その4

 事前にリサーチした限り、亡くなった山中家の長男・山中一郎は、かなり浮世離れした人物だったようだ。

 山中グループの次期総帥と目されていながら、本人は芸術家肌で夢見がちな性格だったらしい。三十代後半で独身なのはさほど珍しくないにしても、肝心の会社経営にはあまり熱意を見せず、もっぱらおかしな発明や変な工作に力を注いでいたようだ。生前持っていたSNSのアカウントは「リモコン内蔵こけし」だの「テルミン作ってみた」だのという写真が何件も投稿されていた。やり手の経営者という感じではない。

 反対に次男の山中二郎はリアリストで行動的、山中グループ内では、若くしてかなりの実権を握っているようだ。

 おれには経営のことなどよくわからないが、社長を任せるなら二郎氏の方が適任ではないか? という気がする。もっともそう考えるのはおれだけではないらしく、一郎と二郎に関しては不仲説が根強く囁かれているようだ。

 まぁ、自分を差し置いてボンクラ(といったら悪いかもしれないが)な兄がトップに立ったら、二郎氏としては面白くないだろう……そう思えば不仲説もうなずける。実際に対面した二郎氏の印象も、キツそうというか真面目そうというか、自分にも他人にも厳しそうな感じだ。

 ちなみに、このふたりの妹が末っ子長女の山中春子である。グループの経営にはほとんど関わっておらず、特に野心もないように見える。ふわふわした感じの女の子だ。もっともひとは見かけによらないものだから、内心はすごい野望を抱いているのかもしれないが……などと考えだすと、おれにはこの屋敷にいる全員が、殺人犯のように見えてきてしまうのだった。


「……で、どうしましょう」

 怪奇現象の方は解決の見込みがあるようだが、殺人事件の方はまだ何もわかっていない。仕方がないのでおれもコーヒーを飲んだ。こんなときだがうまい。

「そうだなぁ……とりあえず現場が調べられればいいんだが。ダメ元であたってみるか」

 先生はそう言うと、カップを置いて立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る