第40話 テンマ防衛戦は、備えた者の勝ち?



クマベア族たちの加勢もあり、『白狼の森』での戦線に目処がついた。


となれば、次に確認すべきは、領民たちのいるテンマの村だった。



シンディー、キャロット、コロロの三人を乗せた白龍はすでに到着しているはずだ。


敵兵が送り込まれていたとして万が一もないだろうが、無事はこの目で確かめないことには分からない。


「兄貴、オレが爆走してやるよっ!!!」


再び赤虎には活躍してもらって、村へと急ぎ引き返す。


浜辺から登る際のそり返るような崖の斜面も、獣王には無関係だ。あっさり飛び越えて、裏手から村へ入る。


待ち受けていた光景は、ほとんどは予想の範疇だった。


「く、くそ! 村に入ることさえできないっ!!」

「しっかりしろ! お前ら、幹部である私が指揮を取った別働隊による奇襲だぞ!

 なんの成果もなしで戻れば、報酬の金が手に入らん! ここはなんとしても…………ぐぁぁっ、なんだ!? 落とし穴!?」


いや、むしろその上を行っていた。


やはり敵襲はあったようだが、その対処はほとんど完璧だ。



敵兵は、正面のクマベア族による警護を迂回し、横の砦から侵入を図ったのだろう。


しかし、まず強固な柵に侵入を阻まれ、さらにはそこへ仕掛けていた罠地に、面白いように惑わされていた。


「く、くそ!! 子爵家出身の私ともあろう者が、ろくに魔法も使えぬ! 変なものばっかりだぞ、ここ!!」



砦の少し上から、苦しむ彼らを見下ろしているのはキャロットだ。


男勝りで、姉御肌なところのある彼女らしい。

腕組みをして、仁王立ちになっている。


「あら、ありがとう。敵に言われるのって、最高の褒め言葉よ」


身内以外からの賛辞には、デレデレ対応は鳴りを潜めるらしい。

乾き切った声で言って、ポニーテールの髪を結び直す余裕さえ見せていた。


運良く別ルートから切り抜けたきたものにも、安寧はなさそうだ。



「なんだ、こいつら!! 街で名の知れた海賊・『昇り龍』の一団に、妙な能力を使う亜人!? なんだよ、ここは!! 異世界か!?」


元海賊たちがその行く手の右を、クマベア族とデミルシアン族が左を、それぞれ遮る。


決して村への侵入を決して許さぬとばかり、膨らむように並んでいた。

彼らの握る武器は、ドワーフらの作った特製のものだ。

うまく使いこなせれば、その力を増幅させる。


「ディルック様に教わった通りの戦法でいくぞ!」


陣形を崩さぬままにして、敵を払い除けていく。


その戦法は、こうだ。

デミルシアンたちがその素早い動きで先手を打ち、敵兵を引きつけて、できた隙にクマベアたちが第二の強攻撃をしかける。


逃げ延びたものは、元海賊らの餌食となっていた。


さすがに公爵家の子息をリーダーに持つ部隊だ。

貴族家出身なのか、多少なり腕が立つものもいたが、


「この、くたばれ爺! 戦場に出てくるには、50年遅いんだよ」


「老兵蘇りて、主の留守を守る! その方こそ、この爺に剣を向けるには50年。若様に楯突くには、100年早い。

乳飲み子からやり直すでござる。

 …………なんてのう、ちょっと格好をつけすぎたか」


剣士・バルクがあっさり組み伏せて見せた。


俺が剣を抜くまでもなさそうなので、柄に掛けていた手を離して近寄る。


「おぉ、若様! 戻られましたか! ……もしや先ほどの言葉は聞かれていましたか」

「はい、しっかりと」

「そ、それはお恥ずかしい……。だがしかし、覚悟は本当でござる。この爺、命を受けた恩は命を賭す所存!」


さすがは生粋の剣士だ。持っている覚悟が、並外れている。


けれど、とても命を懸けるほどの状況には見えない。


「中には入られてなさそうですね?」

「うむ、見ての通りでござる! この一線は譲っていない。

 クマベア族の一部は、『気』を扱うエリートクマに進化しているでござる。弓や槍、刀程度であれば、多少ならば当たっても問題ない。

 それに、元海賊兵たちも、なかなかドスの効いたいい目をしおる。存在だけで、敵を威圧できているようです」


うん、ならばなによりである。


村人たちに危険が及ぶようなことが、決してあってはいけない。



きちんと避難所にしてある屋敷に逃げ込んでいるだろうか。

俺がその方角を見渡してみれば、ちょうど雲と同じ色。

空かける白龍がこちらへと戻ってくるところだった。


「おぉ、我が主人か! 偵察に行ったが、援軍の部隊は来ておらぬ。安心するとよいぞ」

「……白龍はよく気が回るな」


「そうだろうとも。加えて民やシンディーならば、皆、こちらに身を隠しておる

「白龍、助かった! もう引っ込んでくれていいぞ。ありがとうな」

「なに、また使ってくれるといい」


俺は、白龍の召喚をとく。

最後に少しでも加勢しようかと、クマベア族らに加わりかけた時だ。


「もうダメだ、えぇい、せめて倉庫だけでも燃やしてくれる!!」


魔法を使える貴族の兵によってだろう。


窪地になっている砦から、火の渦を帯びた矢が飛んでくる。


「くっ、不覚!」


それはちょうど敵と仕合をしていたバルクすらすり抜けて倉庫の扉へと伸びてきた。


俺はすぐさま、そこまで駆け抜けて、数本の矢の正面に入る。


「わ、若! なにを!」

「ディルック様!!」


直前で動きを見極め、全ての矢を両手で捕まえてやった。


そのまま、龍の火で燃やし尽くす。


「おぉ、さすが若様だ!!」

「すげぇ、飛んでいる矢を握りつぶすだけでなく、焼いちまうなんて」


灰の残った手のひらを叩いて払ってから、


「もう『白狼の森』で、ドルトリンたちは捕らえた。お前たちも、とっとと帰ることだな」


腹の底からの声で、敵兵に告げてやった。


信じるものと、疑うものが半々だった。

だが疑うもののうちには、


「も、もうここは本当ということにして、撤退しよう! あまりにも鉄壁だ。軍隊でなくては落とせないっ。三百対五十で歯が立たないんだ」


こう正直に吐露するものもいて、すでに後ろ姿を晒して逃げ帰っていくものも多数ときた。


隊は壊滅し兵士たちが、ただの烏合の衆へと変わる。


「ゆ、ゆ、ゆ、許してくれぇ!! ラベロ様ぁ!!!!」


部隊を率いたアクドー傘下の幹部だけは生捕りにして、勝負あり。



敵兵を全て追い払った俺たちは、勝鬨を上げるのであった。



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