正義と悪との碧と紅
ひとえあきら
#01 恐怖のブラックポークキングは地獄の使者
「――おじいさんは、人形に、デッカードと名前を付けました」
ふと見ると、傍らの幼い弟はすやすやと寝息を立てている。
「――あら、もう寝ちゃったのね、ふふ」
それにしても――と姉は空を見上げてふと暗い顔になる。
「――なんて酷い嵐――あの日も、こんな夜だった……」
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎((/))◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
ピカッ!! ピシャッ!!
遠くで幾つもの稲光が煌めく。
――ッ、ドドーン!! バキッ!! ぐわっしゃーん!!
一瞬遅れて何処かに落雷の轟音が響く。
夜も深い午前2時。都会でも稀な鬱蒼とした森の奥。
折からの豪雨と雷鳴に包まれたここで、ある老科学者が何者かに急かされるように作業を続けていた。
『東洋水産未来科学研究所』
かつて、とある企業の創始者が人類の未来の為にと創立した研究所。
しかし、時は流れ、我が国の深刻な経済悪化、そして世界中を覆うパンデミックの脅威により既に閉鎖され、現在は幽霊屋敷さながらに朽ち果てた外観を曝け出している。
では、何故、今更このような処に人が居るのだろうか。それもこんな深夜に――。
「か、完成じゃ……」
先程からの作業を終えたのか、彼は真っ白くなった頭を上げ、壁面のレバーに手を伸ばす。
一度手を掛け、暫く逡巡するように一呼吸置くと、決心したようにぐいとそれを引き下ろした。
バチッ!! バチバチバチ!!
たちまち部屋中のそこかしこから火花が飛び散り、機器の幾つかはその衝撃で弾け飛ぶ。
それにも構わず、老科学者は目の前に横たえられた完成したばかりのそれを一心に見つめていた。
暫しの時間の後――
「い、いかん!! 失敗じゃ……」
彼は絶望の余りへたり込んでしまう。
彼の目の前に横たわる――それは人、であろうか? 或いは1/1スケールの人形かもしれない。
それは半透明の躰の左半身を紅く、右半身を碧く染められていた。
「色が半々……これでは"
悩みつつも、電源を落とそうと壁面のスイッチを切ろうと立ち上がる――が。
グワッシャーン!!
突然、壁面の一部が弾け飛び、巨体が室内に飛び込んできた。
「――う、ううっ!! ブラックポークキング!!」
そこには前身黒光りのするボディのロボットがいた。
昔の悪役プロレスラーか関取のような巨体に黒豚のような頭部――二足歩行する豚のようだ。
「カーレェェェーーー!!」
そのロボットは雄叫びを上げると老科学者を捕らえんと迫ってきた。彼は逃げようとして蹌踉けた弾みに何かのスイッチを押してしまう。
「いかん!!」
その瞬間、先程の人形を拘束していた装置が外れ、その人形はむっくりと起き上がった!!
「!?」
起き上がった人形――いや、これはもうロボットだろう――を敵と判断したのか、
「ジャマモノ、ハイジョ、ハカイ、スル!!」
そしてその紅と碧に染め分けられたロボットへ豪腕を振り下ろす――!!
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎((/))◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
「――!!」
姉は、何かの胸騒ぎを感じて壁の時計を見た。
もう、午前2時半。余りにも、遅すぎる。
何故か矢も楯も堪らず、コートを羽織って玄関に向かう。
「――お姉ちゃん」
一緒に寝ていた弟も目が覚めたのか、起き出してきた。
「アナタは寝てなさい。すぐ戻るから――」
「でも……」
こうしている間にも胸騒ぎは収まらず、彼女は天を仰いだ。
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎((/))◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
「ギ……ギギ……」
振り下ろした豪腕を軽く受け止められた
実際は振り下ろした方と受け止めた方、両者の力が拮抗しているがために動きが止まっているだけではあるにせよ。
「ブー!! ジャマモノ、ハカイ!!」
このままでは埒があかないという判断か、一旦引いて今度は相手を捕まえようとするが――。
突進してくる黒い巨体を身軽な動作で避けた人型のロボットは、初めて口を開いた。
「キミは……誰? 何故、こんなことをする……?」
黒豚型ロボットよりは余程人間らしい、知性すら感じさせる物腰だ。
老科学者はそのロボットに叫んだ。
「――そいつは敵じゃ! 気を付けろ、
「――敵? アナタは――
「そ、そうじゃ。其奴は"
「了解、
その時、ブヒヒーッ!!と奇声を上げて壁に突っ込んでいた当の相手が再度こちらへと突進してきた!
「戦え、ニロー! お前の武器は――」
「確認済み。
彼の両腕がギラリと輝く。左腕は紅く、右腕は碧く。信号機の色と似ている気もする。
「
彼の黄色い瞳が輝き、V字に伸ばした光り輝く両腕を突進してくるブラックポークキングに打ち付けるようにクロスさせた!
「――
その瞬間、クロスされた腕から相手の体内に照射されたマイクロ波が内部の回路を破壊し尽くし、一瞬動きを止めたブラックポークキングは全身を小刻みに震わせると、躰のそこかしこから火花や黒煙を吹き出し、どうと地に伏した。
「――ふう。何とか、助かったか……だがこれをどうするか……」
床にへたりこんだ老科学者――東洋寺博士は傍らに立つ人型ロボット――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます