【コミカライズ2巻11/24発売!】追放貴族は、外れスキル【古代召喚】で英霊たちと辺境領地を再興する ~英霊たちを召喚したら慕われたので、最強領地を作り上げます~
第2話 外れスキル【古代召喚】の大覚醒! 龍、召喚します!
第2話 外れスキル【古代召喚】の大覚醒! 龍、召喚します!
辺境の地・テンマ。
文官だった頃から、その存在は知っていた。
あまりに辺境にあることや、他種族も多く住むこともあって、広々とした辺り一帯が国の支配の行き届かぬ土地なのだとか。
俺が赴任することとなったのは、唯一、一応は管轄下にあるらしい、小さな村とのことだった。
しかし、あまりに過酷な環境に前領主は逃げ出してしまって以来、後任はいなかったという。
そこは、王城のある都からはあまりに遠い。馬車を使っても、二週間以上かかる距離だ。
海と山に囲まれた場所にあり、交通の便がとかく悪いのである。
そこまでの遠出となると、まともな運送屋はほとんど受けてくれなかった。
そういう訳で仕方なく、俺はボロボロの馬車に揺られている。
王都とは、悲しい別れだった。
とんだ嘘だとはいえ、罪を背負い王都を去る身だ。
なにも言わず、ひっそりと夜中に去るつもりだったのに、
「本当に行っちゃうんですか!? あなたのような素晴らしい文官がなぜ…………!」
「いつも、本当に助かってたのに。民の声も聴いてくれたあなたがどうして」
「あぁ、私も連れていって欲しかったなぁ。お嫁さんにして欲しかったのに」
「また酒飲もうって話してたのによぉ! ディルック様ぁ、どうしてぇ」
だなんて惜しんでくれる人が、騒ぎになるほど集まっていた。
交流のあった、公爵令嬢であるナターシャもお忍びでやってきて、
「絶対また会いましょう、ディルック。そのいつかを信じてるから」
と涙を浮かべてくれていた。
無の令嬢。
そう呼ばれるほど、普段の彼女は感情をなかなか表に出さない人だ。
そんな彼女が俺などのために泣いてくれたのだから、思い返しても胸が熱くなる。
ーーだが、そんな彼女たちの声も今は遠く。
馬車は、俺と荷物だけを乗せて、まるで人気がなく瘴気に満ちた森の中をしずしずと進んでいた。
夏も近い季節だ。
植物たちの勢いは、いまや盛りを迎えているから、なおのこと。
瘴気とは、魔素を含む濁った空気のことを言い、魔物を引きつける特徴を持つ厄介な代物だ。
さっきから、それがあたりに充満し続けている。
空は綺麗な夕焼けだというのに、なんとなく空気が重い。
もう村は近いはずなのに、どうしたことだろう。なにか周囲で異変でも起きているのだろうか。
俺は念のため、刀に手をかけておく。
「ディルック・ラベロ様。もうすぐ、テンマ村に着きますよ」
到着を告げた御者の声と、耳を刺すような悲鳴とはほとんど同時のものだった。
すぐあとに、人ならざる唸り声がしたから、魔物に襲撃されたのだろうか。
「御者のもの、ありがとう。荷下ろしだけお願いするよ。終わったら早く帰るといい。ここは俺が請け負う」
「は、はいっ! かしこまりました!」
俺は、刀を手にして、馬車を飛び出していた。
襲われているのは、老人が一人に、若い女性と子供の三人だ。
どうやら、コボルトの群れに捕まってしまったらしい。
俺はさっそく剣を抜き、
「ラベロ流・星影斬り!」
さっそく数体を切り捨てた。
相手の影へ潜むように沈み込み、その背後を切りつける技だ。
魔法の適性こそないとはいえ、実家であるラベロ家は、代々王家の護衛騎士を務めてきた。
俺とて、幼い頃から叩き込まれてきたので、剣の心得はある。
コボルトたちの敵意が、一斉に俺へと集中する。
コボルトは比較的、危険度の低い魔物だ。
倒すのは、どうということはなかった。
単調で、本能に任せた彼らの攻撃を読んでいなして、斬り伏せる。
「おぉ、なんだ、なんでこんな凄腕の剣士様がこんなところに!? わしゃ、夢でも見とるんかの」
村人と思しき老人は恍惚とした目で、俺の姿を見ていた。
俺はひっそりとまつげを伏せる。
いいや、これはそんな大したものではない。
魔力を帯びさせることができない以上、いかに剣の腕が立つとも、威力は知れている。
コボルト程度でよかった、と一息つきかけたのが大間違いだった。
「……な、なんでだよ」
不意に頭上から影がさしたと思えば、黒い液体がしたたり落ちてくる。
あたりの雰囲気が、さらに悪化していた。
「みなさん、離れてください!」
これは毒性の液体だ。
ふれればすぐに肌がただれて、溶けてゆくなんて話も聞いたことがある。
そこにいたのは、大蛇・サーバント。
俺を、いや、乗ってきた馬車ごと飲みこみそうな大きさの魔物だった。
先ほど馬車で感じた瘴気に、誘われてきたらしい。
「……こりゃ、コボルトとは訳が違うな」
どうやったら敵うというのだろう。
俺は、舌を噛んで考えを巡らせるが、芳しい案は浮かばない。
冒険者ギルドにおける危険度ランクはA、手練れのものでも一人では敵わないとされる相手だ。
「ひ、ひぃ! なんじゃ、こんな大蛇、長年生きてきたが初めて見たわいっ」
「け、剣士さん!」
恐れて、身を縮こめ合う村人たち。
挙句に、子供は大声をあげて泣き出してしまう。
どうすればいい……!? 俺は速くなる胸の鼓動を感じながら、考えを巡らせる。
村人たちを守らなければならないのは、まず第一に当然のことだ。
