第43話
あの後、倉橋家は大忙しの大混乱だった。
まぁ当然だ。
いきなり現れた謎の少年に、残した謎の言葉。
そして、ずっと倉橋家を縛り付けていた巨大な怪物が倒されてしまったのだ。
そりゃ忙しくもなるし、大混乱にもなる。
……しかし、しかしだ。
だからと言って私が放置されるのは流石に可愛そうではないか?私が?
私はあの場あそこで命を捧げる覚悟をしていたのだ。結果的に助かったとは言えども!
それに何か私をと、特別扱いしていたじゃないか!
こう……なんかあってもいいのではなかろうか!?
もうかれこれ一週間近く放置されているよ。これは流石にひどいと思う。
そんなに私は要らない子?
私の部屋の隅っこで体育座りしながらふてくされる。
そんな私の部屋の扉がノックされ、扉が開かれる。
「神奈様。お父様がお呼びです」
……。
…………。
え?
■■■■■
沈黙。
重い重い沈黙。
それがこの場を支配していた。
「……神奈」
そんな沈黙をようやくお父様が破る。
「はい」
私は内心の動揺を悟られないよう気丈に返事する。
「………」
お父様は沈黙する。
幾度も口を動かそうとパクパクするも何の言葉も出ない様子だった。
「……っ」
お父様がいきなりおもむろに立ち上がった。
ぶたれる!
私は反射的に目をつむった。
しかし、強い衝撃が私を襲うことはなく
─────その代わりに優しげな衝撃が襲った。
「すまなかった」
私は遅まきながら理解する。今、私がお父様に抱きつかれているということを。
お父様の温かな体温が私の中を広がる。
「すまない。すまない。すまない。神奈。私の娘。……愛している。愛しているのだ。……よかった。よかった」
「あ……あ……」
いつものお父様なら言わないであろう支離滅裂な言葉。それが私を包む。
私の頬を一筋の雫が走る。
「お父様……うわーん!お父さんー!」
私はこの歳にしてなさけないことにお父さんに顔を埋め、大きな泣き声を上げた。
■■■■■
あの後、すぐに解散となった。
今度ゆっくり話し合うことになった。
今は忙しい時期なのだ。仕方がないだろう。
私はお父さんがいた大広間から出て、廊下を歩いていた。
そして、ふと。
夜空を見上げる。
夜空には満月が光り輝いていた。
あの日。
あの日の満月はいつになっても沈まず、昼でも夜でも常に必ず輝いていた。
歴史上にない絶対的な異常事態。
その原因も、それによって何が起きるのかも、何もかもを我々陰陽師は把握できていなかった。
「彼なら何かわかるのだろうか……」
私の小さなつぶやきは深淵を思わせる夜に呑み込まれていった。
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