3 中二病満開

 それからというものの俺は気が向けば放課後、超古代文明剣=中二研に足を運ぶようになった。

 もちろん毎日というわけではない。


 青木先生は、ほかに入りたい部活があるのなら選んで入れと言った。

 ほかの部活の部員でも、中二研への出入りは自由だという。なにしろ入部手続きがないだけに、誰が来ていてもいいということになる。


 でも、特に入りたい部活もなかった俺は、ほとんど暇つぶし程度に時々は中二研に行った。

 行くと必ずそこにいるいつメンは部長の島村先輩と正規部員のチャコ、そして悟ぐらいで、美貴もわりといることが多かった。

 それ以外のメンバーは入れ代わり立ち代わりという感じで、俺もだいぶそれで顔が広くなった。


 延べではもう十人近くと知り合いになったわけだが、不思議とその日ここにきているメンバーの数は大きなテーブルの椅子の数よりも多くなることはなかった。


 それで、集まってやっていることは何かというと、本当にほとんどが雑談だ。

 授業や行事のことなどの日常的なことから、アニメやラノベの話に花が咲く。

 そうなると俺ももう昨日今日初めてここに来たという感じではなく、溶け込んで話をしている。


 でも、時折話が二次元を飛び出して、リアルな日常の中での中二話になる。

 そうなると、まずは用語についていけない。

 アニメを見ていればわかる単語もあるけれど、そうじゃないのもある。


 互いの異能についても話が及ぶ。

 でも、ここでは俺は能力者ではない……いやいやいや、能力者ではないのは当たり前で、言い直すと俺はアニオタではあっても中二病ではない。

 あくまでバーチャルな世界と割り切って二次元を堪能しているに過ぎない。

 ああ、それなのに、ここにいる人たちは能力者で俺は能力レスなんて一瞬でも思ってしまった俺も、もしかしてやばいのかも……。


 でも、アニオタなだけにここにいる人たちの中二話も嫌悪感はないし、むしろ楽しんでいたりする。



 そんなある日、唐突に悟が言った。


「康ちゃん、(すでに俺はそう呼ばれている)、最近エネルギーが足りないんじゃない?」


「エネルギーって何の?」


 悟は俺のみぞおちのあたりを指さす。


「エネルギータンクが半分以下だよ」


「ん?」


 俺は自分の胸から腹部を見た。


「その中にね」


 悟に代わって、島村先輩が話に入る。


「リアルな臓物とは別次元の存在として、エネルギータンクという霊的臓器があるんだ、これはいくら解剖しても肉眼では見えない」


「はあ」


 悟が俺に向かい合うように椅子の向きを変えた。


「今からエネルギーを満タンにするからね」


「え? どうすればいいの?」


「いいから座ってて」


 悟はこの間チャコが俺に回復魔法とかいうのをかけてくれた時と同じように、両手の手のひらを俺の胸の方に当てた。もちろん触ってはいない。


「エネルギー注入開始! 六〇、七〇、八〇、九〇、百! はい、完了」


「はあ、ありがとう」


 そうはいったが、特に何かが変わったということもない。


 そういえば悟は、天使ケルブ=結衣が隣に座っていた時、突然何の脈絡もなしにケブルに文句を言った。


「ケブル。部室で羽を伸ばすな、俺の顔に当たってくすぐったい」


 別にケブルは天使のコスプレをしてきているわけでもなく、普通の制服だ。


 もちろん俺の目には、ケルブの羽なんか見えない。


「確かにケルブ、あなたの羽がずっと悟の顔に触れていたから、私も注意しようと思ってたんだけど」


 チャコも言う。ケルブはちょろっと舌を出す。


「ごめんなさい。以後気をつけます」


 俺はどうリアクションしていいかわからず、ただきょとんとしていた。



 そうして今年は例年よりも早く梅雨も明け、暑い日が訪れた。


 その日もみんな集まっていたが、期末試験も近いとあって、勉強会も始まる。そんな時はまともな会話をするんだけどな。


 それて、最終下校の時間となり、この日はチャコも熟がないというので同じ方向へ同じ徒歩通学である俺とチャコは、薄暗くなり始めた町を並んで歩いていた。

 冬ならばもうとっくに真っ暗になっている時間である。


 試験の話などをしながら、右手にわずかなスペースの森がある神社を見て、その脇を歩いていた。


 神社自体は小さいけれど心が落ち着くようなたたずまいだ。

 だけど、さらにその隣の森がいけない。

 住宅街の中のわずかなスペースなのに木々の間には雑草が生い茂って藪となり、なんだか不気味な雰囲気だ。


 俺は重苦しい空気を感じたので、足早にそこを過ぎ去ろうとした。


「やな雰囲気だね」


 俺は前を見て歩きながらチャコに言う。


「ええ。昔からお化けが出るのは丑三つ時っていう真夜中だって思いがちだけど、今ごろの暗くなり始めた時間も逢魔おうまが時とかトワイライトゾーンっていってね、結構妖魔ようまが活動する時間よ」


 そこまで言ってから、チャコは歩みを止めた。

 そして体ごと不気味な森の藪の方を向いた。


「来た来た来た来たぁぁぁぁ!」


「何が?」


「妖魔が! すごい数」


 そう言われても、俺には何も見えない。周りに人の姿もない。そもそも、ヨーマってなんだあ?


「康ちゃん、下がってて!」


「そんなやばいやつらが来たんなら、逃げた方が」


「だめ! ああいった存在をも浄化して、救ってしまわないといけないのよ。そのための浄化魔法なんだから。そうしないといつまでも地域は浄化されないし、人々に害をもたらすから」


 なんかいつものクラスにいる時のおとなしい朝倉さんでも、部活で陽気にメンバーとじゃれ合っているチャコでもなかった。

 真剣に、藪の方を睨んでいる。


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