第16話 達成!
「よし、とーちゃく」
迷宮都市からひとっ走りして、“叢雨の湿原”に辿り着いた。
結界を抜け、ダンジョンに入る。
「今日は“ウェランドリザードの刃尾”と“ウェランドスネークの毒牙”のスキルレベルを上げたいな」
フロッグはやめよう。死にたくない。死ななくても苦しいし、大いに隙を見せることになる。
“水かき”のレベルが低くて後悔することもあるかもしれない。そう思うと貧乏性の俺はレベルを上げたくなるけど……。
「毒のない部位とかあるか調べてみるか」
諦めきれない俺だった。
「えーっと、たしかクエストはリザードの討伐だったよな」
不人気のダンジョンは魔物の間引きが足りなくなる。それを解消するために、旅神がギルドを通じてクエストを出すのだ。
今回、俺が受けたクエストはウェランドリザード十体の討伐。報酬は、その十体に限り貢献度が二倍になる。
「めちゃくちゃ良い報酬ってわけじゃないけど、元々来るつもりだったから嬉しいよな」
高難易度だったり緊急性の高いクエストの場合はもっと報酬が良くなるらしい。場合によっては、オンリーワンな神器が手に入ることもあるのだとか。
「キュルル」
「キュル」
“湿原”を探索していると、リザードが二体、藪の中から飛び出してきた。
「お、さっそくお出ましだな。しかも二体か」
“森”も魔物は群れることはなかった。
このあたりも、Eランクになり強くなったポイントか。
二体のリザードは、俺を挟んで対角に立った。尾の先を俺に向け、警戒している。
「挟み撃ちか……。練習の成果を発揮できそうだな。――“ウェランドリザードの刃尾”」
俺の腰から、リザードと同じ尾がにょきにょきと生えてくる。こうして比べると、一回り細い。
今回はズボンを突き破るようなことはない。
“刃尾”を使用できるように、腰布を巻き、尾を通す場所には予め切れ込みを入れたのだ。
昨晩の練習の甲斐あってか、スキルを使用し、単調な攻撃をするくらいの操作はできるようになった。
「尻尾なら俺にもあるんだぜ」
「キュルルル」
生まれてから十五年経って、まったく新しい部位が増えるとは思ってなかったけど!
「“鋭爪”“健脚”」
いつもの組み合わせを瞬時に発動する。
同時に、二体のリザードが地面を蹴って跳躍した。
タイミングを合わせて、上空から尾を俺に叩き付ける。
「よっと」
軽くステップして挟撃を回避。
カウンターとして、一体に“刃尾”で切りつける。
“刃尾”は太さ、長さともに腕と同じくらいだ。そして、腕で例えると肘から先くらいの範囲に刃がついている。
斬撃にも突きにも使える、第三の腕だ。
「キュル!?」
「まだ浅いか。結構難しいんだよな」
死角に入られないように注意しながら立ち回る。
尾による攻撃は変則的で、間合いを読みづらい。踏み込みすぎないよう、余裕を持って回避する。
「尻尾の使い方上手いな。俺にも教えてくれよ」
しばらく二体とダンスに興じていたが、カウンターによるダメージが蓄積してきたのか、動きが鈍ってきた。
俺へのダメージはない。
「そろそろかな……。“毒牙”“大牙”」
二体いる場合、一体を食べている間に襲われる。
だから、“ウェランドスネークの毒牙”による麻痺毒で、一体の動きを止めた。
二体のリザードの尾は既にボロボロで、反撃する体力はない。
「じゃ、ゆっくりと……いただきマス」
毒がないから安心して食べられるな!
味も、ちょっとどぶ臭いけど他の魔物と比べると全然マシだ。最近、舌がバカになってきたのか味よくわからないけど。
『スキル“ウェランドリザードの刃尾”がレベル4に上がりました』
旅神の声が響く。
順調にレベルも上がっているようだ。
「この調子でクエストを終わらせるぞ!」
“健脚”による移動速度の上昇と、攻撃手段の増加によって、狩りの効率は以前とはけた違いだ。
今日は毒草の採取はなし。討伐のみに集中した。
一日中“湿原”を駆け回り、ひたすら魔物を探し、狩る。そして喰らう。
「これで……十体目!」
陽が赤くなってきたころ、十体目のリザードを倒すことに成功した。
『クエストを達成しました。“ウェランドリザード十体討伐“』
『貢献度が加算されます』
「うぉ!? そういうシステムなのか」
予期しないタイミングで声が響いたので、つい肩が跳ねる。
旅神はずいぶんと勤勉だな。ちゃんと見てくれているわけだ。
とはいえ、無事にクエストを終えることができた。
「“毒牙”と“刃尾”のレベルもかなり上がったし、今日はかなり調子よかったな!」
ちなみに、フロッグは一度だけ挑戦してレベル三まで上がっている。手には毒がないことがわかったので、次からは積極的に狙っていこう。
「あと二日……いや、一日あればレベル上げが終わりそうだ。そうしたら次は別のダンジョンだな!」
いつまでも下級でいるわけにはいかない。
待ってろよ、ポラリス!
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