弐.おでぇじゃん
山田の推測では、私とモリモリが飛んでしまったあのマンションの呪いの世界で、謎解きが上手く出来ていなかったようだ。
そのため、原因追求ができていない状態でラスボス事担任の先生と対峙してしまった。
何も準備ができていない私とモリモリは、まさにゲームオーバー状態だったそうだ。
そのため、山田が現実世界と異世界の扉を無理矢理繋いで、強制的に物語を閉じたのだと言う。
何を言っているかわからないが、あの時私の頭にぶつかった扉が、異世界への扉になっていたと言う事だ。
そのため、未だに完結していないこの物語は、まだ進行中と言う事だ。
「……ですので、こちらで原因を調査します。海藤さんもその……担任の先生??に出会さないよう気をつけつつ調査をお願いします」
「……わかりました」
そう言って私は電話を切った。
何という事だ。
ドラマや映画で言うところのリターンズではないか。
こんなリターンズは求めていないのだが。
「……近くにいたりしないよね??」
そう言いながら、私はゆっくりと階段を降りて行った。
□■
自分が担当する小説家、海藤美乃梨と電話を終えた俺、
これまで、大学の後輩である森山だけが悩みの種であったというのに、担当する小説家もこれとは……自分には運が無いのだと落胆するしかない。
「あの……」
ふと、階段下から声が聞こえてくるのでゆっくりと顔を上げた。
そこには小学生くらいの子どもがいた。
俺は階段を降り、子供の前で膝を付いた。
「やぁ、久しぶりだね。次はここで探してるのかい??」
俺がそう言うと、子どもは首を縦に振った。
「まだ、見つからないの。お兄ちゃん、また一緒に探してくれる??」
「あぁ、いいよ。じゃあ君がどこまで探したのか教えてくれる??」
「うん!!」
子どもはそう言うと、階段に座った。
俺は一段下に座り、なるべく子どもと同じ視線になるようにした。
この子は昔からずっと探しているのだ。
ある一人の少女を。
この子どもは何年か前に、別の棟で出会ったのだ。
その時に聞いた話はこうだ。
子ども達はいつものように建物内でかくれんぼをしていた。
かくれんぼ中に女の子が現れて、一緒にやりたいと言ったそうだ。
仲間に入れたくても、友人らはどこかに隠れているのでどうしようかと悩んだ。
そこで思いついたのだ。
自分が捕まったら、鬼役と一緒に少女を探すと約束したそうだ。
少女はずっと待ってるからと、笑顔でどこかに隠れに行ってしまった。
自分が見つかったのは一番最後だった。
友人に少女の事を伝えようとした時、担当の先生が現れたそうだ。
勝手に敷地内に入った事を叱られて先生に学校まで連れられてお説教された。
親も呼ばれる事態となり、大事件となってその日を終えたのだ。
そのままいつものように、毎日を過ごしている時だった。
友人がかくれんぼをやろうと言ったのだ。
そこで少女を探す約束を忘れていたのを思いだした。
日数も経っているから、もう帰っているだろうと思う。
だが、少女の言葉が頭から離れなかった。
それから子供は、毎日少女を探すようになったそうだ。
この少女は神隠し事件として、小さく記事に載った程度だった。
そのため今も少女の遺体は見つかっていない。
この子どもは探している最中に、運悪く建物の床が崩れて死んでしまったそうだ。
幽霊になってもなお、少女を探しているのだ。
以前は見つける事ができなかったが、今回はできるかもしれない。
なぜなら、あの阿保二人がこの建物を荒らしたおかげで、前より空気の淀みが少なくなっているからだ。
だからこそ、今回は二人とも成仏させてあげたい。
■□
「ひーっ
私、海藤美乃梨はゆっくりと階段を降りていた。
とりあえず、何か見つければ帰れるはずなのだ。
とにかく頑張るしかないのだ。
「もーいやよーたーすけーてー」
階段を降りる時は怖かったが、緊張なんて一瞬で解けてしまう。
だいぶ適当な怖がり方になってしまっている。
「あぁーおたすけー」
「おでえじゃん」
ふと背後から声がした。
この濁音ばかりの声は聞いた事がある。
私はゆっくりと振り返る。
そこにはあのマンション事件にいた幼稚園児のようなおっさんが立っていた。
「まだあっだでー」
そう言って、おっさんは笑って飛び跳ねていた。
「はぁ……」
また会ってしまうとは運が無い。
またあの婆に怒られるのだろうか。
「いっじょにあぞぼぉ!!」
おっさんはご機嫌な顔で、階段の壁に落書きしている。
私はその姿を見つつ、横で熊の絵を描いていた。
確かこのような感じとスラスラ描いていた。
「おでぇじゃん、うばいね。んまざん」
「でしょでしょ」
多分、褒めてくれてるのだろう。
なんと言ってるか分からないが、とりあえずその心は受け取っておこう。
「でさ、おっさんはここで何してるの??」
「でぇじゃんばってるぉ」
おっさんが何をいっているか分からないが、多分私をおでぇじゃんと呼んでいるのだ。
つまり、姉ちゃんと言っているのだろう。
「んーっと、おっさんのお姉ちゃんが居て、そのお姉ちゃんが……帰ってくるのを待ってるとか??」
そう言うと、おっさんはコクコクと頭を上下に揺らした。
なんて私は天才なのだろう。
「ふーん。じゃあ、お姉ちゃんが帰ってきたら家に帰るの??」
「んーんっ。ばぁじゃんどびんあでがえるの」
首を振っていたので、家には帰らないのだろう。
だが、これが山田の言っていた原因ではないのか。
おっさんのお姉ちゃんを見つけたら、この世界が閉じるのではないだろうか。
そうしたら、真のエンディングと言う事か。
私は、ニヤリと笑い立ち上がった。
そして、飛び切りのドヤ顔でおっさんに言った。
「お姉様がおっさんのお姉ちゃんを見つけてあげる!!だからここらの物を片して、家で待ってな!!」
そう言うと、おっさんはその場でジャンプして喜び始めた。
やはり、これが正解のようだ。
「おで、ばぁじゃんどいえでばっでる!!」
そう言うと、風の
そして、こちらを向いて手を振ってきた。
「あんがどぉー!!」
非常に凶悪な笑顔だが、とても嬉しいのだろう。
私が手を振り返すと、さらに勢いよく手を振って家に帰っていった。
少しすると、怒声が聞こえてきた。
どうやら、おっさんの家はあの婆がいるところだったのか。
後は姉が見つかれば、物語は終了だ。
私は、よっしと気合を入れた。
「さて、ちゃちゃっと探しますか!!」
『ミツケタ』
見つけた……とは何か。
聞いた事がある声だった。
私は、ゆっくりと身体を動かし、反対側の下りる階段に視線を合わせた。
そこには首がへし折れたまま、不気味な笑顔で立っている担任の先生がいたのだ。
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