魔物喰らい〜ランキング最下位の冒険者は魔物の力で最強へ〜【カクヨムコン7特別賞】

緒二葉@書籍4シリーズ

第一部 下級冒険者編

一章 万年最下位エッセン

第1話 万年最下位

「おい、見ろよ。またあいつだぜ。迷宮都市の名物だ」

「ああ、“万年最下位”のエッセンか。毎朝ランキングを見に来て、虚しくならないのかね」

「あいつも懲りないよな……。早く冒険者をやめて、農家にでもなればいいのに」


 俺を見てクスクス笑う声が聞こえる。


 毎朝更新される、冒険者の貢献度や評価を順位付けした表……冒険者ランキング。

 国内で活動する全ての冒険者の名前が記されている。


 旅神がもたらした神器が自動更新するシステムなので、漏れや間違いはない。残酷な現実が、明確な数字として表れる。


『96743位 エッセン』


 ギルド二階の壁面に並ぶ黒いボードの端に、俺の名前があった。

 青色の魔力光が、控えめにその文字を映し出す。


「はぁ……。今日も最下位か」


 このため息も何度目だろう。

 冒険者になって四年。十六歳になりとっくにビギナーを脱しているはずの年齢になっても、俺の順位が上がることはなかった。同年代の者らはとっくに五万位を突破しているというのに。


 冒険者になったばかりの新人のほうがまだ順位が高い。

 あまりに貢献していないと評価がマイナスになっていくからだ。


「いつになったら上に上がれるんだろ」


 俺の上には大勢の冒険者がいて、しのぎを削っている。


 俺よりも才能があって、血のにじむような努力をして、命をかけている。そんな化け物が、上にはうじゃうじゃいるのだ。

 到底、無才の俺が勝てる相手じゃない。


「でも……諦められない。それがあいつとの約束だから」


 上位のランキングを見るのも、俺の日課だ。一番目立つところにあるボードの前に移動する。


 現在九位。俗に『十傑』と呼ばれる上位十名の中に、あいつの名前があった。


『9位 【氷姫】ポラリス』


 幼少期を共に過ごし、一緒に冒険者のトップを目指そうと誓いあった幼馴染の名だ。


「一緒に登録したはずなのに、もう九位だなんて。万年最下位の俺とは、随分差がついちゃったな」


 もう俺のことなんて覚えていないかもしれない。

 無能な幼馴染なんて忘れて、トップ冒険者として、同じく才能のある仲間たちと肩を並べていることだろう。


 だけど……俺は、ポラリスに追いつきたい。


「よしっ。今日も頑張ろう」


 頬をパチンと叩いて、その足でダンジョンに向かう。


 王国の中心部にあるこの迷宮都市の周りには、大小様々なダンジョンが存在している。

 いや、莫大な資源をもたらすダンジョンを中心として、国が発展してきたと言うべきか。


 そのため、国内で活動する冒険者のほとんどが、迷宮都市を拠点としている。


 下級冒険者ギルドを出て、向かった先はFランクダンジョン。

 “白霧の森”と名付けられたこのダンジョンは、初心者向けとして有名だ。


「初心者ダンジョンに四年間も入り浸っているの、俺くらいだよな……」


 一見するとただの森だ。

 違うのは、魔物がいること。そして。


『ここから先はFランクダンジョンです。侵入しますか?』

「はい」

『ご武運を』


 入口の結界に手を触れると、脳内に声が響くのだ。

 これが“ダンジョン”の特徴である。


 旅神イイーリク。冒険者と迷宮を司る神の声だ。

 冒険者カードやランキングボードも、かの神のもたらした神器だと言われている。


「今日の目標は薬草二十束だな。日が暮れる前に集めないと」


 薬草はポーションの素材になるため、常に需要がある。そのため、新人冒険者の小遣い稼ぎに人気だ。

 しかし、それほど稼げるわけではない。丸一日歩き回って、ようやくその日の宿代を稼げる程度だ。そのため、ほとんどの冒険者はすぐにやめ、魔物討伐をメインにする。


 俺が四年経っても薬草採取を続けている理由は、ひとえに俺が弱すぎるからだ。


「俺にもっと強さがあれば……。“魔物喰らい”なんてギフトでどう戦えって言うんだよ、神様。……いや、言っても仕方ない。今できることをやろう」


 たとえ薬草採取が、冒険者ランキングの貢献度に一切影響しないとしても。

 生きていくためにやるしかないのだ。


 普通、冒険者は魔物を倒すことで生計を立てる。

 でも俺にはそれができない。なぜなら、俺が冒険者になった時に旅神イイーリクから貰ったギフトは“魔物喰らい”――魔物を食べても腹を下さないという、戦闘には使えないハズレスキルだったからだ。


「ま、みんなが捨てる魔物の肉を食えるおかげで、食費が浮いてここまで生きてこられたんだけど」


 俺のギフトを知った者は口を揃えて「冒険者をやめたほうがいい」と言ってくる。そりゃそうだ。俺には戦闘用のギフトで得られるような身体能力も魔法もない。


 今までに倒した魔物の数は、わずか数十匹。そのどれもが、負傷し弱ったところに偶然出くわしただけだ。


 基本的に、魔物を発見した場合は隠れてやり過ごす。


「グルルルルル」

「……っ。フォレストウルフか……!」


 遠くに狼の魔物を発見したので、木の陰にさっと身を隠した。

 この森で一番強い魔物だ。群れを作らず、単体で行動する。


「情けないけど……逃げよう」


 本当に情けない。トップを目指すなどと言いながら、俺は魔物から逃げ続ける。

 戦わなければ強くなれないし、ランキングも上がれないと分かっていながら、俺は現状に甘えているのだ。


「迂回しよう」


 そう、背を向けた時だった。


「きゃぁあああ! 誰かっっ!」


 女性の悲鳴が聞こえた。

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