頑張れ、片腕メイドちゃん

ネルシア

第1話 何故かお屋敷には必ずある高いツボを割った時

『おはようございます。』


旦那様と奥様、そのご子息、ご息女が起きる前の朝礼兼仕事の割り振り。

メイド長である私が皆の前に立ち、指示を出す。


「メレイアはお庭の剪定を。サレアはお買い物。

 カーミは・・・。」


はいと返事をして前に一歩出るカーミ。

生まれつきなのかは知らないが片腕はない。

でも皆に嫌われない。


何故なら!!!!!!


見た目よーし!!

声、よーし!!!!

性格、裏表なーし!!!


とまぁ、びっくりするくらいできた子で。


「ゴホン、カーミは今日私と一緒にお屋敷の掃除をします。

 それでは、皆、今日も頑張りますよ。」


『はーい。』


という挨拶とともに皆が仕事を始める。


「さて、掃除しますよ。」


「はい!!」


図書室、書斎、応接室、料理室、宴会部屋、ダンスホール、寝室、子供部屋。

1日かけて丁寧に掃除をする。

そして、最後の廊下の掃除。


「ふぅ、ここを掃除すれば終わりですね。」


「正直疲れました・・・。」


エヘヘと笑うカーミ。

うーん、可愛い。


ただ、本当に足取りがおぼつかなく、心配になってしまう。


「無理をせず、休みを取ったらどうです?」


「いえいえ!!最後の仕事ですからきっちり終わらせたいです!!」


と威勢を張ったはいいものの、ふらついて近くの机に体がぶつかってしまう。

運の悪いことに、乗っていたツボがガシャンと嫌な音を立てて割れてしまう。


すぐに顔が青ざめ、ごめんなさいと何度も謝るカーミ。


すぐに奥様がいらした。


「何事ですか!?」


「カーミがツボを割ってしまったようです・・・。

 奥様、申し訳ございません、私の仕事の配分ミスです。」


叱られることを覚悟していたが、奥様は何も言わなくて大丈夫と人差し指を縦にする。

でも、その目線はカーミに向いている。


「カーミ、」


「ごめんなさい、ごめんなさい。」


半ばパニックでひたすら謝り続けている。


「カーミ!!」


奥様が両手でカーミの顔を挟む。

つぶれた顔も可愛いのはずるい。


「ひゃい・・・。」


やったのことで落ち着きを取り戻したのか、パニックが収まる。


「こんなツボ、あなたが無事ならいくら割ったって構いません。

 ケガは?熱は?うん、なさそうね。

 あと、ユーカメイド長。」


突然私の名前を呼ばれる。


「はい。」


「あなたの仕事配分にミスが生じたことは今まで1度もありません。

 本来のカーミであれば卒なくこなせる仕事のはずでした。

 何かありましたか?」


奥様がまっすぐカーミを見つめる。


「実は・・・その・・・」


言いにくそうにしているが、何となくは察した。


奥様も分かったようで、優しく説教をする。


「女性特有のですね。

 いいですか、仕方のないことは世の中にたくさんあります。

 そのことに私の夫と私は理解を示さないほど愚かなつもりはありません。

 理由があって仕方のないことならまずは相談しなさい。

 今日はもうおやすみになりなさい。」


「でも、割れた瓶の片づけが・・・。」


私が続ける。


「私がやっておきなさい。

 部下の体調異変に気付けなかったのは上司として情けない限りです。

 休むのも仕事です。

 ゆっくり本でも読んでいなさい。」


ペコリとカーミがお辞儀をして去っていく。


「奥様、すぐに片付けますね。」


「私にも手伝わせて頂戴。」


「しかし・・・。」


「大丈夫ですよ、ありがとう。」


すぐにほうきとちりとりを持ってきて、残骸をかき集める。


「にしても・・・。」


ふと奥様がつぶやく。


「カーミってかわいいわね・・・。

 養子にしようかしら・・・。」


「奥様・・・?」


「冗談よ!!!!!」


高笑いするが、私にはまったく冗談に聞こえなかった。

 

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