参.玄関前は一時停止が必要
それは、ある小学生の女の子の話だ。
友人の誕生日会に呼ばれて、友人のお家があるマンションにやってきた。
その建物は見るだけでゾッとするような見た目だった。
全体的に汚れていて、外壁のツタがまるで廃墟のように見えてしまう。
人の家に対してなんて考えだろうと頭を振り、ゆっくりと階段を上っていく。
いつもと何か違うと思いつつ、友人の部屋の前でインターホンを鳴らす。
――だが、誰も出てこない。
不思議に思っていると、突然扉がガンガンと音を立てて揺れる。
ひっと声をあげて後ずさる。
扉がゆっくりと開き、隙間から手が出てきた。
その腕はどんどんと長くなり、女の子の腕を掴んだ。
「キャッ!!」
女の子は悲鳴を上げる。
力強く掴まれた手を振り払う事はできず、徐々に引っ張られていく。
隙間から見えるのは鬼のような顔をした婆がいた。
「いっ、いやぁぁぁっっっ!!!!」
女の子は必死に手を振り払い、部屋に入る直前で手が外れた。
外れた瞬間、女の子は全速力で階段に向かった。
とにかく逃げなければと……
階段を駆け下りると、途中で
足を擦りむいてしまったようで、血が出ていた。
その場で怪我の確認をして涙を流していると子供の声が聞こえた。
『……こわしたでしょ』
声のする方向に顔を上げる。
そこには小さな子どもが立っていた。
逆光になっており、顔がよく見えない。
「なんのこと……⁇」
女の子は恐る恐る聞くが、返事がない。
相手にしない方がよいかと思い、その子供を無視して立った。
そして深呼吸をしながら瞬きをした瞬間、目の前に先ほどの子どもの顔が現れた。
大きな瞳には黒目が無くて真っ白だ。
髪の毛は何かが塗ってあるのか固まっている。
顔はまるで成人した男性のようで、厳つく怖い顔だった。
『ぼくのもの、こわしたでしょ』
子どもは指を差す。
指差す先は私がコケた位置辺りだった。
そこには潰れたクレヨンがあったのだ。
「えっ、ご……ごめんなさい」
『かえして』
「えっ」
『かえして、かえして、かえして、かえしてかえしてかえして』
壊れたラジオのように繰り返し呟く子どもに恐怖を感じ、後ずさると壁にぶつかった。
ふと、壁を見ると壁一面に異様な落書きがされていた。
真っ赤な人の絵、首が飛んでいる人の絵、身体がバラバラの人の絵……
恐怖で震えていると、上から足音が聞こえてきた。
――ズリッ、ズリッと引きずるような音……
ゆっくりと手が見えてヌッと顔を現したのだ。
それは先ほどの婆だった。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
女の子は足の痛みも忘れて、必死に階段を降りる。
三階、二階、次が一階だと階段を駆け下りている途中で足を止めた。
出入口の横にポストがあるのだが、そこに不自然に感じる女がいたのだ。
長い髪を結ばずに下ろしていて、顔がよく見えない。
よれたスーツを着ていてポストに頭を打ちながら、ずっとブツブツ何かを呟いている。
女は視線に気づいたのか、こちらに視線を動かしニタリと笑った。
そして勢いよくこちらに向かって歩いてきた。
女の子は声も出ない状態で、必死に階段を上る。
そんなに長くない階段のはずなのに、永遠ともいえるほど長い階段だ。
いつになっても四階から階数が増えない。
後ろを振り返ると、女はもう目前まで来ていた。
女の子は必死に走り、とにかく走り続けた。
すると、目の前に扉が見えたのだ。
助かったのだと安堵をして扉を引っ張るが、開かないのだ。
ガンガンと力強く引っ張るが、扉はビクともしない。
「なんで……なんで……」
女の子はそこで扉を引っ張るのをやめた。
扉が開かない時点でもう逃げ道はないのだ。
震えながらゆっくりと後ろに振り返る。
だが、そこには誰もいない……
女の子はその場にへたり込み泣き出した。
涙が涸れたくらいだろうか。
女の子はゆっくりと立ち上がり、早くお家に帰ろうと階段を降り始めた。
先ほどとは違い、四階、三階、二階と階数は徐々に下がっていった。
一階のポスト前には、先ほどの女はいなかったのだ。
安堵して、玄関前までたどり着いた時、目の前に人が落ちてきた。
女の子は恐怖で硬直し、ゆっくりと目線を地面に向ける。
溢れんばかりの血を流す女、先ほどの女がこちらを見つめている。
血走った目でこちらを睨みながらこう言ってきた。
『ニガサナイカラ』
「はい。そして、少女は行方不明になりました」
私は話が終わり、一人で拍手をしている。
話が長いのでその場で
モリモリは正座をしながら、真剣な顔をして悩んでいた。
「わかりました。解決方法……」
モリモリが真面目な顔をしてこちらを見てきた。
「あっ、わかっちゃいました⁇私でも簡単な気がしたんですけど」
「つまりは、玄関でぐるぐる回っている女性を王子様抱っこすればよいという事ですよね⁇」
「ちげぇよ」
真面目な顔をしてこいつは何を言っているんだと、私は呆れてしまった。
「本来ならあの女はループしない予定なんだけど、バグっちゃったみたいなのよね」
もし周りに人がいるのであれば、この会話をゲームか何かの話だと思われるだろう。
それぐらい変な話をしているのだ。
「つまりは、女の子が諦めた扉、屋上の扉を開ける事ができれば助かったって話なの」
モリモリは驚いた顔をして、私を絶賛してくれる。
まぁ、作者ですから⁇天才ですから⁇と鼻を長くして魔女のような笑い声をあげた。
「なので、とりあえずは婆の家を見つけに行きましょう」
「えっ⁇なんで⁇」
不思議そうな顔をするモリモリに対して、私はニヤリと笑う。
「フラグは回収しないと、その先のイベントが発生しないでしょ⁇」
そう言うと私は立ち上がり、エレベーター脇にある階段を目指して歩き始めた。
モリモリも急いで立ち上がって追いかけてきた。
「おぉっ!!流石はみのみの!!でも、屋上の扉は開かないのに、大丈夫なんですか⁇」
「ふふっ、私に任せなさい」
コンコンと音を立てながら、階段を上る。
私は知っている。
この物語を作るきっかけとなった話では、屋上の扉の開け方を教えてもらったから。
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