その2

(やばいっすよ先生!)

 おれは先生ことインチキ霊能力者・禅士院雨息斎に――インチキだが一応先生と呼んでいるのだ――ほとんど口の中でしか聞こえないような声で話しかけた。先生は異様に耳がいいので、こんな声でも結構聴きとってくれるのだ。

 すっかり動揺しているおれと違って、腕を組んだ先生は涼しい顔をしている。さすが歴戦のインチキ、まず面の皮が分厚いのである。ポーカーフェイスはお手の物だ。

(先生、急に霊視とかできないでしょ!?)

 そう、禅士院雨息斎の霊視は当たると評判だが、何のことはない。事前にリサーチし、現場ではその優れた聴力とコミュ力を発揮し、あとはハッタリで押しまくるのだ。実はおれは元々役者志望で、しかし全然才能がなくて今に至っているのだが、先生はそのおれよりも格段に役者の適正がある。

「というわけで先生、何とかお願いできんじゃろうか?」

 ミツヨさんが白くなった頭を下げる。インチキ霊能力者に多少金をつぎ込んでもまったく問題ない大金持ちとはいえ、罪悪感に苛まれそうな眺めだ。

「息子の無念を晴らしたいのじゃ! この通り!」

(ちょっとちょっと、どうするんすか先生!)

 しかし次の瞬間、雨息斎さんの口から出てきた言葉を聞いて、おれは耳を疑った。


「いや気持ちはわかるけどね、ミツヨちゃん。これちょっと難しいよ」


 ミツヨちゃん!?

 タメぐち!?


「えー。なぜじゃ?」

 ミツヨちゃんも怒らないのかよ! フランクにも程があるよ!

「うん、息子さんの魂は今、肉体から強引に引き離されて混乱してるからね。交信するのが難しいんだよね」

「そういうもんじゃろか」

 おれは改めて禅士院雨息斎の恐ろしさを思い知った。この屋敷に到着してから一時間弱、そんなに仲良くなるタイミングがあったか? 確かさっきまで大奥様って呼んでたはずなのに……これがいわゆるコミュ強というものなのだろうか? おれにはわからない。

「そういうわけで、ちょっと時間もらっていいかな? 助手と打ち合わせするんで」

 一同がぽかんと見守る中、先生はぐいぐい話を進める。

「いいよー。ちょうど隣が客間なのじゃ」

 コミュ強のおかげで、ひとまず作戦会議はできそうだ。

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