突然春は跳ねる
古賀貴大
第1話
窓側の席は廊下側よりはマシなのかな。風の吹く音がよく聞こえてもっと寒く感じる。
残すイベントは卒業式のみとなって自由登校の期間だった。することもないし家にいても良かったけど親と友達に言われて私は学校に来ていた。そんな友達はまだ登校してないようだ。
ぼうっと窓から外を見ると空はすごく曇っている。もう帰ろっかな。
「いわちゃん、呼ばれてるよ」
「ん?」
「ほら、あの子」
クラスメイトの指差す方を見ると教室の前の入口に肩を越す二つ結びのかわいらしい女子が立っていた。知らない人。何事だろうと少し不安になる。
私が近づくとその子はパッと表情を明るくして大きな声で言った。
「イワイさんですか!?」
「そうですよ」
「はじめまして!六組の長山って言います!」
「はあ」
六組から一組まで遥々何の用だろう。同じ組になったことはないし友達の友達ってわけでもないと思う。小学校が一緒だったとかかな。それにしても何の用?
「あのね、あたしも春からイワイさんと同じ高校に行くの!」
「えっ」
「自分以外にも同じとこ進学する子がいるってさっき職員室で先生に聞いたんだぁ。一人で心配だったから嬉しかったの」
酷く話し方の幼い子だと思った。先生も勝手に人の進学先を他人に伝えるなんて無神経だと思う。
「イワイさんは体育科なんだよね?あたしは美術科!」
「それじゃ…」
同じ高校に行くって言っても科が違うとあまり会う機会はないと思う。この中学と比にならないくらい高校の敷地は広くて生徒もたくさんいる。
中学の三年間、私と長山さんが今日まで会うことのなかったように高校で交流することなんてあるのかな。
「もし良かったらイワイさんに体育科のこととか教えてほしい!これからよろしくお願いします!」
にこにこな長山さんはお辞儀をして跳ねるように去っていった。
「さっきの子、何だって?」
私が席に戻るとクラスメイトが寄ってきた。
「高校が同じだからよろしくって」
「律儀~!」
「ね」
知り合いがいない方が楽かも。そう考えてたから長山さんの存在はちょっと億劫に感じた。でもどうせそれぞれに友達ができてすぐに疎遠になるだろうな。
「外、雨降りそ~」
「うん」
雨なんか降ったらもっと寒くなる。傘持ってないし今日は帰ろうと決めた。
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