第2話 幸せな生活!!~何故そう労わられるのでしょう?~




「ここが、今日から君が住まう場所だ。気に入ってくれるといいのだが……」

「まぁ!!」

 ディートリヒ様が案内してくれた部屋に私は思わず歓声を上げます。


 だって、ファイルヒェン王国あの国であてがわれた部屋よりもとても品があって綺麗な部屋だったのです。

 綺麗な部屋に、綺麗な調度品、綺麗なベッド、最高です!!


「こんな素敵な部屋に住んでいいなんて……私幸せ者です!!」

「ブリュンヒルデ……聞きたいことがある」

「はい何でしょう?」

「君には辛い事を聞くのは承知なのだが、あちらではどのような扱いを?」

 私はきょとんとしてから、何でもないようにファイルヒェン王国での扱いを喋りました。


 妃教育と国守りと何故か多いお茶会で自分の時間などなく、その上私の扱いは「国守り」としては当たり前だからと疲労困憊でも休ませてもらえないことが普通。

 妃になるのだからこれ位勉強して普通、私に休みなど不要。


 そんな日々を送っていたことを伝えました。

 ディートリヒ様は話を聞き終わると酷く渋い表情をしておられました。

 そしてその後私の手を握りしめてくれました。


「それほど辛い目に遭っていたのだね、でもここではそういう扱いはしない。『国守り』も無理にする必要はない」

「いいえ、愛するディートリヒ様の愛する国ですもの。それに『国守り』の役目、私嫌いではないのですよ、だってあのように歓迎してくれた方々の国を守るのですから」

「ブリュンヒルデ……」

 私の言葉を聞いたディートリヒ様は安心した様に微笑んでくださいました。


「なので『国守り』最初のお仕事、結界張りを行います」


 私はにこりと笑い、ディートリヒ様に言いました。



「地図だけで結界が張れるのはわかった、だがこの国の国土は広い。大丈夫かい?」


 ディートリヒ様の持ってきた地図を見て私はにこりと笑います。

「国土の部分に色を付けてくださったおかげで結界がとても貼りやすいです、ご安心を」

「いや、そういう意味ではなくて……」

「では、少し集中しますので」

「わかった」

 私は地図をじっと見てから目を閉じる。

 頭の中にこの国の風景が浮かび上がる。


 それらすべてを包み込むようなイメージを浮かべて私は結界を張る。


「……できました!!」

「――驚いた、急に君が光りを放ったから何事かと思えば光が一瞬で広がったのが見えた……」

「いえいえ、では次は――」

「待ちなさい」

「くぇっ」

 次の作業に移ろうとするとディートリヒ様に抱きしめられて変な声が上がりました。

「……すまない。君は無自覚だろうが、我が国は『国守り』なくともやってきた実績がある、何かするなら休憩をしてからにしてくれ……」

「ですが、結界を張る前にこの国の守りをしていた騎士の方々が負傷しているのがみえましたわ。治療をしないと」

「……分かった、それが終わったら休むこと、いいね?」

「はい!!」

 ディートリヒ様がどこか悲しい表情を浮かべているのが私には理解できませんでした。





「成程、そこまで扱き使われていたとは……」

 ディートリヒ息子からの言葉に、ディートハルトは深いため息をついた。

「ブリュンヒルデも無自覚の職業病状態にありました。これは治す必要があります」

「そこはお前達に任せよう、特にお前の言葉ならよく効くはずだディートリヒ」

「はい、父上……ところであの国はどうなっておりますか?」

「ファイルヒェン王国か?」

「はい」

 ディートリヒからの言葉に、ディートハルトは呆れたように息を吐いた。


「既に散々たる有様よ」





「ワイバーンの群れがやってきてるんです何とかしてください!!」

「こちらにはシルバーウルフの群れがやってきてるんです!!」

「『国守り』様、お助けを、お助け下さい!! 何で居なくなったんだ!!」


 国の各地から寄せられる、魔物襲来の情報にフリートヘルムは頭を抱えていた。


 結界は既になくなっており、その上『国守りブリュンヒルデ』に任せっきりにしていた為か、騎士団は魔物の群れから自身の身を守るのに精いっぱいで民や国土を守る力はない。


「エルマーめ、何と言う事をしてくれたんだ……!!」


 フリートヘルムは他国に救援を求めたが、他の国は「自分達の事で手一杯だ」と拒否してきた。


 新たに国で見つけた「聖女」達の力も「国守り」であったブリュンヒルデには遠く及ばず、結界は張り続けなければいけない状態で、交代で休むことすらできず、結界は既に砕け散っていた。



「自分達のしでかしてきたことがようやくわかったか?」



 悩むフリートヘルムの前に、ディートハルトが姿を現した。



「ディートハルト!! 貴様、我が国の『国守り』を返せ!!」

 フリートヘルムの怒鳴り声にディートハルトは呆れたような表情を浮かべた。

「我が国――と言いながら随分な扱いをしていたようではないか、結界を張らせ、近づいただけの魔物の殲滅等扱き使っているにも関わらず、休みをロクにやらず、妃教育でもロクな扱いをせず、そんなので良くもまぁ――」


「『我が国の』などとほざけるものだ」


 ディートハルトの眼光に、フリートヘルムは息を飲んだ。


「この国の民も、民だ。守ってもらって当然と思い込んでいた故に居なくなった途端この有様だ」

 ディートハルトはフリートヘルムを睨みつけたまま続けた。

「『国守り』の稀少性を理解していながら『国守り』を蔑ろにし続けた貴様らの末路を見届けさせてもらおう、精々あがくが良い」


 ディートハルトはそう言って転移魔法で姿を消した。


「……なんてことだ……!!」

 フリートヘルムは再度頭を抱えていた。


「何とかして『国守り』を確保しなければ……!!」

 その目は血走っていた。






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