第14話

「よこせッ!」


 偉そうな男は痩せこけた白衣の男から箱に残されているもう一本の注射を力づくで奪う。


「なっ。それはまだ……調整もしていない身体には……!」


「構わんッ!」


 偉そうな男は躊躇なく注射を身体に打ち込む。


「ぐっ……」


 偉そうな男はうめき声を上げる。


「が、が、がァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!」


 変化はすぐに現れた。

 黒色だった瞳は赤く染まり、身体が膨張していく。

 皮が裂け、肉が裂け、骨が、神経が、臓器が、むき出しになる。

 だが、異常なほどの再生力ですぐさま再生し身体は膨張していく。

 偉そうな男から膨大な力が溢れ出ていく。

 荒れ狂い、少年の力に対抗していく。

 少年の力は緻密かつ繊細。ならば偉そうな男の力は暴走、暴力。


「ガァ!」


 偉そうな男の体が消滅する。

 いや、違う。そう見えただけ。

 私なんかの目では追いきれないほどの速度で動いただけ。

 偉そうな男は少年に向けてその剛腕を振るう。

 少年はそれを紙一重のところでける。

 避ける。避ける。避ける。


「醜い……そして遅い」


 偉そうな男の胸元がバッサリと裂かれ、血が吹き出す。

 だがしかし、傷はすぐ再生する。


「効かない!効かない!効かぬぞぉぉぉぉおおおおおおおお!これが力だ!これこそが力なのだ!」


 偉そうな男が振るう剛腕は空を切り、血が吹き出す。

 しかし、止まらない。

 出血し、赤い閃光となって少年に向かって剛腕を振るい続ける。


「何故だ!何故当たらない!お前のような……お前のようなガキに……!我らジュネシスが……!ジュネシスが!最強たる我らが!」


「くくく」


 少年が心底楽しそうに笑う。

 そして、偉そうな男の足が切り飛ばされる。

 次は手。その次は胴体。最後は首。

 少年は首だけとなった偉そうな男の首を掴んで持ちあげる。

 首の断面部は黒炎によって燃やされ、再生を拒む。


「くくく」


 少年は首だけとなった偉そうな男の髪を掴み、持ち上げる。


「貴様らはめんどりがアルファベットを知っている程度には知っているだけだ。闇は。闇は。闇は。もっと深く。もっと根強い。貴様程度が最強など……傍ら痛い」


「何がだッ!くだなぬッくだらぬッくだらぬッ!何故負けるッ!何故再生しないッ!こ、このようなガキにッ!」


「これが君等の限界だよ」


 少年は首を宙に放り投げ、刀を構える。

 少年の力が膨れ上がる。

 紫紺の線が、力が、刀に集まり美しい螺旋を描く。


「力の一端を、闇の一端を君に……」


 地面が、部屋が、空間が揺れ動く。


「刮目せよ……」




「星夜超暗黒邪王黒炎龍波動月閃」


 


 世界が、染まった。

 彼一色に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る