第38話

「急急如律令」


 私は自身が持つ剣を形どった折り紙に呪力を流し込む。

 呪力を流し込まれた剣を形どった折り紙は巨大化し、一振りの剣へとその姿を変える。

 陰陽師が使う陰陽術の多くが媒体に対して呪力を込めることで発動する。

 私の一族は様々な媒体の中でも、折り紙を媒体とした陰陽術を得意としていた。


「ぐるるるる」


 剣を構え、私の前に立つ魔怪に視線を向ける。

 目の前の魔怪は有害級。

 私一人で撃破が可能な相手だ。

 しかし、だからといって油断が出来るわけではない。


「星占術」


 星占術。

 ほんの少し先の未来を見ることが出来る媒体を必要としないで発動する数少ない陰陽術。ほんの少しの未来を見るという破格の能力の割に会得難易度も使用難易度も割と低いので、陰陽師なら誰でも使えるような陰陽術だ。


「がぁぁあああ!」


「ふっ」


 私は焦らず、油断なく剣を振る。

 相手の攻撃はすべて避け、魔怪が晒す隙には剣を差し込む。

 それを幾度も幾度も繰り返す。


「がぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」


 単調な応酬に嫌気がさした魔怪の攻撃がどんどん大雑把に大振りになってきて、どんどん私に隙だらけの姿を見せる。


「ふっ」


 私は一度距離をとり、懐からつるの折り紙を取り出す。


「がぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」


 魔怪は愚直にもそのまま無謀に私の方へと突撃してくる。


「急急如律令」


 つるの折り紙へと呪力を込め、放つ。

 私が放ったつるの折り紙は予想通り魔怪の顔面へと直撃し、爆発を起こす。

 別にそれだけでは魔怪を倒すことなんて出来ないが、相手の視界を奪うことなら出来る。


「はぁ!」


 私はその隙を見逃さず、踏み込む。


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」


 私の一振りは容易く魔怪の両足を斬り裂いた。

 両足を失った魔怪はバランスを失い、大きく転倒する。


「せやぁ!」


 私は転倒した魔怪の首に剣を思いっきり振り下ろした。

 血が私の頬を染め、魔怪の首が転がる。


「よし!」


 私は一度も相手の攻撃をもらうことなく単独で有害級の魔怪を倒すことに成功した。


「……はぁー」


 私は深々とため息をつく。

 ……。

 ……………。

 こんなことで喜んでどうするんだ。

 兄は姉はもう。もう私と同い年のときに一瞬で人災級を倒すだけの力を持っていたというのに。

 一族の中で私だけが落ちこぼれだった。


「ははっ」


 私の口から渇いた笑い声が漏れる。

 ─────私はもう半ば覚悟していた。

 もう私に出来ることなんてもうそれくらいだろう。

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