貧乏な時でも

野口マッハ剛(ごう)

貧乏なアマチュア小説家、田中

 ああ、いくら考えても公募やコンテストで落選する田中。田中の小説は、田中にしかわからない面白さがある。田中はそれを信じて疑わないのだ。

 そろそろ、赤いきつねが出来る。食費を切り詰めて執筆をしている田中。赤いきつねを食べている間にもネタが浮かんでメモをする田中。

 いつまで、こんな生活なのだろうか。

 田中は不安と闘いながら執筆に戻る。

 今日はアルバイトの日。飲食店のアルバイト、厨房で和食を作っている。田中はうどんを見るたびに赤いきつねを思い出す。田中はそばを見るたびに緑のたぬきを思い出す。いつか、貧乏な時を終える日が来るのだろうか。

 その日の夕方から田中は執筆。夕食は緑のたぬき。この貧乏な時を終えるためにも執筆あるのみである。田中は原稿用紙に文章を書いては、ああ違うと言っては紙をくしゃくしゃにする。スマホでコンテスト用の小説を書いては、ああ違うと言って頭を抱える。

 赤いきつねと緑のたぬきを並べて見つめている田中は、こんな想像をする。この二つの中から美女が出てこないかなあ、と。

 すると、田中は原稿用紙にものすごい勢いで執筆を始める。このネタがいけると思った田中。

 書き上げたのは原稿用紙のたった十枚。それに、どこかに出せるような公募用の小説ではなかった。それならば、どうして書き上げたか?

 あれ? どうして書き上げたかわからない。

 田中は床に寝てみる。自分でも目的のわからない原稿用紙の小説を考えて、いったいなんの意味があるのだろうか、と。

 しばらくして田中はそのまま眠りについた。

 翌朝に発熱している田中。今日のアルバイトは休むことにした。貧乏な時でも、風邪はひくのだな、そう田中はぼんやりとした頭で考えている。

 さて、貧乏で風邪をひいていても執筆は頑張る田中だが、その時に、赤いきつねと緑のたぬきから声が聞こえてきた。

「わたし、赤いきつね! 頑張ってください!」

「わたし、緑のたぬき! いつも頑張っていますね!」

 この時に、美女二人の声が聞こえてきた田中はさすがに執筆をやめてみる。

 けれども、貧乏な時でも、赤いきつねと緑のたぬきはそっとそばに居てくれている。

 ありがたいなあ!

 田中は、きっとこれからも小説家を目指して頑張るのだ。

 貧乏な時でも、赤いきつねと緑のたぬきはそっとそばに居てくれているから。

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貧乏な時でも 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

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