地球召喚 【短編】星空の代わりに浮遊大陸と金髪美人が現れた。

なつきコイン

第1話 覗きは犯罪よ

「つ、つ、月はどこ行った?! 星も見当たらねえじゃねえか!!」


 夜中だというのに近所迷惑も省みず、俺は自宅の庭で大声で叫んだ。


 それというのも、今の今まで、雲ひとつない星空の下で綺麗に光る月を見ていたのだが、突然、謎の光が天空に幾何学模様を描き、それが星空全体を覆った瞬間、月と光り輝いていた満天の星々が姿を消してしまったからだ。


 そして、代わりに現れたのは、暗黒の夜空に浮かぶ謎の浮遊大陸だった。


「何だありゃー!」


 俺は叫びながらも、手元の双眼鏡を浮遊大陸に向けた。


 夜中に双眼鏡など使って、覗きか? と思われるが、俺はそんなことはしていない。

 俺がしていたのは、天体観望。

 最初に言った通り、月を見ていたのだ。


「双眼鏡で? そこは、天体望遠鏡じゃないの」と、言われそうだが、双眼鏡だって捨てたものじゃない。

 種類を選ぶが、カメラ用の三脚で固定すれば、色々な星が見られる。

 星雲を見る場合など、小型の望遠鏡より向いているくらいだ。

 別に、望遠鏡が買えなくて、僻んでいるわけではない。ないったら、ない。


 話は逸れたが、俺は双眼鏡で浮遊大陸を観察する。

 明らかに建造物があり、そこから灯りが漏れている。


「こら! なに覗いてるの。覗きは犯罪よ」

「うわっ!」


 誰もいないはずの後ろから、急に声をかけられて、ビックリして振り返る。

 そこには金髪の美女が立っていた。


「美しい……。じゃなくて! 誰だ! あんた!! ここはウチの庭だぞ」


「私? 私はアルテミス。アルテって呼んでくれていいわよ。で、君は?」

「俺か? 俺はアキト」


 相手が自己紹介してきたので、勢いでこちらも返してしまった。


「そう、アキト、覗きは犯罪よ。止めなさい!」

「覗きじゃない。俺は天体観望をしていたんだ。それに、急にあんなのが現れたら確認するだろう」


 俺は、天空に浮かぶ浮遊大陸を指差し、無実を訴える。


「あんなのって――、あれは、レムリア大陸よ」

「レムリア大陸? アルテは、なぜ名前を知っているんだ?」


「そりゃ、自分が住んでる場所の名前くらい知ってるわよ」

「自分が住んでる? アルテはあそこから来たのか?」


「そうよ」

「アルテは宇宙人なのか?」


 どう考えても、あの浮遊大陸は地球のものではない。

 ならば、住んでいるのは宇宙人だろう。


「宇宙人? 私は、レムリア王国民で大魔術師よ」

「そんな王国聞いたことないし、大魔術師ってことは――。異世界人かよ!」


 宇宙人では、なかったようだ。宇宙人に会ってみたかったから、ちょっと残念だ。


「ああ、そう、そう。アキトから見れば異世界人になるわね。私から見れば、アキトの方が異世界人なんだけど」

「マジかー」


 宇宙人ではなかったが、金髪美女の異世界魔術師も捨てたモンじゃない。

 お近づきになるなら、タコ型火星人より、こっちの方が断然いいに決まっている。


「それで、アルテは何しにこっちの世界に来たんだ?」

「それなんだけどね。逆なのよ」


「逆?」

「私が、アキトの世界に来たんじゃなく、アキトが私たちの世界に召喚されたの」


 どうも、俺は夢を見ているようだな。

 月を見ながら、いつの間にか寝てしまったらしい。

 現実離れしたことばかり起きたが、ここにきて、ついに、話に矛盾が出てきた。

 ここは、この矛盾を突けば、目覚めるパターンだろう。


「そんな馬鹿な! 第一ここはウチの庭だぞ。家だってそのまま……って、あー! あの、家の壁にある扉は何だ?! あんな所に扉なんかなかったぞ!」


 矛盾を突くどころの話ではなくなっていた。

 俺の家の壁に、いつの間にか立派な扉が増設されていたのだ。

 さっきまで、こんな物無かったのに、どうなっている。


「ああ、あれ? ゲートの扉だよ。上と繋がってるのよ」

「上って、浮遊大陸のことだよな? どこでも扉かよ?」


「どこでもってわけじゃないけどね。二点間を繋げる魔道具なのよ」


 アルテはドヤ顔で説明してくれる。

 ドヤ顔もなかなか可愛い。


「アルテは、それを使って、浮遊大陸から、ここに来たわけか?」

「そうよ。飛んで来るより、早くて安全でしょ」


 どこでも、では、ないらしいが、簡単に他の場所に行けることは間違いないようだ。

 それも、科学ではなく、魔法でそれを実現しているらしい。

 マジモンで、異世界ファンタジーか――。


「そんなことより、どうもここが特異点のようなんだけど、勇者を見かけなかった?」

「勇者? もしかして、勇者召喚に俺は巻き込まれたのか?」


「そうなるわね。もっともアキトだけでないから安心して。地球全体を召喚したから」

「地球全体! そんなこと可能なのか?」


「凄いでしょ。私が一人でやったのよ」


 アルテが再びドヤ顔で胸を張った。

 もう、胸を揉んでください、とばかりに、突き出している。

 思わず手が出かけるが、なんとか自制して、考えを巡らす。


「そうか、地球全体だからこそ、召喚されたというのに、家がそのままなのか」


 召喚されたのに自分の家の庭にいるのは、矛盾していると思ったが、ちゃんとした理由があったようだ。


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