7 チューニケン?
「ところで、僕らのことを山下君にも話しておこうか」
にっこりと笑って、島村先輩が言った。
「はあ」
「僕らは部活という形はとっているけれど、四月の新勧の時でさえ全く勧誘はしないし、入部届もない」
「え? じゃあ、正規の部活ではないんですか?」
「いや、正規の部活だよ。でも、部員として学校に届けているのは僕とチャコと悟だけ。あとの人たちは適当に来たいときに来て、自由意志で行動を共にしている仲間だ」
「三人だけ?」
「一応学校から部として認められるには部員は三人いないといけないからね。それとさっきも言ったようにちゃんと青木先生という顧問もいる」
「勧誘もしないのに、どうして今いる人たちは集まって来たんですか?」
「それはね」
太った悟が話に入る。
「因縁の魂が自然と吹き寄せられてくるからだよ」
さっきあれほど宗教をこき下ろしていたのに、なんか宗教ぽいことを言うなあ。でも、笑いながら言うので半分冗談かもしれない。
こういうふうに、言うことがどこまでがまじでどこからが冗談なのかわからない人って、いるよね。
そうしたら島村先輩までが大まじめな顔で言う。
「僕たちは光の眷属で、属性はみんな『火』なんだ」
「え?」
俺は返す言葉も見つからなかった。
まあ、冗談で言っているんだろうとは思う。
だけど、島村先輩の話は続く。
「ここに出入りしている人たちは、みんな何らかの特殊能力を持っている。基本的にはみんな回復魔法と浄化魔法は使える。そういった特殊な因縁の魂が吹き寄せられるんだ」
「吹き寄せられるって……そういった人たちがたまたま集まってくるってことですか?」
もちろん俺は島村先輩の話を信じているわけではないが、いくらか話を合わせてそう言った。
「いや、たまたまなんてことじゃあないよ。世の中はすべて必然であって、偶然なんてものは存在しない」
にこやかにではあるけれど、断固としてという感じで島村先輩は言い放った。
「君も実際、さっきチャコから回復魔法を受けたじゃないか」
そう言われても、果たして本当にそれが魔法だったのかどうかなど実感がわかない。
少なくとも、俺には青白い光線も何も見えなかった。
「ほかにもあちらの世界と交信できる能力とか、普通の人には見えないものを見る能力とか、オーラが見える人もいる」
ほかの人たちは異論もはさまず、うなずいていたりする。どうやら島村先輩個人の妄想の暴走ではないようだ。
――そうか、そういうことか……。
俺はその状況に、妙に納得がいった。
実はこの部屋の中を見回したときに感じた疑問点、特に書棚を見た時に感じた疑問点……それは、「超古代文明研究会」なんて名称なのに、書棚にそれと関連ありそうな書物はほとんどなかった。
何冊か『○○秘史』とか『○○資料集成』とか『神代の世界史』とか難しい題名の本もあることはある。だけどそんなのは隅に追いやられて、大部分のスペースを埋めているのはラノベや漫画、それらがおびただしい数だ。しかもそれらは異世界物か超能力、超常現象がテーマとなった作品ばかりだ。
自慢じゃないが、俺もその辺に関してはちょっとばかり詳しいので、タイトルを見ただけですぐにわかる。
それに、壁に貼ってあってずっと俺の目を引いていたのも、異世界物を中心としたアニメにポスターだ。
そして、今朝、ホームルームが終わったとき、クラスの男子がチャコのことを「チューニケン」と呼んでいた。
その時は謎の言葉だったけど……そうか「中二研」か……。
一般生徒にはこの部活は「中二研」と呼ばれているのか……つまりはアニメオタクで中二病の集まりということか。
すると我がクラスのチャコも、こんなかわいい顔をしていて中二病? まあ、眼帯していないだけましかも。
――だが……ここ、悪くない……俺はそう思った。
実は俺もアニオタのはしくれで、異世界物や超能力物は割と好きなのだ。もっとも俺は決して中二病ではない。
でもなんで「超古代文明研究会」なんだ? ふつうに「アニメ部」とか「サブカル研」とかでもいいんじゃないかと思う。思うけど部外者の俺が口をはさむことではない。
ということで、一度は帰ろうとしたけれど、なんだかんだで居心地が良くて結局最終下校の時間までいてしまった。
中二病の集まりならあんな宗教団体の偽装部活に比べたら可愛いものだ。
帰りは大部分がバス通学ということだ。徒歩通学である俺の家と、バス停は反対方向だ。一年生女子の筒井美穂は自転車通学、やはり徒歩のチャコも今日はこれから熟があるということでバスで行くのだという。
「また迷子にならないでよね」
チャコが笑って言う。
「だいじょうぶ。もう覚えた」
「じゃあ、また明日ね」
明日も同じクラスで顔を合わせるチャコだけがそう言って、ほかの人には丁重にお礼を言って俺は家路についた。
長い一日だったなと思う。
最初の一日というのはこんなものかなと思うけど、それにしてはいろいろありすぎた。
その時、ふと気が付いた。
――そういえば俺って、足をけがしていたはず……???
でも、それを忘れていたくらい、足取りは軽い。
立ち止まって、けがをしていたはずのところを触ってみた。触っても押しても何ら痛みは感じない。
ズボンを少しまくり上げてみても、けがも打身すらなかった。
とにかく俺は普通に歩いて、家へと向かった。
偶然だろうとそう思う。
――「世の中はすべて必然であって、偶然なんてものは存在しない
そんな島村先輩の言葉を思い出す。
もしかして回復魔法とかをかけてくれたチャコって子は、中二病どころか本当の能力者? かわいいけどどこにでもいそうな普通のクラスメートがミラクル少女?
――まさかね
俺は苦笑して、暗くなり始めた住宅街を歩いていた。
(「第2部 妖魔」に続く)
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