DLC19 変わり果てた実家
俺たちが実家を訪れると、そこには変わり果てた屋敷の姿があった。
以前はもっと整えられていたはずの花壇も荒れ果てており、掃除も行き届いていない。
それに、人の気配もあまりしない。
いったい、俺がいない間になにがあったのだろうか。
「ドルクさま……!?」
「あ、あなたは……!」
そんな俺を見つけた使用人の一人が、駆け寄ってきた。
たしかこの人は、親父の専属の執事だった人だ。
身の回りのことなどをすべてやってくれて、親父も一番信用を置いていた人物。
「いったいなにが……親父は……?」
「それが……旦那様は怪我をされて、今は病気で寝込んでおられます……」
「そうなのか……。でも、これはいったいどういうことだ……!? 他の使用人は?」
「若いメイドなどは、愛想を尽かして出ていってしまいました……。他の使用人も、ほとんど残っていません……。残ったのは古株の私や、ダンナ様に直接の恩がある数人のみです」
「な、なんでそんなことに……」
「それが、ダンナ様がドルク様の代わりにと連れてきた孤児が……」
なるほどな……。
俺の代わりに養子にした孤児が、暴走をしたということか……。
でも、そんなこと、親父が許すはずがない。
剣神ドボルザークは、俺の知る中でももっとも厳しい人だ。
そして、その実力も最強クラス。
「親父はなぜけがを……?」
「その孤児に、やられました……」
「そんな……」
剣神ドボルザークが、剣を習ったばかりの孤児に……!?
いったいどれほどの才能を持っているというのか。
「で、その孤児はどこに……」
俺がそう言ったときだ。
「おい! 食べ物を持ってこいよ! はやくしろ! 僕はお腹がすいているんだ!」
そんな声が聞こえてきた。
まるで怒り散らしている野獣の声だ。
とても理性ある人物とは思えない。
人間性の悪さが、そのままにじみ出たような言い方。
「あれか……」
俺は声のするほうへ行く。
俺が以前自部屋にしていた場所だ。
そこには、俺の椅子にふんぞり返って座っている同い年の少年がいた。
脚を組んで、偉そうに、使用人がやってくるのを待っている。
俺を見つけると、
「なんだてめぇ! 新しい使用人か? だったらさっさと肉を持ってこい! それから女もだ! くそ! メイドのやつら僕を置いて屋敷を辞めやがって……!」
少年は、ぶくぶくに太っていた。
醜い……醜すぎる……。
ここで好き放題に命令して、自堕落な生活を送っていたのだろう。
そしてそれを止められるものもいない。
親父は、こいつにけがをさせられ、寝込んでいる。
父は俺を追い出した、たしかにそれは俺にとって、いい思い出ではない。
だが、こうやってどこの馬の骨ともしれん子供に、家を乗っ取られて黙っている俺ではなかった。
「おい、この屋敷から出ていけ!」
「はぁ……!? なんだよお前は! 僕は剣神の息子だぞ! この屋敷の主だ!」
「違うね、俺が剣神の息子だ! 俺が、このドルク・ド・ヴァーキンこそが、この屋敷の主だ!」
「なんだと……!?」
俺は、そう啖呵をきった。
執事がそれに感動の涙を浮かべる。
「ドルク坊ちゃま……さすがはダンナさまの実子! 追い出されてもお父様思いの、お優しいお方!」
まあ、そういうわけでもないんだけどな……。
ただ、こいつの好き勝手にさせるわけにはいかないというだけだ。
親父とは、また改めて話をつける必要がある。
すると、それを聞いた少年は、
「そうか……お前が追い出されたという出来損ないの息子か……。よくもまあ、のこのこと帰ってこられたなぁ……。お前が才能がないせいで、僕が養子になれたのには、感謝している。でも、今は僕がこの家の息子なんだ……! だからとっとと出ていけ!」
「だまれ! 出ていくのはお前のほうだ! 厳しい父がお前のような好き勝手を許すはずがないだろう? それに、俺はもう無能じゃない」
「それはどうかなぁ……? 僕はお父様、剣神より強いんだぞ?」
「なら、試してみるか……?」
「よし、表へ出よう」
俺たちは、力で決着をつけることになった。
上着を脱いで、外へ出る。
「大丈夫なの、ドルク……」
「ああ、大丈夫だルミナ。俺に任せておけ」
俺は上着を、ルミナに預ける。
「っは……! 馬鹿なやつめ! クソジョブを引いて追い出されたお前が、この剣鬼のぼくに勝てるはずがないだろう……!」
「剣鬼か……まあ、どうでもいい。俺はなにもしないでも勝てる。俺はここから、一歩も動かない」
「なんだとぅ……!? 舐めるのもいい加減にしろよ……! このカラクさまの恐ろしさを、思い知らせてやる……!」
ふん、カラクという名か……。
まあ、ここで倒してしまうからどうでもいいんだけど。
「なあ、アイツ……ここで倒してしまっても構わんのだろう?」
俺は念のため、執事にそう確認する。
あとからいちゃもんつけられたら敵わないからな……。
事実上、今の正式な息子はカラクで、俺はそれに文句をつけている側なのだから。
まあ、あとで親父がなんて言うかで決まってしまう。
「大丈夫ですドルクぼっちゃま……! 私どもも、ダンナさまも、カラク坊ちゃまには頭を抱えておりまして……。遠慮なく、ぶっ飛ばしてください……!」
「よし、なら大丈夫だな。遠慮なくいくぜ……!」
これで、言質はとった。
あとはカラクを倒して、追い出すだけだ。
父よりも強い、最強の天才。
だが、俺はそれ以上に、規格外だ。
「きえええええええ! 許せん! 死ねええええ!!!!」
カラクがそう発狂して、俺に襲い掛かる!
剣を振り上げ、一直線に向かってくる。
だが、俺は剣すらも抜かずに、その場にじっと立っていた。
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