【コミカライズ2巻11/24発売!】追放貴族は、外れスキル【古代召喚】で英霊たちと辺境領地を再興する ~英霊たちを召喚したら慕われたので、最強領地を作り上げます~

たかた ちひろ

一章

第1話 王側近だった俺、企ててもいない謀反の罪をなすりつけられて追放される。


「な、なんだ。この張り紙は! 俺を、『辺境地・テンマの領主に異動とする』だって……?」


それは、まさしく晴天の霹靂だった。


王国城門に張り出された人事異動の掲示を見て、俺、ディルック・ラベロは唖然としてしまう。



なにげない朝のはずだった。


今日も、国のため、人のため、しっかりと仕事をこなそうと思っていた矢先にこれである。


つい、持ってきていた鞄を地面に落としてしまった。そこから、ばらばらと資料の束が転がり落ちる。


慌てて拾い集めて俺は、門番に声をかけた。


「……なぜ、俺がこんなことに。あの、中には入れないのですか?」

「決して入れるな、とゲーテ王より命じられております」


「でも、なにが起きているのやらさっぱり分からないのですが」

「とにかく、ラベロ元(・)側近を決して城内に入れるな、と言いつけられています。これ以上、なにか言うようなら、処分いたしますよ」


まったく、取り合ってもくれなかった。



ゲーテ王に、いったいなんの心境の変化があったというのか。

俺は頭を悩ませるが、答えが出るわけもない。


思い返してみても、なんの原因も思い当たらない。

昨日までは、むしろ良好な関係を保ってきたはずなのだ。昼の食事だって、一緒に取らせてもらったくらいだ。


俺は諦めきれず、城門の前で立ち尽くす。


ここは、王国に仕えるようになって5年、毎日のように通っていた門だ。



上部に大きく彫られた王家のイチョウ型家紋を見上げていると、ふと過去の記憶が甦ってくる。



苦々しく残って離れないのは、『外れスキル』が発現してしまった日のことだ。



スキルとは、18の歳に貴族家の血筋なら誰しもに発現する魔法能力を言う。


たとえば、『炎属性・剣適性』などが一般的なもので、魔法の属性と適性のある武器や攻撃方法などが示される。



普通これらは血のつながりにより、親から子へと継承される。



俺の実家は、伯爵家であるラベロ家。


王の剣として各地の街に派遣され、護衛隊長を任される家である。

実際、兄たちは『炎属性』魔法とさまざまな武器の適性を与えられたのだが…………。



なぜか俺には、属性魔法は一つとして与えられなかった。



唯一付与されたのも、【古代召喚】なる妙な名前のスキル。



付与式を行った神官も、見たことがないものだったと言う。

そのため、いっさい使い方もなにも分からなかった。


色々と試行してみるが、発動すらしない。


つまり『外れスキル』だったのだ。



魔法もスキルも使えないのでは、貴族として王国に貢献できるわけがない。


そう決めつけられた俺は、仕官の話を白紙に戻されてしまった。



しかし、俺はそれでも仕官を諦められなかった。

往生際が悪いと言うべきなのかもしれない。



そこから、俺は必死に勉強をはじめた。


歴史、政策、経済といった実用的なものから、美術や音楽といった芸術まで。

ほとんどのものに手をつけ、寝る間も惜しんで学習を続けた。


その甲斐あり文官の試験に通り、俺は別口から、王国城に仕える身となったのだ。



その後も努力は惜しんでこなかった。


より国をよくし、人々の生活を作るため。

とにかく、必死に仕事に励んだし、新たな知識を得るのも怠らなかった。



それがゲーテ王の目に留まったらしい。

俺の提案した政策が悉くうまくいったこともあったのだろう。


文官としては初めて王側近にまで昇格したのが、つい数ヶ月前のことだ。



「……それが、なんで…………」



打ちひしがれて、城門の奥を見ることしかできなくなる俺。


そこへ、ケラケラケラと汚い笑い声が耳をつんざいた。


振り返ってみれば、立派な服身を包んだ一人の男だ。

金色の長い髪をかきあげ、汚く笑う。


「わからねぇ、って顔してるなぁ? いや、実にいい顔だ。お前のような外れスキル持ちに実にふさわしい、情けない顔だぜ。

 その黒髪、今すぐここで全部剥ぎ取って、より情けなくしてやろうか。ひっひ!」


アクドー・ヒギンス。


ひょろっと背の高い、きのこ頭が特徴的な男だ。

公爵家の長男坊である。


