DLC20 破壊と再生


 剣鬼カラクの剣が、俺を襲う……!

 しかし――。


 ――キン!


 その剣は、俺に当たると同時に、粉々に砕け散った。


「な…………!?」


「だから言っただろう? 俺はなにもしなくても勝てるって。俺はここから、一歩も動かない」


「ふ、ふざけるな……! 貴様! なにをしたっていうんだ! この僕の、最強の剣が……! 怪しい魔法でも使ったんだろう!」


 カラクは顔を真っ赤にして、俺にそう言ってきた。


「いや、俺はなにもしていない」


「ま、待っていろ……! まだ終わりじゃないからな……!」


 そう言って、カラクは建物の中に入ると。

 新しく剣を持ってきた。

 まだやるつもりなのか……?


「うおおおおおおおお! これが剣鬼の力だ! 世界で最も攻撃力が高いのは僕なんだからなぁ!」


 新しい剣を振るカラク。

 しかし、その剣もまた、俺に一切の傷を負わせることなく、砕け散る。


 ――バリィン!


「なに……!?」


「だから言ってるだろう?」


「クソ……! こうなったら……!」


 カラクはまたしても、家の中に引っ込んだ。

 こんどは少し出てくるのが遅いな……。

 なにを企んでいるんだ……?


「ふっふっふ……これならどうかな……?」


 ようやく出てきたカラクは、俺にも見覚えのある剣を持ってきた。

 黄金の装飾があしらわれた、豪奢な剣。

 見た目だけでなく、剣のつくりとしても、一級品のものだ。


「アレは……親父の剣……!?」


 そう、カラクの持ってきたのは、剣神ドボルザークの愛剣。

 聖剣――クルセイド。

 その価値、数億Gにもなるといわれている、うちの家宝だ。

 親父も、ここぞというときにしか使わない。


 一振りするだけで、山をも切り裂くといわれている、伝説の剣だ。

 たしかに、あれなら規格外の力がだせる。

 それに、剣鬼のステータスとあわされば、どれほどの力が出るだろう。


「しかたない……」


 俺は、ようやく剣を抜いて構えた。


「ほう、ようやく僕と戦う気になったようだな……。もう怪しげな術はなしだぞ……! どちらかが剣を落とすまで、戦いは終わらない……!」


 とカラクが言った。


「いいだろう……。まあそもそも俺はなにも術なんか使ってないけどな……」


 言いがかりはやめてもらいたい。

 だが、これは困ったことになったぞ。


 間違っても、聖剣クルセイドを破壊してしまうわけにはいかない。

 あれは、この世に2つとない貴重品だ。

 それに、親父が心の底から大事にしていたものでもある。

 だが、俺があれをまともに受けると、破壊してしまうだろうし……。


 なんとか、聖剣を破壊せずにカラクを無力化したいところだが……。


「よし、いくぞ……!」


 カラクは、俺にさっそく切り込んできた。

 しかし、俺はそれを身体で受け止めるわけにはいかない。

 俺はもちまえのスピードを活かして、カラクの剣を避ける。


「どうした! 避けてばかりではつまらないぞ!」


 ――ヒュン、ヒュン!


 俺はカラクの剣を、ひたすら避ける。

 避けないと、国宝級の剣が失われてしまうからな……。

 人間と違って、アイテムは回復魔法とかではどうにもならないし……。


 そのとき、俺はあることに閃いた。

 そうだ、アイテムは破壊できないけど、人体なら破壊できる!

 人体であれば、少々の損傷であれば、俺の回復魔法で治せるじゃないか!

 まあ、少し気は引けるが、この際だから構わないだろう。

 相手が相手だし……。


「すまんカラク、少し痛いが、後で治すから許してくれ……!」


 俺は、目の前の敵にそう言った。


「は…………? なにを言って……」


 ――ビュン!


