7 大宇宙のロマン
星空は本当にきれいだ。でもなんか物足りない。
「なんだか男四人だけでこんなきれいな星空を見上げていても、ぜんぜんロマンチックじゃないよね」
皆が今だけ懐中電灯を消しているので、闇の中からそう言う先輩の声も聞こえる。俺も心の中で同調していた。
「たしかに」
悟が苦笑しているような声もでそう言ったのも聞こえる。
「でも、男だけでロマンチックじゃないかもしれないけれど、大いに大宇宙へのロマンは感じるな」
「そうだ。まるで宇宙空間にいて大宇宙を見ているようだ」
俺がそう言うと、驚くほどそばの闇から先生の声がした。
「いや、残念ながらね」
俺は見えないながらも、その声の方に意識を向けた。
「宇宙空間では星は見えないんだよ」
「え」
今日さんざん先生からは意外な話を聞いたけれど、これはそれにもまして意外だった。
「よく宇宙を舞台にした映画なんかでは、それこそ満天の星がひしめき合う宇宙空間を宇宙船が飛んでいたりするけれど、あれは嘘だ」
俺たちは皆、言葉を失くしていた。
「映画ではなく実際の宇宙遊泳の画像とかで、地球以外に星が写っているかい?」
よく思い出せないけれど、たしかに映画ではない実際の宇宙空間の映像で、星空をバックにしたものは見たことないような気がする。
「NASAが公開している昔のアポロ計画の月面着陸の映像でも、空には地球が写っているだけでそれ以外の一切の星は写っていない。最近の火星の映像だってそうだ」
「それは、なぜなんですか?」
悟の声も聞こえる。みんなそう遠くにはいないようだ。
「星の光は実に微細なものでとても肉眼で見えるものではないのだけれど、地球の大気圏にその光が入ると大気圏の中の細かい塵とぶつかって増幅されて可視光線になるんだという説もある」
「確かに、星によっては何億光年もの距離を旅してきた光ですから、それはそのままで目に見える方がおかしいかもですよね」
俺がつぶやくように言った。表情は見えないけれど、先生は少し笑ったような口調で返してきた。
「実はもっとすごい話があるんだ。これもここだけの話。実は星の光はどんな離れていても、何億光年もの遠くにある星でもその光は瞬時に地球に届いている。つまり、例えば五万光年の彼方の星の光でも五万年昔の光を見ているわけではなく、今この瞬間の光なんだ」
先生は息を継いだ。
「これもここだけの話で、ほかの理科の先生に聞かれたら私は殺されるかもしれない」
殺されはしないだろうけれど目くじらをたてられるか、笑って馬鹿にされるか……。
「実は星が放っているのは光ではなく波動、つまり宇宙エネルギーなんだ。そのエネルギーは霊的なもので、光の速さなど足元にも及ばない。それが宇宙の高次元界を経由して地球近くに瞬時に到達する。そして地球から放たれている別の宇宙エネルギーと地球のそばで衝突して可視光線になるんだともいうね」
「つまりワープですか?」
島村先輩の声だ。
「光がワープして来るんですか?」
「うん、そういう言い方もできるね。SF映画やアニメでは宇宙船がワープするけど、現実では宇宙エネルギーが高次元界を通過してくるんだから、一種のワープだね」
たしかにこれも本当に「ここだけの話」だ。
「宇宙は広い。これだけは確かだ」
先生の声は弾んでいた。
「今日話した原子核と原子の話、あれは極微の世界、ミクロの世界のことだけど、逆に同じようなモデルをそのまま拡大していけば、地球という原子核の周りを月という電子が回っているのと同じだ。さらには太陽系もそういうことだろう。太陽が原子核で惑星たちは電子、同じ構図を拡大していけば天の川銀河となって、さらにその集合体が宇宙ということになる。極小から極大までが同じ構成原理というのは不思議だよね」
「たしかに」
全くその通りである。
「宇宙のロマンって話でしたけど、真逆の原子核と原子もロマンですよね」
言ってしまってから自分でもうまいことを言ったと俺は思った。
先生の笑い声が聞こえた。
「まったくだ」
「先生」
悟の声が聞こえる。
「これだけたくさんの星があるんですから、その星が惑星を持っていたりしたら、きっと宇宙人はいますよね」
「いや、いない」
先生の答えは意外だった。せっかくロマンに浸ったばかりなのに……。
「いや正確には、我われと同じような物質の肉体を持った宇宙人はいない。でも、宇宙にはおびただしい数の霊人はいる。すぐそばも火星や金星にもいる。ロケットで火星や金星に行ってもそこは荒涼とした世界で生命のかけらもないけれど、火星や金星の霊界には多くの霊人が暮らしているんだ。もちろんその霊人はいわゆるUFOに乗ってどんどん地球に来ている」
「先生はUFOを見たことあるんですか?」
悟が問う。
「肉眼では見えないんだよ、霊的な存在だからね。幽霊が肉眼では見えないのと同じだよ」
その時、ぱっと先生は懐中電灯をつけた。
「この話は奥が深いから、またいずれ話すこともあると思う、今日はそろそろ帰ろう」
俺たちもみんな懐中電灯をつけた。
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