[20211216] 渡りの仲間(四)

 ターバル渡りに慣れないジュナブ外の人間のために、進みはゆっくりだ。そのターバル渡りの中で、ヒブ仲間の誰もがジュナブ外の人間の──特にユーヤ男の方を構っていた。

 ラハル・マーオアシスで手に入れた新鮮なロヌムだとか、シュラム・ジェロジェロ茶だとか、ヤファタ・ロヌム干しロヌムなんかを青褪めた唇のユーヤに渡す。

 ユーヤと交渉したやつがヒブ仲間に伝えたせいだ。ジュナブ外の人間の男はシャルオム交渉も知らない、と。

 つまり、だ。「お前のせいで追加の食料と水が必要だ。その金を出せ」という説明と共に伝えた言い値を、ユーヤは素直になんのシャルオム交渉もせずに支払ったらしい。なんなら、言い値よりも随分と多くを出したそうだ。

 出された金を受け取らないのはアーリブ変わり者だ。その金はありがたいことに、ヒブル・ターバル渡りの仲間シャーリク取り分になった。誰だってそうする。

 シャルオム交渉を知らないせいもあるだろうけど、それはきっとユーヤなりのエタッハー申し訳なく思う気持ちなんだろう。ターバル渡りを遅らせてしまったことへの。だったら余計、受け取るべきだ。

 ヒブ仲間の誰もがユーヤを構うのは、それでだ。シャルオム交渉がなかった分をこうやって埋め合わせている。金を出したジュナブ外の人間とはいえ、ヒブ仲間であることに変わりはない。具合が悪いならなおさらだ。

 ユーヤは戸惑ったような顔をして受け取る。受け取ったものをじっと見てから、片言のオージャ語でハリストゥありがとうと言う。それで、小さく笑う。それから、受け取ったシャーリク取り分シル隣の女に分け与える。

 ヒブ仲間の誰だって、ちゃんと二人分のシャーリク取り分を用意していた。みんなそんなにクヒルケチじゃない。慌ててシルの分も渡すと、ユーヤはもっと戸惑った顔をした。

 その様子を見てからは、みんな最初からユーヤに二人分のシャーリク取り分を渡すようになった。

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