シーズンパス1

DLC2 追放された


 俺はドルク・ド・ヴァーキン。

 剣神――ドボルザーク・ド・ヴァーキンの息子として生を受けた。


 この世界には、天啓ジョブというものがあった。

 神様から授けられた、それぞれの天職のことだ。

 ジョブによって使えるスキルが違うから、それだけで人生が決まるといってもいい。


 子供たちはみな、16歳になると、神様から自分のジョブを教えてもらえる。

 それまでは、自由気ままに無責任な子供として、生きていられる。

 でも、この日を境に、ジョブを活かして大人になるんだ……!


 有能な人材は、前線に駆り出されたり、地位の高い人の下についたりする。

 そして無能なジョブを与えられたものは、迫害される。

 追放ならまだいいほうで、殺されたりもあるらしい。


 そして今年。

 ついに俺も、16歳になる。


「ドルク、長男であるお前には、特に期待しておるんだからな……!」


 父ドボルザークは、俺の頭をわしわし撫でた。


「はい……! お父様! 必ずやこのドルク、お父様の名に恥じぬジョブを授かってみせます!」

「当然だ。この私、剣神ドボルザークの息子なのだから! それこそ剣神や魔術王クラスの、最強のジョブでないとな……! はっはっは!」


 父はすっかり、俺に期待しているようだ。

 まあ、代々ものすごい逸材を輩出してきたというのが我がヴァーキン家だ。

 それに俺は、小さいころから剣神に直接剣を指導されてきた。

 産まれたときから、手塩にかけて育てられてきたのだ。


 そんな俺のジョブ天啓式には、街中から注目が集まっていた。


「お、本日の主役のお出ましだぞ……!」

「おお! あれがドボルザークさんの息子かぁ……!」

「さぞかし立派な人になられるんだろうなぁ!」


 神様からジョブを言い渡される教会。

 俺の出番を待ちわびた、大勢の人でごった返していた。

 ほかにも大勢の子供たちがスキルを授かるんだけど……。

 そのなかでも一番の大注目が、俺というわけだ。


「ドルクくん……! きっとすごいジョブを授かるわ……! 応援してる!」

「ドルクくん! 相性のいいジョブが出たら、私と結婚してくださいね!」


 などと、街中の女の子たちからも注目を浴びる。

 まあそれも当然だ。

 ジョブの良し悪しで人生が決まるのだから、誰と――いや、どのジョブと結婚するかは、人生において最も重要なことの一つだ。

 まあ俺はそんなことで婚約を迫ってくる相手にはうんざりしていたけど……。

 産まれたときから、将来の有望株としてそういう目でばかり見られてきたからな……。


「さあ、ドルク! ばしっと決めてこい!」

「はい! お父様……!」


 お父様に背中を押されて、俺は前に出る。

 教会に備え付けられた儀式台のところで、神父さんが俺の頭に触る。


「ではドルクくん……天に念じてください……!」

「はい……」


「それでは行きますよぉ……! えい……!」

「う…………!」


「出ました……! 出ましたぞ……!」

「ほ、本当ですか……!?」


 意外とあっさりしたものだな、と思う。

 こんなことで将来がすべて決まってしまうなんて……。

 俺はこのときほど、ヴァーキン家に産まれてよかったと思ったことはない。


「では、ドルクくん。ステータスを開いてごらんなさい」

「はい……! ステータスオープン!」


 この世界には、自分のことを詳細に示したステータス画面というものがある。

 ステータス画面は、ジョブを手に入れて初めて確認できるものだ。

 子供にはステータス画面はなく、大人になってから得られる。

 基本、ステータスは【ジョブ】によって全然ちがう。


 剣神などの戦闘系ジョブなんかだと、最初から筋力が高い。

 魔術王などの魔法職だと、魔力が高かったりする。

 逆に、農民などの非戦闘職だと、全部の数値が10しかなかったりもする。

 もし俺がそうなったら、終わりだ。

 まあそんなは、のだけど……。


 俺は恐る恐る目を開いて、ステータス画面を確認した。



==================

ドルク・ド・ヴァーキン 16歳 Lv1

ジョブ:DLC

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

スキル:DLC一覧

==================



「こ、これは…………!」


 正直、俺は絶望していた。

 全部の数値が……10!?

 ……って、それってつまり、農民と同じってことだ。

 剣神の息子が、農民レべルの戦闘力。

 それはつまり、人生の終わりを意味する。

 職やステータスがすべてだっていうのに、それがゴミだなんて……。


「な、なにかの間違いだ……!」


 しかし、なんど見ても数値は変わらない。

 しかも、なんだこの聞いたこともないジョブは。

 DLC……?

 なにかの略かなにかなのか……?

 俺がひとりでパニックに陥っていると……。

 横からステータス画面を、神父が覗き込んできた。


「こ、ここここ……これは…………!?」

「? 神父さん、これ……どういうことですか……!?」


「DLC……これは神話に伝わる伝説のアレではないか……!?」

「え……!? 本当ですか……!?」


 神父さんは、俺のジョブを見て目を丸くした。

 もしかして、神父さんは何かを知っているのか……!?

 それに、今神話に出てくるって言ったよな……?

 じゃあつまり、素のステータスが低いだけで、ジョブ自体は強力なもなのか!?


 そ、そうに違いない!

