3-3
部屋はだいぶ片づいてきた。大きなものは
ビールを飲みながら僕は整理に
さらにいうと在ったはずだけど記憶に残ってない物というのもある。それらの不在を証明するのは困難だった。そういった存在があやふやな物たちは失われたのかもしれないし、はじめから無かったとも考えられる。
実際にも整理の過程で「こんなの持ってたんだ」という発見があった。誰かに
記憶をたどり、僕は在ったはずの物たちを思い出そうとした。キッチンボウルに入っておらず
すべての持ち物をリストアップして、処分のときに二重線で消しこみを入れておけばよかった。そうしていれば《無いことの証明》も簡単だったはずだ――なんてふうに考えながらやっていたので整理には時間がかかった。長期戦になると
そんな感じにゆっくりではあるけれど僕の生活はかつてのペースを取り戻しつつあった。
無駄な残業はせず、
ただ、それだっていつかは終わる。僕はもうすこしで
七月最後の火曜日のことだった。会社を出ようとしていると走り寄ってくる影が目に入ってきた。ロビーは吹き抜けになっていて、そこここに大きな
「あっ、あっ、あの、」
篠崎カミラは白いブラウスにこれといって特徴のない黒スカート、細いフレームの
「なに?」
そうとだけ言い、僕はそのまま出ていった。
「あっ、あの、ちょっ、ちょっ、ちょっとだけ、お、お、お話させて、く、ください。こ、こ、これは、じゅ、重要なことなんです。あ、あ、あなたにとって、と、と、とても、じゅ、重要なことなんです」
立ちどまると彼女は口を閉じた。
「宗教の勧誘とかでしょ? そういうの必要ないんだ。自分のことは自分で決められる。なにかにすがりたいとか思わないんだよ。だから、君の言う『重要なこと』ってのにも興味がない」
「か、か、勧誘なんかじゃ、な、ないんです」
「じゃあ、なに?」
「あっ、あっ、あの、こ、こ、これは、ひ、ひ、非常に、び、
僕は溜息をついた。ワンセンテンスの文章を言うのにどれだけ時間をかけてるんだよ。しかも、まだ前段しか言えてないじゃないか。こんなのにかまってる時間はない。これから帰ってキッチンボウルに向かわなければならないのだ。
「悪いけど、そんなに
「すっ、すっ、すみません! あっ、あっ、あの、わ、私、」
「で、なに? 勧誘じゃないならなんなの?」
彼女は口をすぼませた。どう切り出したらきちんと聴くか考えているのだろう。瞳もあがってる。
「あっ、あっ、あの、ご、ご、合コンに、い、い、行かれる、つ、つもりですか?」
「はあ?」
大きな声を出し、僕は口を押さえた。頭は
「ぜ、ぜ、前回の、ご、合コンで、あ、あ、あなたは、あ、ある、じょ、女性と、しっ、しっ、知りあったはずです。そ、そ、その、じょ、女性とは、し、し、しばらく、いっ、いっ、一緒に、く、暮らして、ま、ましたよね。で、で、でも、」
僕は腕をつかんだ。自然と手が伸びていたのだ。彼女は
「あっ、あっ、あの、そっ、そっ、その、」
「おい、なんでそんなこと知ってるんだよ」
そこまで言って、僕は肩をすくめた。見られてるのに気づいたのだ。よくとられても
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