俺と同じ25歳と言うこともあって、その顔は貴族学校に通っている時から飽きるほど見てきた。


基本的にいつも、気持ち悪い笑みを浮かべて、俺を目の敵にしてくる。



彼は、宰相補佐を務めるエリートだ。


と言って、「親の七光り」「実力はゼロ、むしろお荷物」などと影口を叩かれているが。


実際、貴族学校にいた頃も、彼の素行や成績はかなり悪かった。

それだというのに、学校を出るやすぐに官位持ちになったのだから、ヒギンス家は格が違う。


「せいせいするぜ、お前のアホ面見なくて済むと思えばよぉ。

 学生の時から目障りだったんだ、いつも成績一位ばかり取りやがって」


「今さら何の話をしているんだ、ヒギンス……」


「あぁん? 「様」はどうした? お前は、もう側近様じゃないんだぜ。へっへっ。

しかし、気分がいい。まさかゲーテ王、こんなに早く追放してくれるとは」


ヒギンスが、声をひそめて漏らす。

その言い草に、点と点が繋がった。


「お前、まさか……謀ったのか? 俺を追放するよう仕向けたのか!」


俺はつい、ヒギンスに掴みかかりそうになる。

が、自分の立場を考えて、どうにか手を下ろした。


「へっへ、さぁなぁ。教えるかよ、辺境田舎貴族なんざに国の情報を漏らすと怒られちまうぜ。

 まさか、『側近の文官が国を乗っ取ろうとしている』なんて漏れたら大変だァ。

 ひっひっひ、おもしれぇ」


……間違いなさそうだった。


親のヒギンス公爵を使って、ありもしない謀反の話を吹き込まれたのだ。



「どーせ、もうお前が何を知ったって無意味さ。お前は金輪際、城の中に入ることもできないのだからなぁ。

 お前と、僕の親父の格の差を考えれば、どっちを信用するかなんてすぐ分かるだろ?」


「……くっ」


「むしろ、処分が甘いくらいだ。王も、元側近のお前に、死刑まではくだせなかったんだろう」


……ゲーテ王。


さぞかし心を痛めただろうか、それとも……。

主の心に思いをやるが、もう後の祭りだ。彼の本音を聞く機会はどうしたって俺には与えられないのだ。


俺は、ぎりっと歯噛みをする。


今に殴りかかりたくもなるが、拳を強く握り、それを押し込めた。


「お前は追放されたんだよ! へんっ、しょうもない雑魚貴族出身のくせに、王に取り入ろうなんて真似するからだ」


アクドーは俺の耳元で、ねっとりと笑う。


事実無根も甚だしい。


俺はただ、ただ、国のためにとこの身を捧げてきただけ。それをゲーテ王が拾い上げてくれたというだけ。


……だが、もう弁明の機会も与えられない。


「とっとと失せろよ、貧乏カスの裏切り者さんよォ。辺鄙そのものな、ド田舎でせいぜい反省してな。まぁ、魔窟のような未開拓地と聞く。外れスキル持ちのカスが生き残れるかどうかも分からねぇがな」


まだ仕掛かり中のさまざまな政策のことが俺の頭をよぎる。


国内の統治に、経済動向、諸外国との貿易など。

挙げていけばキリがない。



だから毎日のように、王や官吏たちと議論を交わし、よりよい策を練ってきた。

時間を決して惜しまず、毎日のごとく資料や過去の文献などに追われた。


だが、それらはもう俺の管轄から離れてしまった。


今度ばかりは、諦めない、という権利すら俺にはないのだ。


俺にできるのは、


「……ヒギンス、国を頼んだぞ。この国はお前の私利私欲のために回ってるんじゃないからな」


せいぜいこう言い残すことだけだった。


最後の、反撃というべきか。



それを受けて、はんっと息を吐いたヒギンスは俺の頬をはたく。

癇癪に触ったらしく、


「てめぇみたいな、落ちぶれ田舎貴族に忠告されるいわれはねぇよ、雑魚が!! 

王の側近になったくらいで調子に乗るんじゃねぇよ。お前みたいな外れスキル持ちのカスに、務まるしごとじゃなかったのさ。諦めて今すぐ消えろ!!」


こんなふうに叫び上げた。


場がしんと静まり返る。


先の門番はそれに一切の反応を見せず、さも当たり前かの如く、ヒギンスだけを王国城内へと通した。


彼との距離が、どんどんと開いていく。


それはまるで、俺と彼の決定的な差を示しているかのようだった。




俺が二度と踏み入れられない場所に、彼は消えていった。


こうして、俺は王国城を追放となったのだ。






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