2-2
ところで、僕にはもうひとつ気になることがある。それは犬についてだ。
いや、とりたててどうという話でもないのだけど、なんとなく犬に見つめられることが多いように思えるのだ。街中を連れだって歩いていても僕だけを見ていたりするし、三人で歩いているときも大勢であってもそれは同じだった。
犬は首をあげて僕を見る。
それが気になりだしたのは人に
はじめに言ってきたのは五年前に別れた彼女だった(念のため書いておくと、その子は現実離れした物の見方をするようなタイプじゃなかった。どちらかというと僕よりシビアに現実を見ていたのだろう。だから、別れることになったのだ)。
「ほら、また見られてるわよ」
彼女はそう言ってきた。
「私なんか見向きもしないのに、じっとあなたを見てるわ」
「は?」と僕は言った。「見られてる? なんのことだ?」
「気づいてなかったの? あなた、よく犬に見つめられてるのよ。さっきだってずっと見られてた。その前にもあったわ。今日だけで何匹の犬が見つめてたかわからないくらいよ」
「そうなのか?」
顔を向けると柴犬がじっと見つめてる。引き綱をぴんと張られても
「そっちを見てるのかもしれないだろ? 俺を見てるとは限らないじゃないか」
「ううん、違う。あれはあなたを見てるのよ」
まあ、それでもかまわないけど。そのときの僕はそう思った。犬に見られたからといってとくに困ることはないのだ。ただ、それ以降そういう指摘が多くなった。
「あの子、ずっとあなたを見てるわね」
それは雨の降る夜中にビールを買いに行ったときのことだった。飼い主を待っているのだろう、ポメラニアンが明るい店内を見つめていた。しかし、近づいていくと顔をあげた。彼女の言ったように僕だけを見てるようだった。
「なんで? 私の方はまったく見ようとしない。見えないのかな?」
邪魔な
「なによ、私のことは嫌いなの?」
離れた
――と、まあ、それだけのことではあるのだけど、だいたいいつも僕は犬に見つめられた。いや、そういうのはよくあることなのだろう。なぜか犬に見つめられると感じてる人は多いのかもしれない。ただ、気にはなる。
街灯が突然消えるなんてのを何度も経験してる身にとっては、このこと――犬に見つめられるというのも――なんらかの
たとえば僕から
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