第3話 これで全て解決ね

「――。そうだ!」


 俺は一つの解決法を思いついた。だが、これが実行可能かわからない。


「何か問題を解決する方法があったの?」


 アルテがわらをも掴む思いで、こちらをウルウルした瞳で見つめる。

 思わず、このまま抱きしめたくなってしまうが、ここは我慢だ。


「できるかどうかわからないが、太陽も召喚して仕舞えばいい。あっ、でも、その場合、太陽系ごと召喚しないと、危険か?」


「危険?」

「太陽は燃えている星だからな。近くに召喚されたら、丸焦げになる」


 アルテに太陽と言ってもわからないようなので、簡単に説明を加える。


「それは確かに危険ね」

「だから、ずっと広い範囲をまとめて召喚した方がいい」


「それって、どれくらいの範囲なの?」

「逆に、アルテは、最大、どのくらいの範囲を召喚できる?」


「そうね? 百光年くらいかしら?」

「百、なに?」


 俺は聞き間違いだろうと思い、聞き返してしまった。


「百光年よ、光年。知らないの?」

「いや、当然知ってるけど、予想外に範囲が広かったもんだから、びっくりした」


 地球を召喚しただけでもビックリなのに、百光年とは――。

 魔法ってどれだけすごんだよ!


「大魔術師を舐めたら駄目よ」

「舐めてたわけじゃないんだが、人間離れしてるな」


 とても、同じ人間だとは思えない。

 あ、異世界人なのだから、同じ人間ではないのか?

 いや、幻の大陸と一緒に召喚された、地球人の末裔という可能性もあるのか……。

 それなら、俺と同じ人間か。


「それで、どのくらいの範囲を召喚すればいいの」

「そうだな。太陽系で十分だと思っていたけど、百光年召喚できれば、死ぬまで星を見ることができるな」


 百光年先にある、こちらに向かっている光は、地球に届くまでに百年かかる。

 百年後に、百光年より先の星が突然消えることになるけど、その頃俺は、もう死んでるだろうからな。そんな先のことまでは責任を持てない。


「百光年召喚すれば、アキトの問題も解決するのね」

「おう、問題なくなる」


「なら、最大範囲の百光年召喚するわ」

「よろしく頼む」


「じゃあ、今からやるわね」


 そう言ってから、アルテは呪文を唱え始めた。

 アルテを中心に、魔法陣が広がっていく。

 やがて、それが世界を覆った時、魔法が発動した。


 今まで、暗黒だった空に、月と星が戻ってきた。

 どうやら召喚は、成功したようだ。


「やったな、アルテ!」

「流石に、もうダメ……」


 アルテがふらついて倒れそうになる。

 咄嗟に俺は、彼女を支えた。


「大丈夫か?」

「魔力切れだから、しばらく休めば大丈夫」


 このまま、抱き留めていたかったが、俺は、断腸の思いで、アルテを観望用の折りたたみの椅子に座らせた。


「そうか、それはよかったが……。浮遊大陸が消えてしまったんだが――」

「それなら心配しないで、百光年先に移動してしまっただけだから」


「どうして、そんなことに?」

「召喚した空間分、外に押し出されただけよ。お陰で、アトランティスと三十光年近く離れたわ。これで、攻められる心配も無くなったし、勇者を見つける必要もなくなったわ」


「でも、百光年も離れてしまって、アルテは帰れるのか?」

「それは、大丈夫、ゲートがあるから」


 アルテは壁の扉を指差してから立ち上がった。


「そうか、もう立って大丈夫なのか?」

「大丈夫。役目も終わったし、もう帰るだけだから」


「折角だから、もっとゆっくりしていけばいいだろう。そうだ、お茶でも出そう。お茶菓子、なにがあったかな?」

「もう、夜だし、お構いなく。それじゃあ、さようなら、勇者様」


「あれ? バレてたのか!」

「ふふふ、私は、こう見えても大魔術師よ。鑑定魔法で、アキトが勇者だということはすぐにわかっていたわ」


「そうだったのか。なら、なんで黙っていた?」

「アキトの人となりを見るためよ」


「俺は不合格だったわけか――」

「いえ、合格だったけど、勇者の必要性がなくなっただけよ」


「そうか、そういうことにしておこう」

「別に、嘘ではないんだけどね。それでは行きますね」


「おう、また……は、ないかな?」

「ないとも限りませんよ」


「じゃあ、またな!」

「はい、またお会いしましょう。それでは失礼します」


 再会を望む別れの挨拶を交わし、アルテはゲートの扉をくぐって行った。


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