 ジョブの中には、特殊なジョブ効果の代わりに、ステータス数値が伸びにくかったりするものも存在すると聞く。

 そういうジョブは、だいたいスキルが超強力だったりするみたいだし……。


 しかし、神父さんはとんでもないことを言い出した。



「これは神話に伝わる、名前……!」



「え…………?」


 俺の、聞き間違いだろうか。


デーモンルシファークライシスの略ではないか……!?」

「は…………?」


 なんだそれ……。

 もしかして俺、とんでもないジョブを引いてしまったのか……?


「デーモンルシファークライシス……いつか地上に現れ、世界を滅亡させると言われている悪魔だ……」


 神父さんはそう言った。

 次第に、事の大きさに気づいた観衆がざわつき始める。

 これはまずい……。

 なんとか弁解しないと、俺は殺されてしまう……!


「で、でも……! 神父さん、そのデーモンルシファークライシスっていうのは……悪魔の名前なんですよね……!? お、俺のこれは……ただのジョブじゃないですか! 関係ないですよ!」


「黙れ……! この悪魔め……!」


 だめだ、もうなにを言っても通用しない……!

 ただでさえステータス数値がゴミみたいなんだ……俺を助けてくれる人なんていない……!


 ヴァーキン家の期待の息子が、ハズレジョブだった。

 このことは、ヴァーキン家の威信にもかかわる。

 それならいっそ、邪悪な悪魔としてしまったほうが、面目も立つだろう。

 だから父にも頼ることができない……!

 どうする……!?


 俺は父のほうを振り返る。

 父は、今にも怒り狂って俺を殺そうというような目線で睨みつけていた。

 なんとか自分の有用さを示さないと、本当に殺される……!


「い、今スキルを見せます……! 俺のスキルはきっと、役に立つはずです……!」

「おのれ……! 悪魔め、我々を殺す気か……!?」


 俺はみんなに聴こえるように、大きな声で叫んだ……!


「スキル発動:DLC一覧!」


 すると、俺の目の前に文字列が現れた。



==================


使用可能なDLC一覧


 ・色違いの帽子【初回購入特典】


==================



「な、なんだこれ…………!?」


 俺はその項目を指で押してみた。

 →色違いの帽子【初回購入特典】


 ――ポチ。


「うわ……!」


 すると、俺の頭の上に、虹色のド派手な帽子が現れた――!


「ど、どういうことだ…………!?」


 っていうか……それだけ……?

 もしかして俺のスキルって、帽子を召喚するだけなのか……!?

 そんなの、残念過ぎる……!

 剣神の息子が、ただの帽子召喚師だなんて……!


「そ、それだけ……!? こ、この……! 人騒がせな……!」


 などと、神父さんはなにやら怒り出した。

 いや、俺のせいじゃないんだけど……勘違いしたのはそっちだ。


「はっはっは……ま、まあ……ドルクくんが邪悪な存在ではないとわかったので、これにて解散ということで……」


 と神父は、俺にかけた疑いなどなかったかのように、店じまいを始める。

 なんだ、それだけか……と、野次馬も散り散りに去っていった。

 すれ違う人々が、俺の悪口を言っている。


「なーんか……ヴァーキン家の息子、期待外れだったな……」

「しかも悪魔と同じ名前のジョブとか……キモッ」

「あーあ、あんな奴に媚び売って損したぁ……」

「帽子出すだけって……っぷ……笑える……俺より雑魚じゃん」


 はぁ……。

 まあ、悪魔扱いされて殺されるのだけは免れたか……。

 でも、問題は他にある。

 お父様だ。


 俺は父のもとへ歩いていき、気まずそうに下を向きながら、話しかけた。

 父は腕を組んで下を向いたままだ。


「あの…………お父様。期待にこたえられず、申し訳ありません……! で、でも……俺、これからさらに剣の修行をします……! だから……っ!」


 しかし父は応えない。


「お父様…………?」


 間を置いて、父がゆっくりと顔を上げる。


「ドルクよ……。君はもう私の息子ではない……好きなところへいきたまえ……」

「え…………?」


 まるで他人の可哀そうな子を見るような目で、父は言った。


「早く……! 私の前から消えてくれ……!」

「…………ッ!?」


 父は怒りを押し殺してそう言った。

 ああ、俺はもう……この人の息子ではないのだ。

 失望された。

 本来なら俺はこの場で、父に殺されていてもおかしくない。

 そのくらいに、父は怒りに狂っていた。

 しかし、それを押し殺して、せめて俺を追い出すことにしたのだ……。

 ならば俺はもう、黙って出ていくしかあるまい。


「お父様…………今までありがとうございました。お世話になりました!」


 俺は深々と頭を下げた。


「ふん……せめて悪魔として葬れたほうがマシだったものを……! ヴァーキン家のものが、帽子しか出せないただの無能などと……! 認められるわけがないだろう……!」


 父はそう言って立ち上がり、自分の椅子を思い切り蹴った。

 そして俺に背を向けて、去っていく。


「はぁ…………これから、どうしようかな」


 俺にはもう行く当てもない。

 ジョブもスキルもない……。

 金も…………ない。

 家も…………ない。

 どうしようか……本当に。


「まあ、生きていくしかないよな」


 とりあえず、違う街に行こう。

 さすがにこうなったら、この街には居ずらい。

 誰も俺を、ヴァーキン家を知らない土地にいこう。


「よし! なんとかして生きていくぞ……! 新しい土地で……!」


 俺は街を出た……!


 そしてこの後俺は、とんでもないことを、ことになる。

 そしてその記憶を思い出したとき、この【DLC】というジョブの、本当の意味を知ることになる。


 まさか、このジョブが……スキルが、あんなことになるなんて…………!


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