樹海の呪い
壱.彷徨える私
「……ったく。ここはどこら辺なのよ」
私、
そもそも、年末最後に猿なんかに出会わなければ、こんな目に遭う事は無かった気がする。
本当に猿は疫病神だ。
先ほどからずっと同じ場所にいる気がする。
右に曲がったり、左に曲がったり、直進し続けているのだが、立ち止まって辺りを見渡すと先ほどと変わらない気がするのだ。
電柱や壁にマーキングをすれば、同じ場所に戻っているとわかるのだろう。
だが、ペンは無いし、そもそも人の家の壁に落書きはよろしくないだろう。
家の人に許可を取ってから書けばいいと思うが、それならその人に道を聞いた方が早い。
年明けで神社は賑わっているはずだろうに、なぜこの通りには人一人いないのだろう。
ここら辺の家の人は一家総出で神社に行っているのだろうか。
どうしたものかと悩んでいると、スマホが鳴った。
「はい」
「あっ、みのみのー。今どこにいますー⁇」
電話の相手は
まだ神社にいるのだろうか、電話越しに賑やかな音が聞こえてくる。
「道に迷ってて」
「あらっ、それは大事件ですねぇ。ちょっと待ってください」
そう言うと、モリモリはすみませんと言いながら、どこかに向かっているようだ。少しずつ電話越しの音が静かになっている。
「よし!!お待たせしました。これでよく聞こえます」
どうやらモリモリは、電話が聞こえる場所に移動してくれたようだ。
だが、移動したところで今の私がどこにいるかわかる訳がないだろう。
「みのみの、目を閉じて集中してください」
何を言っているんだと思いながら、私は目を閉じた。
「何か音が聞こえませんか⁇」
私は耳を澄ませた。
電話の声が聞こえないくらい集中していると、左の方から何か聞こえたのだ。
「モリモリ!!聞こえた!!」
「よし!!それ、多分お祭りの音ですよ!!そっちに向かってください!!」
まさか、こんな方法で道を見つけられるとは思わなかった。
流石は頭の回転が速いモリモリだ。
私はワクワクしながら左の道を曲がった。
まっすぐ歩くと、また分かれ道があった。
私は目を閉じて音のする方を探すと、次は右側から先ほどより大きな音が聞こえてきた。
右の道を曲がった時だった。
神社が見えたのだ。
ここからはまだ距離があるが、もう迷う事はない。
「モリモリー!!神社、見えたよぉぉぉぉぉっ!!!!」
今にも泣きだしそうな声で叫んだ。
モリモリ、ありがとう。
君は天才だと叫びたい気持ちだ。
「あははーよかったでーす。じゃあ、歩いてる間は暇だと思うんで、この前の続きでも話しますよ」
「あぁ、お願いしますわ」
スキップをしながら、私はモリモリの話を聞いていた。
この前、居酒屋でやりたかったが、できなかった事についてを。
私とモリモリが一緒に召喚されたあのマンションの事件の日に、モリモリが言っていた『王子様抱っこ』についてだ。
モリモリと山田が大学生の時、サークルの飲み会があったそうだ。
会場は金持ちの子の家でやったのだが、そこは大きなホールで防音加工されていたそうだ。
最初は緊張して誰一人話さないで飲んでいたが、酒が入ってどんどんテンションが上がって暴れまわっていたそうだ。
そんな中、モリモリは先輩に何か一発芸は無いかと言われたそうだ。
そこで、モリモリは『王子様抱っこ』を言ったそうだ。
皆が興味津々で、モリモリにやってほしいと言ってきたので、モリモリは構えたそうだ。
片膝立ちをし、右腕は天を貫くような感じにピンっと伸ばして、左手は右手を支えるような感じに丸い円を描きつつ右手同様、上に向けるそうだ。
そして顔は手の先辺りを見るのだという。
周りは爆笑していたが、これで何をするのだと言っていたので、空から降ってくる人を抱きかかえるのだと言ったそうだ。
実際に見たいと言われたので、モリモリは監督になってそのシチュエーションを作る事になった。
そこで空気になってお茶を飲む山田を指名し、相手役はやってみたいと言っていた四年の女の先輩がやる事になった。
山田は嫌がっていたが、先輩権限と言われて渋々ポーズを取ったのだという。
その姿勢はいつもと異なり、山田をカッコいいと言う女子達がいたそうだ。
モリモリは相手役の女の先輩に手の先から胸元に飛び込めるよう、椅子か何かを使って飛び込んでくださいと説明したそうだ。
だが、先輩は酔っていた。
わかったと清々しい笑顔で返事をして、構える山田に向かって全速力で走っていったそうだ。
そして、山田の目前になったら、高跳びでもするかのようにベリーロールを披露したのだ。
だが、その先輩は運動音痴だったのだ。
思った以上に回転がかかり、山田の顔面に突っ込んでいったそうだ。
山田は気絶したが、すぐに起き上がったそうだ。
そして、飛び込んだ先輩とモリモリを正座させてお説教を朝までやったそうだ。
「それで、山田先輩は怒らせたら怖いって言われるようになったんですよ」
そんな事があったら、普通は切れるだろう。
そのサークルはモリモリのような脳みその人しかいないのだろうか。
「だから、本当はこの前の時にみのみのと山田先輩にやってもらおうと思ってたんっすけどー途中で合コンに参加してたので忘れてました!!」
そう言うとモリモリは笑っていたが、私は知っている。
あの日、モリモリは誰もいない席で一人で合コンをしていた事を。
もしかして、モリモリは私と同じような人間なのではないだろうか。
陽キャの皮を被って、実際は一人寂しく飲み屋で騒ぐ哀れな人……そう思うと、モリモリは身近な人間に感じる。
「そうそう、この前の合コンの時、写真も撮ってたんで、後でみのみのにも送りますよー」
そんな悲しい写真を送らないでと言おうと思った時だった。
何かに頭をぶつけたのだ。
「ぎゃっ!!」
「あっ!!」
私の悲鳴の後に、低くて耳に残る綺麗な声が聞こえた。
私は頭を抑えながら見ると、そこには私より少し大きい程度の綺麗な男性が立っていた。
そして、泣いていた。
「えっ……あっ……」
モリモリが電話越しに何があったか聞いてきているが、私は上手く喋る事ができない。
芸能人やアイドルみたいに整った顔で、サラッとした黒髪、綺麗な一重に暗闇を描くような黒い瞳……私の理想と言っても過言ではないくらいのイケメンがそこにいるのだ。
「あ……すっま……」
声を出そうとすればするほど、頭が反対回転しているようで言葉が出てこない。
段々と顔が赤くなってきていると、突然相手に手を
心臓が止まると言うのは、こう言う事なのだと実感した。
「……助けて」
その言葉を聞いた途端、景色が歪んだ気がした。
まるで映画で見るタイムスリップのように世界がぐにゃぐにゃになったのだ。
目が回りそうなので、ぐっと目を閉じてゆっくりと開いた。
すると、先ほどの男性はいなくなっていた。
辺りを見渡すと、先ほどとは異なり、木、木、木だ。コンクリートだった地面は土になっている。
「みのみの⁇何かありました⁇」
「私、また迷ったみたい……」
先ほどまで明るかったのに、木々が覆い被さっていて夜と言われてもわからないくらいには暗いのだ。
「えっ⁇どこにっすか⁇」
私はこの状況を見て、非常に驚いている。
これはもう発生しない物語だと思っていたからだ。
どこにいるかはなんとなくわかっている。
「ちょっと……樹海に」
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