DLC38 強くてニューゲーム3


 次の瞬間――。

 男は宙を舞っていた。


「あれ…………?」


 今、俺はなにをした…………?


 男にナイフを向けられた瞬間、俺は男をつかんで、投げ飛ばしていた。

 そして、そのまま着地狩りの要領で俺は男に蹴りをくらわす。


「うおりゃ!!!!」


 ――ドン!!!!


「ぐあああああああああああ!!!!」


 男の背骨が折れるのを感じる。

 そしてさらに、男のナイフを奪い、男を床に押さえつける。


 あれ…………?

 どういうことだ、俺は今までのまま、変わらないままなのに、どういうわけか体が勝手に動く。

 動く……動くぞ!!!!


 もちろんドルクほどのステータスではないが、それでも俺の身体能力は、はるかに上昇していた。

 これがなにを意味するかは、とりあえず今はどうでもいい。

 とにかく俺は、この強盗を倒し、吉野を守ることに成功したんだ……!

 まずは警察を呼んで、こいつを捕まえてもらう必要がある……。


「吉野さん……! 警察を呼んで……!!!!」


 レジの向こうであっけにとられている吉野に向かって、俺は叫ぶ。

 まあきっと吉野は、俺のことなんてわかっていないだろうから、驚いているんだろうな……。

 だが、俺の叫びで我に返ったようで、すぐに吉野は店の電話で警察を呼んだ。


「は、はい……!」


 これにて一件落着。

 すぐに警察がきて、強盗は連行されていった。

 俺と吉野も事情聴取をされたが、しばらくして解放される。


 それから、俺たちは少しの間話をすることになった。

 吉野のほうから、ぜひ俺にお礼を言いたいとのことだった。

 警察を通して連絡先を交換し、後日喫茶店で落ち合う。


 喫茶店に現れた吉野は、とても清楚でかわいらしい恰好をしていた。

 そういえば、彼女の私服を見るのは初めてだ。


「あの……助けていただいて……ありがとうございます」


「え……ああ……こちらこそ、今日はどうも」


 とりあえず、座ってお互いに注文をする。

 どうにもお互いにぎこちなくなってしまう。

 俺の中では、彼女はリィノでもあるし、かなりの間一緒に過ごした仲だ。

 だが、目の前の彼女は、ただの吉野さんだし、きっともう俺のことも忘れている。

 俺が中学の同級生であることだって、きっと忘れているのだろう……。


 しばらくの間、重たい、気まずい雰囲気が流れていたが――。

 吉野のほうから、口を開いた。

 そして彼女は、思わぬことを口にする。


「あの…………その…………こんなことを言うと変な女って思われるかもしれないですけど……」


「はい…………?」


「私、夢であなたと一緒だったんです」


「え…………?」


「その……笹川くん、ですよね……? 中学の同級生の……」


「覚えていてくれたんだ……」


 これには意外だった。

 そういえば、リィノも意味深なことを言っていたっけ……。

 だけど、夢で俺が出てきたって、どういう意味だろうか……?


「その……異世界ってわかりますか……? アニメや漫画なんかでよく出てくる……」


「え…………? 異世界…………?」


 まさか……まさかだけど……こんなことって、あるのか……?


「あ、異世界だなんて、変なことを言っているのは自分でもわかっています! でも、どうしても……あれが夢だったなんて思えなくて……というか、思いたくなくて……」


「え……ちょ、ちょっとまって……!」


「はい…………?」


「もしかして……吉野さん……いや、リィノ……?」


「え…………? ど、どうしてそれを……? まさか……」


「記憶が……あるの…………?」


「そっちこそ……え……!? ドルクくんなの……!? 本当に……!?」


 俺たちは静かな喫茶店の中だということも忘れて、立ち上がって手を取り合っていた。

 まさかとは思っていたが、吉野もリィノとしの記憶をそのまま受け継いでいたなんて……。

 というか、つまりあれは夢ではなく、現実だったってことか……!?


「じゃ、じゃあ……俺たち……本当に異世界にいたってこと……?」


「そ、そうみたいだね……」


 だとしたら、ルミナたちとの思いでも、決して嘘ではなかったということになる。

 それはうれしいことでもあったが、同時に、ルミナたちとは二度とあえないかもしれないと思うと、胸が締め付けられる。

 でも、俺はルミナの言葉を最後まで信じることにした。

 だって、俺もルミナにそれだけ会いたかったからだ。


「強くてニューゲームって、俺だけじゃなかったってことか……」


「うん……そうなるね……」


「だったら、きっとルミナたちも記憶がそのままなのかも……」


 そう考えると、ますますルミナたちに申し訳なくなる。

 俺の記憶はそのままで、俺たちのことを忘れて、そのまま異世界で暮らさせることになるなんて……。


「そうだ……! 笹川くん、いや……ドルクくん! ルミナちゃんたちに、会いにいけないかな……!」


「え……ど、どうやって……。そんなの無理だよ……だって、あそこは異世界なんだから……」


 吉野の提案は、魅力的だが、俺にはどうしてもそんな案は思い浮かばない。

 異世界にいく方法なんて、それこそ死ぬくらいしかないだろうし、それだとせっかく吉野を救った意味がない。

 それに、異世界にいけるかどうかもわからないのに、自ら死ぬことなんて、とてもできそうもない。


「ドルクくん、DLCは、試してみた……?」


「え…………? そ、それは……異世界じゃないんだけど、ここは」


 吉野も意外なところがあるな、ほんと。

 異世界でもないのに、現実世界でジョブやスキルが使えるわけ――。


「まてよ…………」


「ね…………?」


「そういえば、俺は強盗を倒したとき、変な感じがあったんだ……。俺にあんな格闘技の経験なんてないし……」


「そう、きっとそれは、DLCの力だと思う。強くてニューゲームって、そういってたでしょ?」


「ああ、確かに……」


 俺たちはひとまず、喫茶店を出ることにした。

 ものは試しだ、あきらめることなく、俺自身についてもっと詳しく知れば、きっとまたルミナたちに会える方法が見つかるかもしれない……!

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