蘇りの呪い
壱.初めての飲み会
「じゃあ、このまま家に帰るから」
私、
「わかったわ。次来る時は、お父さんがいる時にいらっしゃい。じゃないとお父さんが泣いて
母親はため息をついていた。
私の父親は今、海外にいるので会う事はなかった。
この前の岬での出来事の時には、実家にいたのだ。
母親が父親に、私が地元の海にいると話をしたら、一日中探し回ったらしい。
母親と異なり父親は私を溺愛し、かなり過保護なのだ。
「まぁ……運が良ければかね」
そう言って玄関のドアノブに手をかけた時、ふと思いだした。
「あっ、お母さん。聞きたい事もう一つあったわ」
振り返ると、母親は何かしらと首を傾げていた。
「昔さ、お母さんとお父さんの三人でお祭り行ったじゃん⁇あの時、私が迷子になってお化けにあったって騒いだじゃん⁇」
母親はあぁっあれねと、思いだしているようだ。
「あの時は、あんたがおかしな事を言ってるって話だったんだけどね、実は……」
要約すると、あのお祭りの日に迷子の私を
どうしてそれが分かったのかと言うと、他にも同じように
攫われそうになった子は皆、赤い着物にお河童の頭をしていたそうだ。
その話を聞いたある警察官がある写真を見せたのだ。
それは三年前に、娘が行方不明となって探し回っていた母親の写真だ。
当初は普通の母親だったそうだが、日を追うごとにおかしくなっていったそうだ。娘に似た他人の子を誘拐しようとして、よく警察のお世話になっていたそうだ。
最近は大人しくなっていたのにと警察官が家に行くと、そこには女性だった白骨化死体があったそうだ。
その子供たちが攫われそうになった時、兄妹や親が一緒にいたため攫われる事はなかったそうだ。
ただ、その女の人が見える人、見えない人がいたようなので私のように、子どもが変な事を言っていると聞かない親もいたそうだ。
「そう考えると、あんたって運が良いわよね」
母親はそう言って笑っていた。
あの時、握られた腕が緩んだのはちょうど太鼓が鳴り始めた時だった。
そのおかげで振り払って逃げられたのだが、本来なら行方不明だったかもしれない。
そんな状況だったのになんて楽観的な親だと思うが、もう終わった事だ。
謎は一つ解けた。
「……まぁ、いいや。じゃあ、良いお年を」
「はいはい、夜道には気をつけなさい。良いお年を」
母親の言葉に頷いて、私は家を出た。
外は昨日の雪は溶けているが、寒いのだ。
母親のコートを借りて着たが、まだ寒いとは……やはり冬は家の中に限ると後悔している。
今日の飲み会は夕方の五時と言われたので、夕日が沈む辺りに家を出た。
だが、陽のある時に出た方が暖かった可能性がある。
家でゴロゴロしていなければよかった。
飲み会の場所はここからそんなに遠くないので、私はゆっくりと目的地に向けて歩みを進めた。
お店に入ったのはちょうど五時を回ったところだ。
モリモリと山田を探そうとすると、モリモリが大きく手を振ってきた。
「みのみのー、こっちですよー!!」
席に案内され、私は席に座った。
モリモリが奥で、山田が手前の席、そして反対側を私一人が座っている状態だ。
なんとなく、重役みたいな気分がして良いものだ。
窓際の席なので、外もよく見える。
何か困ったら、外を見ればいいのだ。
「お疲れ様です」
山田が私に頭を下げてきたので、つられて私もオウム返しと共に頭を下げた。
「おっつーです!!はいはい、まずは飲み物を注文しましょー」
モリモリはそう言うと、メニュー表を真ん中に置いた。
山田はウーロン茶と言い、モリモリはカシオレと言う謎の用語を言った。
私はメニュー表をまじまじと見るが、決める事ができなかった。
「……水で」
「うぇ⁇みのみのーお酒苦手なんですか⁇」
「飲めるけど、……日本語が読めない」
ごちゃごちゃと書かれたメニュー表に、身体が拒否反応を出したのだろう。
何も文字が目に入らないのだ。
モリモリはケタケタと笑いながら、勝手にカシオレと言う謎の飲み物に決めた。
私が拒否する間もなく、モリモリは店員を呼んで注文をしてしまった。
最近ノリに乗っていたが、私は人見知りなのだ。
そして、こういう世界とは無縁だったために頭も身体もついてきていない。
今更、後悔するなんて遅すぎると下を向いている時だった。
横の窓からコンコンと音がしたのだ。
「それでは、改めまして自己紹介を!!僕は
その言葉通りの遊び人にしか見えない。
モリモリは茶髪で沢山のピアスを着けているが、顔は良いのだ。
それでこの間が抜けた性格なら、合コンに行かなくとも彼女を日替わりでいける気がする。
「はいっ、次。山田先輩!!」
そう言ってモリモリは山田の方を見る。
だが、何も喋らない。
何故なら、山田は怒っているからだ。
ボサボサの黒髪に、珍しく
そして、先ほどまでつけていた眼鏡を外したせいか、より目が鋭くなっている気がする。
そして、左の頬が赤く腫れあがっているのだ。
「じゃあ、お先に私が。私は美乃利ちゃんの友人の
そう言うと彼女は、私の隣でにこにこと笑っている。
サラサラのショートヘアで、モデルのように綺麗な顔だ。
先ほどの修羅場を起こした人間には見えない。
そう、先ほど窓をコンコンと叩いたのは、彼女だった。
席に来て山田の名前を聞くなり、山田をグーで殴ろうとしたのだ。
そのせいで、山田の頬は腫れているのだ。
私は彼女を急いでトイレに連れて行った。
そしてこの前のは嘘で、私は小説家で山田はその担当だと伝えたのだ。
彼女は少し罪悪感を感じた顔をしたのだが、親指を立ててにこりと笑った。
「美乃利ちゃんがムカついてたんだし、結果オーライじゃん」
「それで、窓の外に張り付いているのは……この前の後輩君⁇」
私は窓の外を指差す。
そこには、この前家まで送ってくれた後輩君の姿があった。
もこもこのジャケットに帽子を被り、手袋をしてだるま状態になっている。
困った時の外の景色が、窓に寄り添うように後輩君が張り付いてしまい何とも言えない状況になっている。
「後輩君もくればいいじゃないですかー⁇」
「彼は今日、アッシーになってくれたの。だから、出待ちしてもらってるの」
モリモリのナイスアシストも虚しく、彼女はきっぱりと断った。
モリモリもそっかーと言って流してしまったので、彼が席に座る事はなさそうだ。
それよりも、彼女はいつの時代の人だろうか。
「じゃあ、次はみのみの」
「あぁ……私は海藤美乃利です。小説を書いてます」
自己紹介を終えると、彼女はキャー素敵と言って拍手をしている。
モリモリも合わせて、拍手をしている。
山田は……未だにそっぽを向いている。
後輩君に至っては何を言っているかわからないだろうに、大袈裟に拍手をしていていたたまれない状況だった。
「じゃあ、そろそろ乾杯しましょ!!」
そう言うと、モリモリはグラスを持ち上げた。
いつの間に頼んだんだろうか、彼女も生ビールを片手に持っていた。
山田もグラスを持ち、後輩君は……エアグラスを準備していた。
私も黄色と紫色の不安を誘うような飲み物だが、腹を括るしかないとグラスを持った。
「じゃあ、みのみのにかんぱーい!!」
「かんぱーい!!」
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