DLC31 召喚獣


 Aクラスの授業はそれなりに難しく、やりがいのあるものだった。

 しかしみんなそれに努力でなんとか食らいついて、俺たちの学園生活は充実していた。

 そんなある日、俺たちに一風変わった授業が課せられた。

 今まではもっぱら基礎魔法の使い方や、基礎魔力向上の授業だったのだが……。

 今回はなんと「召喚魔法」を教わることになったのだった。

 これにはさすがの俺もドキドキワクワクだ。

 ようやく魔法学校らしくなってきたな……。


「さあて、まずは一人ずつ前に出てきてやってみてもらいましょう。さっき教えたとおりにやればできるはずです」


 先生がそう言うと、また例のようにジョーカーが真っ先に前に出た。


「僕がお手本を見せてやろう……!」


 あれだけ俺たちに恥をかかされたのに、こいつはまだイキっているんだ……。

 まあ、もとからそういう性格なのだから、仕方がないか。


「よし……! 召喚!!!!」


 ジョーカーがそういうと、彼の足元に魔法陣が現れた。

 そして、そこからはなんとひよこのモンスターが現れた。


「ど、どどどどどどうして……!?」


 彼もそこそこ優秀な魔術師だというのに、いったいなんでこんな弱そうなモンスターが出てきたのだろうか。


「まあ、召喚魔法は向き不向きがありますからね。単に魔力の多さや、攻撃魔法の使い方が上手なのとは、また違った筋肉が必要になります」


 先生はそう付け加えた。

 そうなると、俺ももしかしたら召喚魔法が使えないかもしれないな……。


「くそう……この僕がひよこのモンスターだって……!?」

「あはははははは!」


 ジョーカーはクラスのみんなに笑われて、不満そうに自分の位置に戻っていった。

 そして次は、リィノが前にでることになった。

 リィノはかなり優秀な生徒で、先生からも期待されている。


「がんばれ、リィノ!」

「うん、ありがとう……ドルクくん」


 俺は声援を送った。


「えい……! 召喚!!」


 彼女がそう叫ぶと、さっきより格段に大きな魔法陣が出た。


「グオオオオオオオオオオ!!!!」


 すると今度はミノタウロスが登場して、みんな拍手喝采が巻き起こった。


「おお……!」


 さすがはエルフだ。

 高い魔力だけでなく、それを使いこなす器用さも兼ね備えている。


「うう……どうしよう……」

「どうしたルミナ」


 数人の生徒が済んだころ、ルミナが不安そうな顔で俺に話しかけてきた。


「私……自信がないよぅ……。まだ普通の魔法も、みんなほどじゃないのに……」


 もともとルミナは魔法があまり得意ではないと言ってた。

 その自己評価はあながち間違いではなく、実際にルミナはクラスの中でもあまり目立たないほうの成績だった。

 俺たちが必死に教えてサポートしているからなんとかなってはいるものの……。

 ルミナが魔法の成績を不安に思うのは、無理もない状況だった。


「大丈夫だよ。さっき先生も言ってただろう? 普段のほかの魔法と、召喚魔法はまた違った性質のものだ」

「うう……そうだけど……」


 俺はルミナが自信を持てるように、必死に励ます。


「大丈夫、ルミナなら絶対にうまくいく。俺が保証するから」

「そ、そうかな……?」

「だって、ルミナは誰よりも頑張り屋さんだからな。それは隣で見ていた俺が一番よく知っている」

「ありがとう、ドルク」


 実際、ルミナは魔法の苦手を、必死に克服するべく、不屈の努力を続けていた。

 誰よりも先生に質問をするし、一番遅くまで学校に残っている。

 家に帰っても俺たちに何度も教えをこうし、自主練も欠かさない。

 そんなルミナが伸びないはずはなかった。

 最近になって、ルミナの才能は確実に開花してきている。

 それに、苦手といってもこうしてAクラスに入れるくらいだ。

 普通の生徒からしたら、これでも十分優秀なのだった。


「私、行ってくるね……!」

「おう、頑張れ! 応援してる!」


 俺はルミナの背中を、優しくおして見送った。

 ルミナが前に出て、召喚の構えをとる。


「しょ、召喚……!!!!」


 ――ズドーン!!!!


 すると、とんでもない音がして――。


「あ……あれ……? 召喚陣は……? やっぱり……失敗……!?」


 そう言ってルミナは不安そうにきょろきょろして、俺の顔を見つめる。

 なぜかルミナの足元には、召喚陣が描かれなかった。

 しかし、決して失敗などではなかった。

 俺はあまりの出来事に、衝撃を抑えられずに、呆けた顔をしていただろう。

 ルミナが俺の顔を見て、いっそう不思議そうにする。


「はは…………すっげぇ…………」


 俺はルミナのはるか頭上を目で確認する。

 それを見たルミナも、俺の後を追うように頭上を見やった。

 すると、そこには巨大なドラゴンが浮遊していた。


「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」


「す、すごい……あれを……本当に私が……!?」


 ルミナの頭上には、巨大な魔法陣が描かれていた。

 まさかルミナに、召喚の才能がここまであったなんて……。

 ドラゴンはルミナを称えるように、上空で一回転すると、そのまま召喚陣の中に帰っていった。

 去り際に、ドラゴンが少し笑っていたような気がした。

 はは……まさかな……。


「ルミナさん……! 今日の最高得点です!」


 先生がそう言って、ルミナをほめたたえた。

 クラスメイトのみんなも、びっくりしながらもルミナを拍手で称えた。

 戻ってきたルミナは、俺にそっとキスをした。

 目立たないように、耳たぶにだ。

 そして俺の耳元で、こうささやいた。


「ありがとう、ドルク。大好きだよ」




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