第2話
《20××年、冬。》
フラれた。
端的に言えばそれに限る。というか、もうそれ以外の言いようがない。別にフラれること自体はまァ当然かなって部分もあったし、別にいいんだけど。なんかもう、純粋に傷ついた。ていうか、私はあの人のことを好きだったのかっていう感情が1番大きい。なんか、傷つくくらいには好きだったのかって思って。
放課後の教室。外では運動部のランニングの掛け声が響いていて、どこからか吹奏楽部の楽器の音も聞こえてくる。冬の澄んだ空気は、音をより鮮明に、
「ごめ、ごめん不破、こんな泣くつもり、なかった、んだけ、どっ、」
「いいよ、辛かったんでしょ?」
「ごめん、迷惑かけてごめ、ん、っ、」
「大丈夫、だいじょうぶ」
目が傷つくからと涙を拭っていた手は握りしめられ、せき止めていたものが無くなりとめどなく涙が目から溢れる。ぽろぽろと零れ落ちていく涙は、制服に1つ、2つと雨跡のように染みを作っていた。我慢しようとすればする程、嗚咽が大きくなっていく。くるしくて、どうしようもないくらい苦しくて、でも、今の私には心が苦しいのか、息が苦しいのか、正常な判断なんてできていない気がした。
嫌だな。なんで私が泣いてるんだろう。なんで、なんでこんなに傷ついてるんだろう。涙って肌が荒れるから、本当は下を向いて頬を伝わない方がいいんだけどな。
子どもをあやす時みたいに、ゆっくりと、ゆっくりと大丈夫と繰り返す友人の体温が、冷え性気味の友人の体温が、ひどく温かくて。優しくて。だからなのか、何故か、私の心をじわりじわりと苦しめた。悪くないのに、この子は別に、悪くないのに。悪いのは私で、諦められなかった自分で、あの子を好きになった先輩でも、相談に乗ってくれたこの子でも、私の1番近くにいたあの子でも、誰でもない。誰でもない、私が悪くて、全部、ぜんぶ私が悪いのに、先輩に酷い態度を取る自分も、誰かの前で泣く自分も、夜に1人で泣く自分も、誰かに縋ろうとする自分も、何もかもが嫌だった。もう本当に、涙がどうしても止まってくれなくて、もう泣きたくないのに、嫌なのに、なんで私がこんなに傷付いてるのか分からなくて、自分が酷く惨めで、心がもうダメだった。
こんなに傷つくと思ってなかったし、こんなに心を乱されるとも思ってなかった。色々なことが、後悔が、溢れて、溢れて。溢れて。それで、私は壊れた。
あの時私が生徒会に入らなければ、
あの時私が先輩の言うことを聞いていなければ、
あの時私が先輩の前で泣かなければ、
あの時私が…
あの時私が、先輩のことをきちんと突き放せれていれば、こんなに傷付きはしなかった。のかもしれない。
1週間続いた雨は、秋の暖かいような寒いような、あの不思議な空気を奪っていき、代わりに冬の澄んだ空気を連れて来た。日が暮れる時間もだいぶ早くなって、朝の澄んだ空気や、夜長の静寂に混じった寒さが、肌をじくじくと突き刺す。今日も振り続ける雨は、私たちの周りの温度を徐々に、徐々に奪っていった。
教室は外より暖かい筈なのに、もう、嗚咽のせいか、寒さのせいかも分からないくらい、ひどく、ひどく体が震えていた。
涙雨はいつまでも冷たいまま。 やさか. @yasaka043
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