亜来学院の異端児〜死神の子孫して人を救いそして英雄になる〜
夜星。
第一章 序章 蘇る
この日の東京はいつになく過ごしやすい日和だった。
ふと、顔を見上げるとそこには雲一つない
風は心地よく、草木は静かに揺れ、鳥たちは美しい音色を奏でながらどこまでも続く秀麗な空を自由に羽ばたいている。
こんな日を一言で表すならばこの言葉しかないだろう。
嵐の前の静けさ————————————
昼下がりに見上げた空は夕刻になるにつれてその色を失くし黒くて分厚い雲が空を覆い尽くしていた。
銀髪の少年の頬に一粒の涙が音もなく流れ落ちる。
涙はしだいに激しさを増しやがて大粒の雨へと変わりゆく。
空から無数に降り注ぐ大粒の雨は少年の心を奥底から
まるで、神の逆鱗に触れたように
それはこの世の理を覆すように銀髪の少年の目の前に置かれた
全身を黒い
少年は黒い大鎌のピアスを揺らしながら目の前に佇んでいる青年の名を口にする。
「
少年が青年の名を口にした次の瞬間、何十年もの間止まっていた秒針がカチッと音を響かせるように
周囲から聴こえていた悲しみ
そんななか木棺の前で綺羅をまっすぐ見据えている少年のことを呼ぶ青年の叫び声が聴こえてくる。
「龍斗くん! そこから早く逃げるんだ!!」
龍斗と呼ばれた銀髪の少年はその声に反応することなく立ち尽くしていた。
すると、龍斗のすぐ横を黒装束を着た黒髪の青年が腰に差した日本刀に手を添えながら通り過ぎる。
青年は龍斗を護るように目の前に立つと腰に差している日本刀を鞘から抜き取り虚空を切るように振りおろす。
「
人の心を包み込むような声色で放たれた
青年は振り下ろした刀をゆっくりと鞘に収めながら俯き涙ぐんだ小さな声で言い放つ。
「——————
顕現した水刃は斬撃の雨となり綺羅を目掛けて一気に降り注いでいく。
綺羅は水刃が降り注ぐなか木棺の上で避けることなく佇んでいるだけだった。
そんな綺羅の姿を青年はただ茫然と見据えることしか出来なかった。
青年が腰に収めた刀は光の粒に変わり天へと昇り消えていく。
青年は龍斗の元へ駆け寄ると先ほどの湿った表情ではなく柔らかな表情で声を掛ける。
「間に合ってよかった。さぁここから早くお母さんといっしょにっ!?」
青年は龍斗の顔色を見て言葉を失った。
龍斗は立ち尽くしていたのではなく自らその場にとどまり目の前に佇んでいた綺羅を見据えていたのだ。
そこにいたのは幼い少年の姿ではなく現実を受け入れようと必死に足掻いている大人の姿が青年の目に映った。
青年は哀しげに言葉を零す。
「……龍斗。ごめんな。綺羅にぃを助けられなかった……」
青年が龍斗の肩に手をかけて俯いていると突如舞い上がっていた土煙が黒い靄に一瞬で掻き消される。
「……っ!?」
黒い靄はゆっくり収まりそして綺羅が姿を現す。
青年は綺羅の姿をみて驚愕する。
全身を覆っていた黒い靄は消え身体には紫色の異様な紋様が張り巡らされており、あれだけ降り注いだ水刃は綺羅に傷一つ付けていなかったのだ。
「どういう……ことだ……っ!?
綺羅は青年の問に応えず
「俺は俺だよ……。
雫月は綺羅の変わり果てた姿をみて決心したように唱え始める。
その声色は後悔と怒りが混ざったような哀しいものだった。
「
蒼い
雫月はそのまま流れるように刀を鞘から抜き取り綺羅の首を目掛けて振り抜く。
「ごめんな。助けてやれなくて……っ!? がはっ……」
雫月は何が起きたのか分からなかった。
綺羅の首を捉えたはずの刀は鈍い金属音とともに宙を舞いながら天井へ突き刺さり雫月は全身を強く打ちつけられたような感覚を残して空中に飛ばされていたのだ。
全身に走る痛みを耐えつつ雫月は綺羅に目を向けると龍斗の目の前に佇み右手を小さな頭部へと伸ばしていた。
雫月は空中で無理やり体勢を立て直し刀の柄を再び掴むとそのまま天井を蹴り上げる。
「真玄っ! それ以上龍斗に近づくな!!」
綺羅は叫び声をあげた雫月を一瞥すると龍斗へ伸ばしていた右手を雫月の方へと向けた。
雫月の叫び声で我に返った龍斗の目に映ったのは信じ難い光景だった。
いつの間にか綺羅が目の前に佇み右手を雫月に向け青黒い炎を纏わせた巨大な火球を今にも放とうとしている姿がそこにはあった。
龍斗は今までに出したことがない大きな声で叫ぶ。
「綺羅にぃなにしてるの!? 綺羅にぃやめて……っ! やめろぉぉぉお!!」
そして龍斗の叫び声が掻き消されるように綺羅の低い声だけが静かに響き渡った。
「消えろ……」
刹那、言葉とともに右手から放たれた巨大な火球は青黒い炎を纏いながら雫月に飛んでゆく。
雫月は飛んでくる火球を防ぐため刀身に左手を添えて前に構える。
「ぐっ……。真玄……もうやめよう。これ以上龍斗を哀しませないでくれ……」
雫月の零した言葉が綺羅の動きを止める。
綺羅は龍斗を一瞥すると直ぐに雫月の方へと視線を戻す。
綺羅が一瞬動きを止めた隙に火球を真っ二つに切り落とした雫月は虚空を裂きながら綺羅に向かってゆく。
綺羅はどこからともなく顕現させた禍々しい黒い大剣を雫月に向けて構える。
「真玄……これで最後だ」
「……まだ終わらない」
刀と剣がぶつかりあった瞬間、龍斗は力いっぱい瞼を閉じた。
龍斗の耳を
そして次に龍斗の耳に飛び込んできたのは大粒の雨が地面を打ちつける雨音だけだった。
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