「ひゃん!?」
急なことに、思わず声をあげる。
メサイア様探知機は、相変わらず強い反応を示したまま。つまり、今ディオスの背後にいる者こそ、魔王メサイアの生まれ変わり本人だ。
バクバクと鳴る心臓を押さえながら、ゆっくりと振り向くディオス。
そこにいたのは、一人の村娘だった。
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