第27話

 俺は目の前の魔怪にゆっくりと近づいていく。

 何故だろうか。さっきまであんなにも脅威だった魔怪が何の脅威とも思えない。


「さぁ、やろうか」

 

 俺は手に持った刀を一振り。

 魔力とは違う別の力。神力を開放する。

 それは自然。あるのが当然。誰も疑問に思わない。

 感知させない。


「な、何が万死だ!うん!舐めるなよ!うん!俺はまだ変身を二回も残してある!うん。この意味がわかるか?うん!」

 

 額に冷や汗を流した巨大な魔怪が早口に話す。


「だから?お前が何をしようと俺に殺されるという運命は変わらない」

 

 こいつが何をしようとも何も変わらない。

 こいつが俺に並び立つことなどありえない。


「ふ、ふざけるのも互いにしろし。うん。このままでも十分だが、お前に恐怖を与えるために俺の本当の姿を見せてやろう。うん」

 

 魔怪の圧が膨れ上がる。

 力が湧き上がり、世界を揺らす。


「よく見とけ……これが力だ。うん」

 

 爆散。

 力が吹き上がり、周りの石などを吹き飛ばしていく。

 魔怪から吹き出す力は竜巻のように荒れ狂う。


「はぁ!!!」

 

 爆発。

 吹き飛ぶ。何もかも。

 すでに廃墟と化していた町を、秋葉原のすべてを吹き飛ばす。

 俺が守った人間を除いて秋葉原に存在していたすべてが消滅させられた。たった一人の存在がその力を解放した。ただそれだけで。


「恐れろ。うん。もう終わりだ。うん」

 

 そこにいるのは小さな人影。

 さっきまでの巨大な姿とは打って変わって小さくなり、人間のような姿を取る。

 悠真と同じくらいの体格に、褐色の肌。その相貌も人間のそれと何ら変わらない。端正な顔立ち。

 額から伸びる立派な角と背中を覆う羽さえなければ人間だと間違えてしまうほどだ。

 俺は前に立っている魔怪に冷たい視線を送る。


「言ったはずだよ?」

 

 一歩。

 たった一歩。

 俺は前に出す。

 

「俺はお前を許さない、と」

 

 自分のすぐ後ろに立っている魔怪に向けて告げる。


「……え?」

 

 コロコロ

 僕の足元に落ちてきた一つの首が呆然と声を漏らす。


「な、……何が?うん」


 俺はゆっくりと足を上げ、足を落ちている魔怪の首に置く。


「小夜を傷つけたこと。一生後悔して死ね」

 

「ま……ッ!」


 俺は踏み抜く。

 足を。

 魔怪の首が潰れ、眼球が飛び出す。

 

 ドスンッ

 

 飛び出した眼球も、ゆっくりと倒れた体も。 

 光となって消える。

 完全に。


「貴様に再生など。俺が許さん」

 

 こいつが再生することは二度とない。俺が許さない。

 

 僕をあれだけ追い詰めた魔怪との戦いは一瞬で終焉を迎えた。

 

 ■■■■■

 

 

 再臨

 

 神は再び現世に降り立った。

 すべての人間の思惑から外れて、最悪のタイミングで最悪の形で。

 

 だが、すでに神は再臨した。

 

 もう帰ることは出来ない。

 元に戻すことは出来ない。

 

 世界の時計は再び時を刻み始めた。

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