『火星短信』 7


 『火星短信』 2400-102.010



 かつて、20世紀から21世紀にかけて行われた、無人探査機による火星調査では、生命の痕跡と見られる小さな物質はいくつか見つかっていて、はたして、生物なのか、ウィルスのような半生物なのかは、結論が付かないうちに、人類どおしの戦いになり、それこそ、人類自体が、かすかな痕跡になりそうだった。


 なんで、あのような、馬鹿馬鹿しい戦争などしたのかは、ついに誰も責任を取ろうとしなかったことから、いまも、うやむやなままに、なっている。


 火星ウィルスと呼ばれる脅威は、ついに、火星の植民ドームの半数が感染する事態となった。


 指導者陣が、総辞職したのは、当然だが、彼らは、単に逃げただけではないか。


 移住民から、そう、批判されても、いたしかたない。


 地球政府は、冷淡な態度を見せているが、これも不思議と言える。


 旧指導者陣は、フォボスとダイモスに、事実上、幽閉されていることがわかったのは、昨日になってからだ。


 火星当局は、知らされていなかった。


 なぜ、地球側は、情報を出さないのか。


 体質はなにも変わっていないのではないか。


 われわれ、新火星政府は、ウィルスに関する情報を、可能な限り、すぐに、発表したい。


 また、新型ワクチンが、開発された情報があり、火星新政権は、権利者と交渉しており、劇的な改善が起こる可能性がある。




  ・・・・・・・・・・・・・



火星長官殿


  火星中央大学医学部


        ドクター・ケインズ



 『火星ウィルスは、変異が異常に早く、ワクチンが落ち着かない状況にあります。


 最新型のワクチンによる有効率は、75%と推測されますが、あすになれば、もうわからない。


 ぜひ、地球から、万能型医療スーパーコンピューターを貸し出してもらうべきです。


 たしかに、地球も、新型インフルに対処しているのは、わかっていますが、火星ウィルスは、必ずや、地球に転移します。


 いまは、致死率が低いが、あす、致死率が70%にならない理由は、見いだせないのです。



   ・・・・・・・・・・・・



 地球火星便の停止について


    地球火星宇宙船組合地球本社




 『現在、地球火星間の、全民間宇宙船は、運行を停止しております。期間は、不明です。』





 ☆火星タクシー協会地球本部よりお知らせ



 『宇宙タクシーを利用して、火星及び、その衛星方面の渡航は、禁止されております。』




 自家用宇宙船について


         地球宇宙航空管理局



 『自家用宇宙船であっても、火星や、その、衛星への渡航は、一切認められません。不法渡航者は、逮捕します。』



  


 『火星の赤い風』 特別号 から



 『あらゆる、地球と火星の間の宇宙船は、停止しているが、軍事用の一部宇宙船が、活動している。民間人は、乗船できない。


 これは、仕方がない事だろう。


 しかし、闇宇宙タクシーが、存在していることを、本社取材班がつかんだ。


 地球の、アジア大陸の奥地から、飛んでいるのだ。


 利用者は、居住区から、地球国内便で中央アジアに飛び、そこからは、業者の飛行挺で、低高度観光ステーションにゆき、宇宙タクシーに、乗り換えて、フォボスのある場所に行き、そこからは、なぞの宇宙船で火星に入るらしい。


 しかし、なんらかの、未確認のテクニックが必要なはずだが、そこは、まだわからない。


 帰りも、当然だが、予約してある。


 地球政府に加盟していない、どこかの武装勢力が、絡んでいると思われるが、それもわからない。


 タルレジャ王国が関与しているとの噂があるが、王国側は否定している。


 しかし、同王国が、地球政府とは、無関係に、多数の宇宙船や、小型宇宙挺を持っていることは、公然の秘密である。


 また、伝説の、巨大宇宙船が、太陽系辺境から、地球にものすごい速度で向かっているとの情報がある。


 王国は、むしろ、地球を救おうとしている可能性がある。


 地球政府は、なぜか、その邪魔をしているのかもしれない。




    ・・・・・・・


 

   『タルレジャ王国内通信』



 『火星ウィルス変異対応型ワクチンは、完成した。地球政府には、火星に敵対的な勢力がある。ワクチンは、わが、王国の宇宙攻撃型巨大宇宙船『アブラシオ』で、運搬するように、国王さまから指示があった。新火星政府は、我々に協力を惜しまない。』




    ・・・・・・・・・・・


 




  


 


 


 


 

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