 俺は、勇者の剣を振り上げて、カラクの腕を、手首から切り落とした。


「ぐああああああああああああ!!!! ぼ、ぼぼぼぼぼぼくの腕がああああああああああ!!!!」


 そして、地面に落ちた聖剣クルセイドを拾い上げる。


「ふう……剣は無事だな……」


「ぐああああああああああああ!!!! 痛い! 痛い!」


「ああもう……ちょっと待っててくれ。すぐに治す」


 俺は地面に倒れているカラクに近づいた。


「ふ、ふざけるなぁあああ!! 僕の腕を返せ!!!! い、イカレてる……!」


「ほら、これでいいだろ……?」


 俺は回復魔法をかけて、カラクの腕を再生する。

 これでカラクを無力化したし、剣も無事だった。

 完ぺきなプランだ。


「う、腕が……治ってる……!?」


 カラクは信じられないという顔で、俺を見た。


「な? 大丈夫だっただろ?」


 カラクに痛い目を見せたことで、お仕置きにもなっただろうし。

 これでもう、引き下がってくれればいいんだけど……。

 あまりやりすぎると、俺は相手を殺してしまいかねない。

 それだけが、強者としての欠点だな……。


「なにが大丈夫だっただろだ! 僕はめちゃくちゃ痛かったんだからなぁあああ!!!! このイカレ野郎!!!! 絶対に許さない!!!! 死ねえええええ!!!!」


「うお……!?」


 カラクは激昂すると、俺に殴りかかってきた。


「ま、まて……それはマズイ……!」


 俺はそう言って止めたんだが……。

 カラクは俺に容赦なくパンチを食らわせた。


 ――ドン!


 すると、カラクの右腕がバリバリっと音を立てて滅茶苦茶な形に変形した。


「いってえええええええええええええええ!!!!!」


「だから言ったのに……」


 そう、剣ですらも破壊する俺の防御力。

 カラクの腕なんかが、耐えられるはずもなかった。


「待ってろ、もう一回治してやるから」


 俺はそう言って、カラクに近づく。


「ひいいいいい!!!! バケモノ……!!!!」


 カラクはそこで失神してしまった。

 しかも、コイツ……漏らしていやがる……。

 はぁ……迷惑な奴だ。

 とりあえず、腕は治しておいて、あとはその辺に捨てておこう。


「すごい、ドルク! 剣も守っちゃうし、敵も治すし、さすがだね!」

「にゃあ……! さすがはドルクにゃ!」


 ルミナとシャルが、俺に駆け寄ってくる。

 執事の人も、俺に感謝を述べた。


「ドルクぼっちゃま……やはりあなたこそが剣神の息子。さすがでございます……。強くなられましたね……! あの悪魔の子を追い出してくださり、ありがとうございます……」


「いや、俺はただ、自分の実家があんな糞野郎に土足で踏み荒らされるのが耐えられなかっただけさ」


 気分としては、軽いNTRに近い。

 まあ、俺はNTRも嫌いなジャンルではないんだけど……。

 それはまた、別の話だ。


「さあドルク坊ちゃま、ダンナさまもお喜びになられます。お会いになられますよね?」


「あーやっぱり……会わなきゃだめか……」


 俺は、執事の案内で、親父が寝ている部屋まで案内される。

 顔を会わせるのは、少し気まずいが……。

 それでも、けじめをつけておきたい気持ちはあった。


 前世では、親との折り合いが悪くて、俺は逃げた。

 逃げてしまった。

 そのことが間違っていたのかはわからない。

 少なくとも、それがいいことだったとは思えないのは確かだけど。


 俺は前世で、親から逃げ、社会から逃げ、引きこもった。

 でも、向き合うことの大切さも、知っているつもりだ。

 俺は、今回は逃げない。

 逃げずに、思いをぶつけあってみるつもりだ。

 

 大丈夫だ、今の俺は、世界最強なんだから……!


 俺はゆっくりと、親父の寝室に足を踏み入れた。

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