それに俺とて、ここで死ぬわけにはいかない。
どうせなら、ヒギンスらを見返してやる、立派な土地にしてやる、とそんな意志でここまで来たのだ。
だが、良策が思いつくかどうかはそれと別問題だった。
時間を作るため、ひとまず大蛇の攻撃を防ぐ。
そのとき、頭の中にそれは流れ込んできた。
『スキル・古代召喚を利用できます。領主就任特典のため、0ポイントで召喚可』
との一文だ。
訳がわからなかった。
これまで、全く使えなかったくせに、今になって、どうして。
だが、おちおち考察している暇も、くよくよ外れスキルだったことを恨んでいる暇も、もちろんない。
「なんとでもなりやがれ! スキル発動!」
ちょうど、大蛇がその巨体を俺へと打ち付けようとしてくるところだった。
俺は、詠唱を唱えながら大蛇に切り掛かる。身体を半分に割いて仕舞えば、絶命してくれるはずだ。
「ラベロ流・半弦斬り!」
真正面に剣を振り下ろす、渾身の一撃。
それを見舞うとともに、俺はつい目を瞑ってしまった。
死ぬかもしれない、と思った。
悔いだらけだが、仕方ないとまで考えたし、世話になった人の顔が駆け巡る。
しかし、どういうわけか俺は生きていた。
というか、痛みの一つ襲ってこない。そろりと目を開いてみて、驚いた。
「シャァァァ!!!!」
「我輩のなりそこないが、偉そうに吠えるでない。蛇よ」
花弁のようだと思ったが、そうではない。これは白色の鱗だ。わずかに脈動している。
龍が一匹姿を現していたのだ。
目を疑わざるを得ないが、その容姿は完全に龍。
伝説上の生き物とされる、龍そのものだった。
宙に悠然と浮きつつげるその姿は、資料などで見た姿形と一致している。
全身を純白の鱗で覆い、雄大な羽を動かす。立派な髭に厳しい顔つきをしているのだから、間違いない。
その龍が、鉤爪で蛇の尾をしっかりと掴んでいた。
まるで物を投げるかの如く、龍は蛇を遠くへ放り投げる。
それから、身体を返してこちらを見た。
「主人よ、いかがする。主人。主人、聞こえておらぬのか」
「な、なに、主人って、もしかして俺のこと……?」
「そりゃそうとも。ディルック・ラベロ様。あなたが、吾輩を呼んだのだろう?」
……いや、【古代召喚】を使いはしたが。龍を呼んだとは思っていない。
せいぜい、古代遺物の剣でも振ってくるものかと考えていた。
にしても、真正面から見ると、すごい迫力だ。
さきほどの大蛇でさえ、この龍の前では小さく見える。
言葉が喉元から消えてしまった。
それは村人たちも同じらしい。爺やに至っては、気絶してしまっている。
……俺もそうしたいくらいだった。
冷静になろうとしてみても、わけがわからない。
文官として、魔法の知識はある方だが、それらを超越してきている。
龍が喋っているのだ。
しかも、明らかに俺を主だと呼ぶ。
「初召喚まで偉く時間がかかったが、吾輩が出た以上、心配は要らん。この程度の魔物は、小物だ。もう主人一人で、あっさり倒せるだろう」
「いや、魔法もろくに使えない俺に倒せるような相手じゃ…………」
「それなら、心配無用だ、主人。
今みたところ、主人のスキルは召喚したものの能力を一部、手にできるものらしい。
主人からは今、かなりの魔力が溢れておるぞ。それも、歴戦の龍たる吾輩が震え上がるほどのものだ」
「は、はぁ?」
「嘘ではないぞ、主人にそんなしょうもない虚言は吐かないのだ、吾輩は。火の玉なら吐くが」
「……つまりなんだ、俺も火の玉が吹けると?」
「うむ。それも、吾輩と同じレベルの威力を持った龍火球だ」
半信半疑……というより、常識的に考えてあり得ないことだと思った。
さんざん魔法には憧れたが、一度だって使えた試しがない。
だが、ここはもう信じてみるしかない。
俺は剣に、息を吹きかける。
すると、体の中でゾワっと魔力が動くのが分かった。
そして、口からは本当に炎の息吹が出ているではないか。
「うむ、それこそ吾輩の技・龍火球じゃ」
俺にとっては、初めての感覚だった。
身体の底からうずうずと、なにかエネルギーのようなものが湧き起こってくる。
……これが魔法を使うということか。これが魔力の流れであり、力の源。
火を纏った剣を、思わず見つめてしまう。
「シャァァァッ!!!!」
大蛇は、龍にあしらわれたせい、ご立腹らしかった。
息を荒げて、今度は牙を剥いてくるが、もう怖くはない。
身体の底から溢れる魔力が、底知れないが確かな自信を生み出していたのだ。
それに従って、
「ラベロ流・星影斬り!」
俺は相手の動きを読み、隙を得たところで、蛇の腹へ太刀を振り下ろす。
次の攻撃に備えようと、足首の力だけで身体を捻り、すぐに方向を転換するが…………
それで、終わりだった。
首と胴体に分かれ一刀両断された蛇が地面へと落ちて、焦げる。
……もはや、即死だったらしい。
「な、吾輩のいう通りであったろ? 主人よ」
龍がそう言ったのち、
「すごすぎる、なんなんだこの剣士様は! なんぞ、大きな生き物を手懐けておる!?」
「ありがとうございます、ありがとうございます!!!」
村人たちからは歓声があがる。
先ほど泣いていた子供も今は泣き止み、俺の方へと笑顔を見せていた。
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