DLC39 青春コンティニュー


「で…………なんでここなのかな……?」


 俺は吉野さんに連れられて、ある場所に来ていた。


「だって、ここなら人目につかないでしょ?」


「いやまあ、そうだけど……なんでラブホなんだ……」


 そう、俺と吉野さんはなんとラブホに来ていた。

 まあたしかにここなら内密な話とかにはぴったりだけどさ……。


「いいじゃない。だって、ドルクくん、けっこうなモテモテだったし、今更恥ずかしがることないでしょ? それに、私――リィノともたくさん愛し合った仲なんだし」


「そ、そうだけど……そういう問題かなぁ……?」


 ドルクとしての俺は、それはそれはかなり経験値豊富だ。

 それにあそこは異世界だったから、そういう感覚も現代日本のそれとは全然ちがう。

 だけど今の俺――笹川ハジメは童貞なのだった。

 そんな俺が、かつての初恋の人といきなりホテルにいるんだ。

 動揺するなっていうほうが無理がある。


「あれれぇ……? もしかして笹川くんって、結構恥ずかしがり屋さんなのかな? 緊張しちゃってる?」


「そ、そういうわけでは……」


 吉野さん、リィノと違って、こっちではこういう性格なのか……。

 まあ、こっちでは俺のほうがなよなよしていて、いじられタイプなのだけれど。

 まるで異世界での出来事の仕返しかのように、Sっ気たっぷりな吉野。

 まあ、そういうところも、好きではあるのだけれど……。

 今はそれどころではないのも確かだ。


「まあ、私としては別に笹川くんとそういうことになっても、かまわないけどね……!」


「な、なななななにを……!?」


「え……? だって、異世界ではさんざんそういうことしてたでしょ?」


「そ、そそそそそうだけど……」


「それとももしかして、笹川くんって童貞さんなのかな……?」


「どどどっどどど、童貞ちゃうわい……!!!!」


「あはは……ごめんごめん……ついつい、笹川くんと話すのが懐かしくって」


「え…………?」


 吉野のことばに、俺はひっかかりを覚える。

 俺と話すのが懐かしいとは、どういうことなのだろうか。


「それって……どういう……?」


 だって、異世界でのことなら、体感ではつい先日のことだ。

 だから懐かしいというのは、違う気がする。

 ドルクとしての会話をそれに含めないというのなら、まあわかるけど。

 でも、笹川としての俺と、吉野が話したのって――それこそ、それは中学のときまでさかのぼることになってしまう。


「覚えてないかな……? 笹川くん、中学のころ、よく話してたよね?」


「そ、そうだけど……吉野さん……俺のこと、そんなに覚えていてくれたの?」


「もちろん……。だって、あのころ私、笹川くんのこと好きだったしね」


「え…………うそでしょ……」


 だって、あのころ吉野はスクールカースト上位の女子だった。

 一方で、俺は陰キャオタク。

 だから俺は、たまたま吉野が気まぐれで俺に話しかけてくれていただけだと思っていたんだ。

 それもあって、クラスが変わってからは俺から話かけることもできずに、だんだん疎遠になっていった。


「まあ、そういうことだから! これからもよろしくね!」


「あ、ああ……。うれしいよ……吉野さんがそう思っててくれたなんて……」


 吉野は照れくさそうにごまかした。

 どうやら俺は、ひどく長い遠回りをしていたようだ。


「そ、そうだ……それで、はやくDLCをみてみようよ!」


「あ、ああ……そうだな」


 俺は空中に手をかざして、唱える。


「ステータスオープン!!!!」


 こんな姿、それこそこの密閉空間じゃなきゃ、恥ずかしくて死ねる。

 そんなことを考えながらも……。


「開いた……!」


「嘘だろ……!?」


 なんとここは異世界ではなく、現実世界だというのに、ステータスが開いてしまったのだ。


「まじか…………」



==================

笹川ハジメ 27歳 Lv∞

ジョブ:DLC

筋力:99

体力:99

耐性:99

敏捷:99

魔力:99

魔耐:99

(現代にいるため、ステータスは制限されています――本来の数値:∞)

スキル:DLC一覧

==================



 どうやら強くてニューゲームというのは、そのままの意味だったらしい。

 俺はこの現代にいても、そのままドルクのステータスを受け継いでいるようだった。

 それでもドルクのステータスと同じではないのは、どうやらステータスに制限がかかっているみたいだな。

 現代ではステータスがいくら高くても、人間に可能な範囲に抑えられているみたいだ。


「なるほど……このおかげで、俺は強盗を倒すことができたのか……!」


 試しに吉野さんにもステータスを開いてもらったところ、ちゃんとリィノと同じステータスを受け継いでいた。


「よし……! これなら、DLCも使えるはずだ……!」


「そうだね……! さっそく使ってみて」


「うん……! DLCオープン!!!!」


 俺がそう唱えると、今度はおなじみのDLC画面が開いた。



――――――――――――――

カテゴリ

・異世界DLC

・現代DLC

――――――――――――――



「こ、これは…………!?」


 異世界DLCと、現代DLCの二つがあった。

 ということは、また異世界に行けるということなのだろうか。

 しかし異世界DLCを開いても、そこには異世界でしか使えないようなDLCが並んでいるばかりだった。

 それどころか、ロックがかかっている。

 だが、異世界に新エリアを追加するDLCや、新大陸DLC。

 ほかにも新ストーリーDLCなど、無限のコンテンツがそこにはあった。


「だめか……」

「まだよ」


 今度はおそるおそる、現代DLCのほうを開いてみる。

 するとそこには、現代で使える数々のチートDLCがあるではないか……!


「うわ……マジか……」


 宝くじDLCや、タワーマンションDLC。

 アイドルプロデュースDLCなんかもあって、マジで世界を牛耳れるほどのチートの多数だ。


「現代でチートするとこうなるのか……」


 それらももちろん、もともとの俺なら魅力的だったが、今はとにかく異世界に戻りたい一心だった。

 そのまま、どんどん下までスクロールしていく。

 すると――。


「あった…………!!!!」



――――――――――――

・異世界転移DLC

――――――――――――



「これを使えば……!」



「「また異世界にいける……!!!!」」



 俺たちは手をつないで、迷わずにそれを押した。






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